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金糸雀
5. カナリア
しおりを挟む学校に行く途中で、
新と唯音は必ず、
数回 休憩を取って、歩むのを止める。
走る事が出来ない彼女は、
長時間 歩き続ける事も困難で、
極力 彼女の心臓に負担をかけない様、
様子を見ながらの登校になった。
まだ小さい、子供の頃から
それは ずっと続いていて、
新にとっては 見慣れている、
当たり前な 生活の一部になっていた。
だから、新と唯音は、
人より早く起きて、
人より早く朝ごはんを食べて、
人より早く 家を出なくてはならない。
そうして、
ようやく学校に辿り着く頃には、
他の生徒達と足並みを揃えて、
学校の門をくぐる事が出来る。
遅刻ギリギリで、
猛ダッシュで走り抜けていく、
生徒達の背中を 目で追いながら。
決して走らず、
新は、走れない唯音の手を引いて。
今日も相変わらず、
そんな朝になると思っていた。
いつもなら通り過ぎていく、
コンビニの前まで歩いてきた時、
突然 唯音が歩む足を止めた。
「 どうした? 休む?」
新が、
背の低い唯音の顔を 横から覗き込む。
唯音は 胸を抑え、小さく頷いた。
「 水、買ってくる。そこ座ってろよ 」
コンビニの駐車場にある、
車輪止めを指差しながら、
慣れた口調で 新は言った。
唯音は また、小さく頷いた。
声を出す気力が無い 無言の頷きは、
相当痛いか、相当苦しいかの合図だと、
幼い頃から彼女を見てきた新には、
よく解っていた。
彼女の背中に手を当てながら、
彼女の片方の手を掴み、
車輪止めに ゆっくりと座らせる。
「 待ってろ。すぐ来るから 」
うつ向いている彼女の後頭部に、
新は声をかけ、
初めて入るコンビニの入口まで向かう。
入口付近で、
ガタイの大きい男と 小柄で細い男が、
ギターとベースの話をして、
盛り上がっていた。
同じくらいの年齢かな…? と、
他校の制服を着た2人の男の子を見て、
新の頭に 一瞬だけ、
今とは違った人生を浮かべてしまう。
子供の頃から ずっと、
唯音の心臓の事ばかりを気にして、
生きてきた。
ギター? ベース? 車? バイク?
ゲーム? … 、何も 興味が無い。
興味が湧く キッカケすら無かった。
「 ふっ… 」 そんな自分を、笑う。
別に、何の後悔も無い。
趣味が無いから、だから何なんだ。
新は、小声で そう呟いていた。
同じ学校の女生徒や、
他校の女生徒から、
告白をされた事はある。
だけど、そんな女の子達にすら、
興味なんて 湧いてはこなかった。
何が、楽しいんだろう … ?
特別な事なんて、何もいらないんだ。
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そう思わなければ、
新は、 " 何か " 解らないものに、
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