番外編 ダークサイド

手のひら返し

【 ７ 】 色恋沙汰

空の青の美しさに 目もくれず 、


アタシは、 歩く 。



美咲に言われた言葉が、

アタシの頭の中で、

何度もリピートするけど、


考えても仕方がない、と割り切る。



リュウジに指示された場所に着くと、


太陽の光と青空を脇役に変える程、


派手な黄色の 、


シボレー カマロが停まっていた。



リュウジが先にアタシを見つけ、

クラクションを短く鳴らす 。


運転席から少し身を乗り出し、

小さくアタシに手を振っていた。


アタシは軽く微笑む 。


レザーシートの助手席に乗ると、

彼はアタシの顔をしばらく眺めた。


メイクは、直していない 。

酒でむくんだ、腫れぼったい顔 。

薬と酒に覆い被された、

すわった目のアタシを見て、


「 可愛い 。」と言って、


彼は勝手に、アタシにキスをする。


お金の発生しないキスだけど、


今夜… 
今朝の寝床を提供してくれた、


彼への宿泊代だと思い、

アタシは黙って目をつぶる 。



       可愛い … ？ どこが … ？



真実味の無い、渇いた声に聞こえた。



      " アンジュちゃん、可愛い…"



ふと、頭の中で 、


別れたシドの声を思い出した 。



         シド の 言葉なら 、


       簡単に 、信じられるのに … 。




「 俺んちに行く前に 、

何か買っていく？コンビニ寄る？」



マフラー音を力強く唸らせながら、

リュウジはアクセルを踏み込み、

車を走らせていく 。



       うるっせー車だな …… 。


       乗り心地の悪い 、鉄の塊 … 。



乗り心地が悪いのは、


車のせいじゃなく、


アタシ の 居場所ではないから 。




      「 ビール と、煙草買ってく。」




アタシを、


唯一 落ち着かせてくれる、


唯一無二の１セットを、


今、すごく欲していた 。




       この１セットがあれば 、


       アタシの体が 、


       アタシだけのものならば… 、


       
       生きていける、どこでも 。




      " 私 " が 、いなければいいのに 




アタシは 、


全開な窓から流れる風に、


髪を揺らしながら 、



繰り返し波打つ海を眺めていた 。