それ以上の幸せ。～ attend ～

カムフラージュ

６. 右か、左か

ー … １時間後 … ー


塚田を目の前にして、

人に対して
抱いては失礼な感情だと解りながら、

エリーは、その感情を 強く感じていた。


       気持ち悪い 、この人 。


「 塚田さん 」

エリーは、プロとしての誇りを持ち、
相手に悟られないよう、
とても自然な笑顔で 名前を呼んだ。

「 はい！ 何でしょう？」

優しく、おっとりとした、
自分好みの
女性らしい話し方で 名前を呼ばれ、
塚田の気持ちは 一気に高揚する。


「 先日頂いた、プロポーズの件… 」

エリーがまだ話している最中なのに、

「 はい はい 、その件ですね！ 」

塚田の焦りが、邪魔をしてくる。

調子が狂いそうになりながらも、
エリーは、微笑みを崩さなかった。


「 " 今の私 " では、

塚田さんの 結婚相手としての条件に、

そぐわないと思うんです。」


もし、

生理的に受けつけない男性や、
全く興味のない男性から、
仕事関連で 告白をされてしまった場合、

例えば、解りやすい例でいうと、

クラブのホステスや、
キャバ嬢という立場の場合、

その男性を、
お客様としては引っ張りたい。
だけど、
プライベートでは絶対に関わりたくない。
といった時に、


この、" 今の私 " という所が、

大事なポイントになる。

使える言葉の 業わざ になる。


「 どっ！ ど、どうしてですか？！」

両目をギョロッと強く見開きながら、
真っ直ぐに エリーを見つめる塚田。


「 私は まだ、働いていたいので。

この会社には、恩があります。
なので、
" 今は まだ " 、辞める訳にはいきません。

塚田さんは、
専業主婦になってくれる方を
お求めでしょう？

" 今の私 " では、塚田さんの望みを、
叶えてあげられませんから。」


始めは、冷静に 微笑みながら、
途中からは、哀しくもないのに 
寂しそうな顔を浮かべながら、
エリーは 塚田に、丁寧に そう伝えた。


" 今の私 "  " 今は、まだ "


この台詞は、
相手男性の期待を壊す事なく、

相手男性を待たせたり、
逆上させない為に使える、
とても簡単で、優しい断り方だ。

人に嫌われる事に怯え、
はっきりＮＯ！と言えない女性にも、
上手く使える断り方でもある。


「 その代わり、

私にそっくりな 女性を紹介致します。

双子の妹です。」