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創世
【 8 】 青空のない世界
しおりを挟む「 あっ…… 、」
さっき、
声をかけてきた男の目の前で、
アタシは一瞬、足を止める 。
美咲が不思議そうに、
「どうしたのぉ~?」と、
アタシの顔を覗き込む 。
" 私 " が、起きちゃった … 。
「 …… アレ、ある?」
上目遣いな美咲の目を見ると、
「 あるよぉ~、ほいっ♪」
彼女はニコニコしながら、
肩から下げている、
ANNA SUI のショルダーバッグを、
ガチャガチャとまさぐり、
アタシの手のひらに錠剤を渡す。
「 いつもありがとうな 。」
アタシがそう言うと、
彼女は、
メイクが落ちるんじゃないか?
ってぐらい、
アタシの二の腕に顔をこすりつけて、
喜びを伝えてくる。
変な喜び方 。
だけど、少し、可愛いと思った。
「 お待たせ 。」
さっきまで踊り狂っていて、
" アタシに話しかけんな "オーラを、
振り撒いていた顔つきから一変して、
嘘の優しい笑顔を男に向け、
アタシは男の肩に手をのせる 。
長く伸ばしたアタシの爪先は、
紫色のラメが光輝いていた 。
悪魔のような爪先で、
男の肩を撫でると、
男は嬉しそうに、
アタシの腰に腕を回してきた 。
VIP席を隠すように吊るされた、
黒いレースのカーテンには、
金色の刺繍が縁取られている。
隠したいんだか目立ちたいんだか、
よく分からない仕切りのカーテンを、
男はめくり、
アタシ達を招き入れる。
この席は、特別に料金が高い 。
だけどアタシが払う訳ではないから、
その価値はよく分からない。
そして 、
アタシは毎晩、座っている。
隣りに座る男が、
日毎に変わるだけ。
席に座っている、
ラッパー風な男が2人 、
レースのカーテンをくぐり抜けて、
入ってきたアタシと美咲を、
全身舐め回すように眺め、
見とれている 。
ラッパーに興味は無い 。
「 アタシは、お兄さんがいいな。」
隣りでアタシの腰に手を回している、
少しだけタイプな男に、
アタシは甘えた声で耳打ちをした。
「 俺も、君の方がいいな 。
名前は ?」
「 アンジュ 。
呼び捨てでいいよ 。
" ちゃん付け " は、嫌いなの 。」
そう言って、
アタシは隣りの男の腰に手を回す。
男の目を真っ直ぐに見つめると、
彼は慣れた笑顔を浮かべながら、
「 アンジュね!いい名前だね。
俺は、リュウジ 。
あっちに座ろう 。」
と言って、
L字型牛革ソファの、
短い方を指で差す 。
ゆったりと2人で座るには、
幅広く丁度いいサイズのソファ。
アタシが頷き、
リュウジと2人で座ろうとすると、
「 いやぁ!ダメッ!!
アンジュは、私と座るんだから!
取らないでぇー!」
と、突然美咲が騒ぎ始めた 。
毎晩、彼女はこうなる 。
アタシの事が好き過ぎて、
アタシが他の男と2人になるのを、
敏感に嫌がって、
駄々をこね始める 。
薬の発作なのか 、
彼女の本音なのか 、
いまだに解らないけれど 。
「 巨乳の姉ちゃん、
俺らの間に座んなよ 。」
ラッパー2人組がニヤニヤしながら、
美咲に手招きをする 。
「 やだ!ヤダ!絶対ヤダ!」
「 アンジュと座るんだからぁ!
お兄さん、触んないでよぉー!」
彼女は、
リュウジの手を掴んで睨んでいる。
3歳児なみに、
言うことを聞かない彼女を、
アタシは優しい口調でなだめる。
「 わかった。一緒に座ろう。
アタシが真ん中に座るから。な?」
美咲は、
強くアタシの腕にしがみつく。
「 …… 3人、座れるよね?
広いソファだし。いい?」
美咲に向けていた、
優しい目線と口調はそのままに、
アタシは、リュウジの顔を見る 。
「 いいよ。仲良いんだね!(笑)」
リュウジも優しげに笑い返した。
なかなかいい笑顔をしてる 。
最近ヤッた男の中では 、
一番タイプかもしれない 。
今夜は、この男で済まそう 。……
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