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創世
【 5 】 青空のない世界
しおりを挟むベッドの上に放り投げていた、
紫色のガラケーが鳴り響く。
無表情なまま、
アタシは電話に出た。
「 アンジュ~?用意できたぁ?
もう、家の前に来てんだけど。」
舌ったらずな、
アホ丸出しな話し方の美咲。
アタシは壁掛け時計に目を向ける。
17:30 。
「 …… もうキメてんのかよ。
今行く。」
ため息まじりにそう言って、
アタシは電話を切った。
先日、
名前も知らない男が買ってくれた、
ブランドバッグを肩に掛け、
私は部屋を出た。
家の前に停まっている、
黒い箱車のアストロが、
馬鹿みたいにウーハーを、
ウチの階段にまで響かせていた。
階段を降りようとした時、
さっき仕事から帰宅したばかりの姉が、
部屋のドアを開けて私を見る。
目が合った瞬間、
アタシから目を反らした。
無言のまま。
「 … うるっせー車だな。
あんた、あんな奴らとつるんで、
馬鹿やってんじゃないでしょうね?」
アタシを睨みつけている視線を、
横顔に強く感じる。
返事をしないアタシに、
「 シンナーと、
覚醒剤だけはやるなよ?」
姉は、たて続けにそう言ってきた。
「 …… 解ってるよ。うるせーな。」
アタシが言い終わる直前で、
姉の左手が、
アタシの胸ぐらを掴んだ。
そのまま持ち上げられそうな勢いで。
「 てめぇ、
誰に向かって口きいてんだ?」
殺意しか感じない、姉の低い声。
アタシはため息を深く吐いてから、
「わかったわかった。
ごめんごめん。」と、
アタシの胸ぐらに手をかけた、
姉の手を掴む 。
「 …… しっかりしなさいよ。
あんたらしくない。」
姉は、アタシから手を離した 。
さっきとは違う、
強く、殺意的な視線ではなく… 、
哀しみ と 、心配な視線を感じる。
だけど、アタシはそれを無視する。
アタシ の 痛み は 、
アタシ と 私 にしか 、
解んないでしょう … ?
言いたかったけど 、
敢えて 、それは言わずに 、
アタシは居心地の悪い家を出ていく。
アタシの居場所は、
ここではないから 。……
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