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マジックアワー
3. 薄明
しおりを挟む「 それで、その… 霊感占い師は、
辞めてしまったんですか?」
今、私達が座っている場所を取り囲む、
沢山の硝子たちと、
折り重なる色彩を ぐるっと見渡した。
「 辞めてもいないし、そもそも…
始めてもいなかったわ。
私はただ、静かに暮らしていただけ。
たまたま見つけられて、
たまたま、
ちょっとした有名人になってしまった。
不本意に。
それだけの事よ 」
「 無理やり引っ張り出された、
ちゅう訳か 」
サムライは、深刻そうな顔をしていた。
たぶん、きっと今、
私と同じ気持ちでいるのかもしれない。
「 そんで、何で 硝子職人に?」
さっきまで、不機嫌だったはずの彼は、
少しだけ体を前に出し、
粋さんの話を聞く態勢を作った。
粋さんは、ほんの少しだけ
嬉しそうに口角を上げて微笑んだ。
初々しい 少女のような顔で。
「 見る角度を変えると、
また違った表情を見せてくれる。
だから硝子は美しいのよ。
人間と一緒。」
粋さんの力を、私は 信じた。
生まれもって得てしまったものは、
仕方ない。
受け入れて、自分の中に溶け込ませて、
生きていくしかないんだ。
「 その、リハーサルでの出来事を機に、
色々と嗅ぎ回って、
追いかけてくる人達も出てきたの。
国内だけじゃなく、海外からも。
噂は、一瞬で広がるものだから。」
哀しそうに、私達にメッセージを残す、
粋さんの姿を見ていると、
胸が苦しさを増し、ひどく痛む。
私は 椅子から立ち上がり、
粋さんの背後に回った。
粋さんは少し驚いてから、
首だけを後ろに傾け、私の顔を見る。
私は、
粋さんを 後ろから抱きしめていた。
サムライは、驚いた目で 私を見ていた。
「 生きづらかったですね… 」
涙が止まらなくなって、
粋さんの肩に顔をつけたまま、
私は 泣いた。
苦しい… 、本当に 苦しい。何でだろう…
「 あらあら 」
粋さんは、私の頭をゆっくりと撫でた。
サムライは、黙って見ていた。
「 ごめんなさい… 」
何故だか解らないけれど、謝っていた。
何かから 解放されたがっている自分が、
涙になって 溢れていく。
この人も、苦しかった。
私も、
ずっと ずっと、苦しかったんです。
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