それ以上の幸せ。～ attend ～

かたちないもの

３. 空

唯音からの 妊娠報告を受けて、
母親は、朝から泣き出した。

孫が出来て、嬉しいからじゃない。

唯音の寿命が短くなる事を、
目の当たりにしたから だ。

唯音は、それを解っていながらも、
ずっと ニコニコ笑顔を保ち、
俺の母親を 宥なだめていた。


      俺には、何も 出来なかった。

      彼女の笑顔を、尊重そんちょうする事しか。



その日の夜、
本来なら仕事に行くはずの唯音の両親は、
唯音の家に留まり、俺を呼び出した。
ものすごい剣幕で。


…  新が、唯音の家の玄関に着くなり、

仁王立ちで待ち構えていた唯音の父親が、

新の顔を 思いきり平手打ちする。


「 馬鹿野郎！」


唯音の父親は、顔を真っ赤にさせながら、
涙を浮かべて 新に怒鳴り散らす。

新は、叩かれた頬に手を当て、うつ向く。


「 … … すみません 」

謝る、べきなんだろうか… ？

解らないまま、新は 謝った。


「 新！！ おまえは、おまえだけは、

私達と同じように、
唯音を大事にしてきたんじゃないのか？」


唯音の母親は、
唯音の父親のすぐ隣で 顔を両手で覆い、

今朝の自分の母親のように泣いていた。


「 あの子が、

子供を産めばどうなるのか！

解りきっていたはずだろう？！」


" 何故、おまえは 避妊ひにんをしなかった？ "


新には、遠回しに そう聞こえていた。


何故、しなかったんだろう… 。

コンドームを付ける事より 優先したのは、
自分が射精する際の快楽の為、
なんかじゃない。

そうじゃないんだ。


だって 俺は、そんなものより…


あいつの体の体温や、

あいつが生きてる事を実感できる
粘膜の温かさを、

自分の体で確かめたいだけだったんだ。


だけど、説明できない。唯音の両親に。


そんな、具体的な理由なんて。


それに、その理由が 何より、

俺の エゴ だ、って 解っているから。