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コーラルピンク
5. アイデンティティ
しおりを挟む定時の17時。
エリーは、両腕を天井に向かって上げ、
しばらく座りっぱなしだった体を伸ばす。
厄介だった顧客の塚田さんは、
新が担当してくれる事になり、
同期のレントからは
誕生日プレゼントを貰い、
今日 面談したお客様達は
みんな礼儀正しくて、
いい人達ばかりだった。
「 今日は、なんていい日なんだろう 」
24歳になった誕生日が、
とっても素晴らしい1日になった事に
感謝しながら、
エリーは 目を閉じて、
「 ありがとう 」 と、呟いた。
椅子から立ち上がり、
エリーは
副社長がいるデスクへと向かう。
「 お疲れさまです 」
「 あ、お疲れさん 」
サムライは、
エリーの顔をチラリと見た後、
真剣な顔で パソコンを打ち始めた。
「 ………… ……… 」
「 ……… … ? …… … 何や?」
目の前に立ち続けるエリーが気になり、
サムライはまた、顔を上げた。
「 副社長♪ 私、今日お誕生日です!」
「 お、おぅ。おめでとう。…… で?」
「 飲みに行きましょうよ♪
久しぶりに、みんなで!」
「 あー ー … 」
サムライは、苦笑いを顔に浮かべた。
「 あれ? 社長は? 全然戻ってこない… 」
「 あー … 、うーん、」
サムライの、仕事モードだった顔つきが、
一瞬 困惑し始める。
「 社長、忙しいのかな?
連絡しましょうか?」
エリーは、バッグからスマホを取り出す。
「 いや、やめとき。今は 」
サムライは片手を出して、
ストップ!の合図をする。
「 何でですか? 取り込み中?」
「 いや、うーん、とにかく やめとき 」
「 えーっ! 行きましょうよー!
社長も呼ばなきゃ!
去年行った お店に行きたいなぁ♪
ニューハーフショーが観たいんです♪」
サムライと エリーの間に、
埋まりきらない温度差が生じていく。
「 俺は… 、ちょっと今日は
そういう気分じゃ… 」
サムライが言いかけた時、
デスクの上に置いてあった
彼のスマホが鳴る。
スマホを手にし、
液晶画面に映った着信名を見た彼は、
一息 ため息をついてから、電話に出た。
エリーに、 " ちょっとそこで待て " と、
手のひらを見せて、
無言の合図を送った。
「 おー、おまえ これから、
" ブラックダイヤモンド " 行くか?
…… 急に、って。エリーが誘っとんねん 」
サムライの口調を 目の前で聞いて、
エリーの両目が一気に輝く。
「 社長ぉーっ! 行きましょうよー♪」
サムライのスマホに向かって、
エリーは可愛く大きな声を出した。
サムライは少し困った顔で笑いながら、
エリーに向かって 唇に人差し指をあて、
" しー!" と、
静かにするよう 合図を送る。
「 …… 俺が言い出したんちゃうわ。
そんなテンションちゃうやろがい。」
「 …… ん? 喧嘩中だった?」
エリーは 一瞬で空気を読み、
静かに 笑顔で サムライに手を振って、
" もう結構です。お邪魔しました "
と、もの解りのいい態度を見せる。
サムライは 紫空と電話で話しながら、
エリーに " すまん " と、手で合図をした。
「 レンちゃーん! 新ちゃーん!
ニューハーフショー 観に行こう!」
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