それ以上の幸せ。～ attend ～

マジックアワー

５. 薄明

この頃、治療もせずに
ひっそりと隠れて暮らし、

重い狭心症きょうしんしょうを患わずらっていた粋さんは、

私に 不思議な力を分け与えた事で、

寿命が しばらく延びた。


後に、
サムライと私が造り上げた会社に、
工房から出る事なく、
大切なスタッフの一員となる。… …



ー … …


「 塚田さん。お久しぶりです 」


「 あっ！ エリーさん！ あっ… 、」


塚田は、夜景の見える席の椅子から
勢いよく立ち上がる。

キャンドルが置かれたテーブルも、
窓ガラス一面に広がる夜景も、
心落ち着く Ｊａｚｚの音色も、

鼻息を荒くさせ 汗だくな塚田には、
全く似合わない。


「 雪乃ゆきの、

こちら、私の大切なお客様、塚田さん 」

「 はじめまして。雪乃です。

本日は、お時間を作ってくださり、
ありがとうございます。」


新は、
エリーから完璧にメイクをしてもらった
美しい顔で微笑み、
丁寧に頭を下げた。

自然なショコラブラウン色のエクステが、
会釈えしゃくをした際に、
肩で揺れる。
もう、その感覚にも だいぶ慣れていた。


「 ゆ、雪乃さん！

エリーさんの、双子の妹さん！」

塚田の目の色が、
色眼鏡なく 新の女性らしさを捉える。

「 ようやくご紹介する事が出来て、
嬉しいです。

こんなに素敵なお店まで
予約して頂いて、 
しかも個室だなんて。
周りを気にせず、ゆっくり話せますね 」


エリーは 窓側の椅子を引き、
新を その席に座らせる。

めざましい変貌へんぼうを遂とげた新と、
窓から見える夜景との相乗効果そうじょうこうかで、
塚田の気持ちをコントロールする為に。


「 雪乃さん、

エリーさんに似てませんね！ でも、

本当に お美しい！」

「 ありがとうございます。」

新は、塚田の目を じっ…と見つめた。
３秒間 見つめた後、
パッと視線を外して、軽くうつむく。
微笑み、恥じらいながら。


もうそこで、確実に
塚田の気持ちは 揺れ動いた。

女性慣れしていない塚田にとっては、
女性らしさを全面に醸かもし出している新が、
魅力的に映り 気になり始めていく。

こういった男性には、
シンプルに それが有能的だった。


エリーへの好奇心が、
女性の姿へと変貌した新に移れば、
もう それでいい。

そこから先は、
サムライに教わった通りに動けばいい。


新は、
余裕の笑みを 恥じらいの笑みに変えて、
塚田の顔を 見つめていた。