番外編 ダークサイド

rosebeer

文字の大きさ
上 下
5 / 117
創世

【 5 】 青空のない世界

しおりを挟む


ベッドの上に放り投げていた、
紫色のガラケーが鳴り響く。

無表情なまま、
アタシは電話に出た。


「 アンジュ~?用意できたぁ?

もう、家の前に来てんだけど。」


舌ったらずな、
アホ丸出しな話し方の美咲。


アタシは壁掛け時計に目を向ける。


17:30 。



「 …… もうキメてんのかよ。

今行く。」


ため息まじりにそう言って、
アタシは電話を切った。


先日、
名前も知らない男が買ってくれた、
ブランドバッグを肩に掛け、

私は部屋を出た。


家の前に停まっている、
黒い箱車のアストロが、

馬鹿みたいにウーハーを、
ウチの階段にまで響かせていた。


階段を降りようとした時、

さっき仕事から帰宅したばかりの姉が、
部屋のドアを開けて私を見る。

目が合った瞬間、
アタシから目を反らした。
無言のまま。



「 … うるっせー車だな。

あんた、あんな奴らとつるんで、

馬鹿やってんじゃないでしょうね?」


アタシを睨みつけている視線を、
横顔に強く感じる。


返事をしないアタシに、


「 シンナーと、

覚醒剤だけはやるなよ?」


姉は、たて続けにそう言ってきた。



「 …… 解ってるよ。うるせーな。」


アタシが言い終わる直前で、


姉の左手が、
アタシの胸ぐらを掴んだ。


そのまま持ち上げられそうな勢いで。



「 てめぇ、

誰に向かって口きいてんだ?」



殺意しか感じない、姉の低い声。



アタシはため息を深く吐いてから、

「わかったわかった。

ごめんごめん。」と、

アタシの胸ぐらに手をかけた、

姉の手を掴む 。



「 …… しっかりしなさいよ。

あんたらしくない。」


姉は、アタシから手を離した 。



さっきとは違う、

強く、殺意的な視線ではなく… 、


哀しみ と 、心配な視線を感じる。



だけど、アタシはそれを無視する。





       アタシ の 痛み は 、



       アタシ と 私 にしか 、



       解んないでしょう … ?




言いたかったけど 、


敢えて 、それは言わずに 、


アタシは居心地の悪い家を出ていく。






       アタシの居場所は、



       ここではないから 。……









しおりを挟む

処理中です...