番外編 ダークサイド

迂回

【 ９ 】 依存性

眠る事を目的として、
白い錠剤を飲み込んだのは、


初めて、だった 。……



若いとはいえ、  

脳も、体も、ちゃんと疲れる。



自分の体を労る為に、アタシは、

眠ろうとしている訳じゃなく、



シド との 別れを忘れる為以外に、



乱暴に、

ＳＭの世界へ引きずりこまれた、

その現実から 、


逃避したかったのかもしれない 。



目隠しをされた時の、

完全に暗くはない、

うっすらと光が滲むあの明るさと、



今、まさに、

眠ろうとして瞼を閉じているのに、


薄っぺらい安いカーテンから滲む、

太陽の強い日射しが瞼を照らす、

この微妙な暗さが、


とてもよく似ている…… 。




白い錠剤がもたらす、

眠気という柔らかなベールが、


神経が過敏に波打つアタシに、

触れるか触れないかの感覚で、

優しく包み込もうとする 。



アタシは、

いつも引き裂いてきたそのベールを、


今は、引き裂く気など無い 。


無いのに …… 。



長時間、

目隠しをされていたあの感覚が、

今もアタシの脳裏に焼きついて、

離れようとはしない 。


この部屋の、

薄っぺらい カーテン のせいで 。



眩しく感じる両瞼の上に 、

アタシは手首を当てて、

瞼を隠せるぐらいの、


狭く、小さな、黒い闇を作る 。



手首が、鼻先に当たった瞬間、

手錠をされていた感覚まで、

思い出してしまった … 。




「 …… あぁっ！！ もおっ…… ！！」


苛立ちながら、

やり場のない怒りを叫び、

体を横向きにする 。




あの時 …… 、


嫌がるアタシを無視して 、


シンジは、


アタシの花肉にツバを塗って、


変な物を出し入れしてきた … 。


強い振動が 、

気持ち悪さと 、気持ち良さを 、

両方連れてきて …… 、



アタシは強制的に 、

何度もイカされた 。



屈辱的 、だった 。


望んでいない、快楽に、負けた。



あの時の悔しさが 、

今 、怒りをまた生み出し … 、


柔らかなベール が 、  

無意味になろうとしている 。



薬 と 、酒 と 、寝不足 で 、


アタシの頭の中は 、


自分の手から離れている 。




ゆらり… と 、上半身を起こし 、


不機嫌そうな顔で 、 


また、部屋の中を見渡した 。




       「……  あった 。」




目にした それ に 、

アタシは手を伸ばす 。



「 …… はあぁぁ～～ …… 」


呆れたように、

長く 、深いため息をこぼし 、



アタシは それ で 、


目隠し を した 。




眩しくて 眠れないなら 、


眩しくて 思い出すなら 、



さっきまで使われていた布で 、


また、目隠しをして、

無理に眠るしかない 、と思った 。




 
       皮肉な話  だ  。






       だけど、その 皮肉のおかげで 、





       アタシは すぐに、 眠れた …