番外編 ダークサイド

手のひら返し

【 ８ 】 色恋沙汰

海を見ていたら、


アタシのバッグの中から、

携帯電話が鳴り響いた 。



出ようかどうしようか、

一瞬 躊躇したけれど、


アタシはそれに出る 。



「 はい 」

眠たいアタシの声とは対照的な 、



「 アンジュー！おはよー！」


太陽を脇役に変える程の、


明るく元気な、



テルの声が頭に響く。



       
       あぁ～ … 忘れてた 。




「 うん 」


アタシは、

運転中のリュウジをチラッと見る。


リュウジと目が合った 。



「 全っ然 ！メール返事しねーな！


電話にも出ねーし！


凛花も、

姉ちゃんも心配してるぞ！


俺もな！」



明るい声の説教は 、嫌いじゃない。


テルだから、なのか… ？



「 …… うん。」



リュウジに若干気を遣いながら、

アタシは小さな声で返事をする。



「 今から会うか！


俺さっき、メンバーと、


レコーディング終わったとこ！」



「 あっ、あぁ～… 、ごめん、」




レコーディングの後 、


グルーピーな女とヤッたんだろ？




ずいぶんスッキリしたテルの声に、


アタシは気付かなくていい事に、
気付いてしまう 。



       
       アタシは これから 、



       スッキリ 出来るんだろうか？




また、リュウジに目線を向けると、


リュウジもまた、


アタシを見ていた。



「 もう、

二週間近く会ってねーじゃん！


ていうか、今 どこいんだよ？


風が ボボボボボッっていってるぞ」



車に乗ってる……って言ったら、

またややこしくなるな… 。



「 なんか… 、電波悪いみたい。


切るね 。じゃあ、また 」



アタシはそう言って、

テルとの会話を途中で遮断した 。


携帯電話をバッグにしまい込む 。



「 誰 ？ 」


リュウジは前を見て運転しながら、

アタシの右太ももに、

手を乗せてきた。



「 あー …… 、」


車の天井に目を向け、

アタシが言葉を探し始めると、



今度は、アタシの携帯電話から、


メールの受信音が鳴る 。



無言なまま、

携帯電話の画面を見ると、


テルからのメールがきていた 。









     《 赤ウィンナー食いて～なぁ 》





アタシは思わず笑ってしまう 。



たった一行の、その文章に 。




「 …… 何それ、弟から ？」



リュウジの声に、一瞬驚き 、


アタシは彼の顔を見た 。


彼は顔を近づけて 、

アタシの携帯電話を見ていた 。



勝手にメールを読むリュウジに、


何故か解らないけど、


アタシの背筋が ゾワゾワッとする。




また、携帯電話をバッグにしまう。




しまっている最中に、


リュウジはアタシに笑顔で言った。





      「 あっ、俺  嫉妬深いから 」