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コーラルピンク
3. アイデンティティ
しおりを挟む紫空が、粋さんから分け与えられた
不思議な能力を持っている事に、
気付いていながらも、
長い年月を経て、
それを 一言も 口に出す事は無く、
それに 一度も 頼る事は無かった、
そんな彼を、" 彼らしい " と、
紫空は 思った。
「 私の事 … 」 気持ち悪く ないの?
途中まで言いかけて、彼女は 止めた。
答えを知るのが、怖かったから。
「 もう、着くぞ 」
サムライは、
たった一言だけ そう言うと、
表情が、仕事モードに切り替わった。
それは、彼の横顔だけでも
十分に解った。
それに比べて、紫空は … 、
" 社長 " には 相応しくないくらいの、
まるで 、
少女のような 顔つきになっていた。
焦りだけが、彼女を 飲み込んでいく。
サムライは、紫空に
横顔だけを 見せ続けたままの状態で、
そんな彼女に気付いたのか、
また、さっきのように 手を握ってきた。
温かい 手。 私の、大好きな人の手だ。
「 … 私は、あなたを、愛してる 」
「 着いたぞ 」 彼は、
紫空から 握っていた手を 離した。
エレベーターの扉が 開くと同時に、
サムライは 足早に前へと歩いていった。
そこに、レディーファースト
なんてものは なかった。
歩いていく、彼の背中を
紫空は 、
動けないまま しばらく眺めていた。
私は、何を 言ってしまったんだろう…。
酷い後悔が、紫空を 覆い尽くす。
紫空が 、サムライ に、
初めて伝えた 愛してる、だった。
「 言わなきゃ、良かったな 」
紫空は、閉まるドアに守られるように、
うつ向き、泣きながら
ロビーに戻る 一階のボタンを押した。
紫空を乗せたエレベーターは、
また、来た道を 静かに戻っていく。
人生は、こんなに 簡単に 戻れない。
ボタン1つで、戻れない 生き道 だ。
泣いてしまった以上 、
戻せない事を
ただただ 悔やむしかなかった。
「 言わなきゃ 良かった 」
泣きながら、笑い、また 泣いた。
仕事になんて 戻れない紫空は、
それでも 仕事に戻っていったサムライに、
背中を向けて 歩いた。 家路へと。
" 愛してる " なんて、言わなければ、
今頃 、サムライの隣りにいた。
今頃 、午後の仕事を 再開できていた。
愛してる、なんて 言わなければ
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