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手のひら返し
【 1 】 色恋沙汰
しおりを挟む「 千葉さんねっ、私の彼氏なの♪」
リュウジと手を振り別れた後 、
アタシ達はまた、
チバちゃんのクラブに戻り、
美咲と並んで、
カウンター椅子に座っていた 。
アタシがビールの瓶に、
三日月型のライムを指先で押して、
始めの一口を飲んだ瞬間 、
薬が抜け始めてきた美咲が、
アタシに耳打ちしてくる 。
「 ブフッ…… !」
アタシは思わずビールを吹き出し、
唇を手で抑える 。
美咲は手を叩いて爆笑した 。
薬がまだ抜けていないアタシは、
瞳孔が開いたままの両目で、
驚愕な表情を浮かべて、
美咲を見た 。
「 嘘だろ? 」
「 ほんとだよぉ~♪ 」
美咲はまた、
何とも言えない、
毒々しい色のカクテルを一口飲む。
軽い鼻歌まじりで。
「 だって!!… 」
アタシの大声に 、
ずっと向こう端で接客をしていた、
チバちゃんがアタシ達の方を見る。
美咲はすぐさま、
チバちゃんに手を振った 。
彼は遠くから美咲を指差し、
彼女に投げキッスを送る 。
空中で、美咲はそれを握り、
自分の口の中に入れて笑った 。
アタシは、
そんな2人のやりとりを、
若干 冷めた目で見守る 。
改めて、
瓶ビールを一口、二口、
飲みながら 。……
「 ねっ?♪」
美咲はアタシに得意げな顔をする。
「 ねっ?♪ 、って言われても… 」
アタシはチバちゃんを見て、
視線に気付かせる。
チバちゃんは、
すぐにアタシの視線に気付き、
投げキッスを送ってきた 。
「 なっ?♪
…… 誰にでもやるじゃん (笑) 」
アタシは呆れ顔を美咲に向けた 。
美咲は、余裕な笑顔で笑う 。
「 私には特別なやつくれるもん♪」
何だよ、それ 。
「 ていうかさ、
チバちゃん… 、47歳、だっけ?
ロリコンじゃねーか (笑) 」
煙草に火を付けて、
アタシは遠くを見る 。
19歳の美咲に…… 47歳 … 、
「 ロリコンじゃないよぉ~!
だって私、27歳だから。」
美咲の言葉に衝撃を受けて 、
アタシは、
吸っていた煙草にむせる 。
「 何それっ! 嘘だろ?
意味わかんないっ!!! 」
騙された気分になり、
何故か少し苛立つ 。
「 あれぇ~?
言ってなかったっけ… ?
あっ!初めて言ったみたい!アハッ」
能天気な笑い方をしながら、
美咲はカクテルを全部飲み干す。
「 ………… 」
えっ? ちょっと待って。
じゃあ、アタシ…… 、
8歳も年上の人を、
タメだと思ってた訳 ?
で、さっきまで、あんな事… 。
ていうか、
27歳が… 19歳に甘えてたの?!
えっ、解んない、わかんない… !!
「 アンジュを初めて見た時 、
私と同じ歳かと思ってたのぉ!
でもね、さっきタクシーで、
リュウジ君と、
年齢の話をしてたじゃない?
ビックリしちゃった!
本当に、サバ読んでないの? 」
「 読んでねーわ!
ていうか、そんな老けてる? 」
アタシの勢いに圧倒され、
美咲が口を半開きにして驚く 。
「 あっ、なんか… すいません。
老けてる、とか… 」
気まずい空気が苦手で、
動揺を隠すように、
アタシは深く煙草を吸い込んだ 。
「 あはははっ!気にしないで!
いつも通り、タメ口でいいよぉ♪
私も、その方が楽だしぃ♪
飴ちゃん食べる? 」
美咲はアタシに気を遣い 、
ANNA SUI のショルダーバッグから、
小さな紙に包まれた、
イチゴミルク味のキャンディーを取り出し、
アタシに手渡そうとしてきた 。
「 あっ、いらないっス 。」
アタシは片手を美咲に向けて、
拒否。
「 なんでぇ~?(笑)
はいっ! どうぞっ♪ 」
美咲は、
アタシの飲んでいる瓶ビールの横に、
強行突破して無理やり飴を置いた 。
「 …… いつも、そのバッグだね。
そんな小さいバッグに、
何入ってんの? 」
アタシは、ふと気になり、
彼女のバッグに指を差す 。
「 イチゴミルクキャンディーと、
携帯電話 、のみ!」
「 財布は ? 家の鍵とか 。」
「 お金は持たない 。
男の人が毎日くれるから 。
鍵は持たない 。
千葉さんが開けてくれるから 。」
「 えっ?
チバちゃんと一緒に住んでんの?」
「 うんっ♪
あっ、でもぉ~ 、
千葉さんが誰かをお持ち帰りして、
部屋でヤッてる時は、
鍵開けてくれないけど 。」
「 …… うわぁぁ~ … 」
アタシは、
苦いものを口にした様な顔になる。
「 家、入れない時、どうすんの?」
「 ドアの前で、体育座りっ♪ 」
大人って… 、大変なんだな…
「 あっ、このバッグね、
私のママが買ってくれたの!
最後に 。」
美咲の話した最後が気になり、
アタシは聞き返す 。
「 最後 、って? 死んだの?」
「 わかんない。
10年前の話だから … 。
私ね、子供の頃から、
性的虐待を受けてて…… 」
「 ちょっ、ちょっと待て!
急に話が重いな !(笑) 」
「 …… アンジュは、なんで、
薬 … 、やり始めたの …… ?」
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