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ダーヴィッツ

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3章『革命』

モラルブレイク

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「あっ、……あっ……っ!」
「……ふんっ!ふんっ!」

媚薬香が充満した部屋。縄で縛り付けて身動きが取れない女の奴隷に容赦無く腰を振る男はコキュートスにおける重役貴族だ。汗を滴らせながら、だらしない腹を揺らして女を後ろから犯し続ける。後ろ手に拘束され目隠しと猿轡を付けられた奴隷はその男に押さえ付けられ身動きが取れず、自分の意思に反する形で口から露を垂らし続け、遂に無理矢理絶頂を迎えさせられる。

「……っ!……!……っんん」
「誰が勝手に達して良いと言ったぁっ!?」
「……っ?!」

重役貴族は腰を振りながら奴隷の尻を強烈に叩く。肌に残った手形がその強さを物語っている。そのまま立て続けに叩き続け、貴族のソレが深くめり込んだ時に再び奴隷の腰が揺れる。今夜で何度目の絶頂だろうか。奴隷の頭は既に正気ではなく、迫り来る痛みと快感に視界がボヤける。

「……さて、『ココ』はどうだぁ?」

奴隷は臀部に違和感を覚える。何とか振り替えると貴族の男は奴隷の尻穴に太い棒をめり込ませていた。汗で濡れてはいたが、不意の挿入と立て続けの責めに身体は強ばる。一気に根元まで差し込まれると、柔らかい皮膚の部分が裂けて血が棒を染める。

「~~っ?!」
「……あぁ、おぉ、絞まる絞まる。こっちでもイケる口か変態め。それ、それぇ、どうだ?ん?ん?私のは気持ちいいだろう……?」
「……っ!……っ、……っあ!」

貴族の腰は止まらない。奴隷の頭を右手で枕に押さえつけたまま、左手で首を絞める。奴隷の顔は赤くなり始め、首を絞められてもはや声が出せない程うまく呼吸が出来ない。

「……っ!受け止めろぉ!」
「……っ!!」

貴族は奴隷の尻穴から棒を一気に引き抜き、両手で首を絞めて奴隷の中で果てた。肩で息をしている奴隷は焦点が合っていない。媚薬香による興奮作用によって意識が朦朧としている。不意に吐き気を催し、ベッド脇に嘔吐する。

「……お前、まさか」
「……っ、……いがっ!ひがいふぁす!」

奴隷は猿轡から吐瀉物を垂らしながら頭を地面に擦り付ける。女は妊娠したのだ。貴族の子を孕んだ。この数ヶ月毎日のように犯されてきたのだから当然だ。だが、この男は自分の奴隷が子を孕んだ瞬間にそれらに関心を無くしてしまう。それはある種の性癖なのだが、つまり、その奴隷は貴族の男にとって用済みになったという事だ。

「……まぁ、そろそろ飽きて来た所だ。……なぁ?」
「……ひぃっ!……んっ!……かっ……は……っ」

貴族の男は再び奴隷に挿入して首を絞める。今度は一切の容赦無く。30秒程。奴隷は動かなくなった。貴族の男は満足すると奴隷から自分のものを引き抜いた。

「……衛兵。次の者を持って来い」
「はっ。『コレ』はどうしましょう?」
「そうだな。いつものように燃やしてしまえ。……いや、待て。そういえば私は屍姦に興味があってな。此奴のそれは中々のものだった……。死んでしまったのは惜しいが、最後に死体を犯すとしよう。こんな神をも犯す如く背徳、堪らないだろう?」

(……気色の悪い豚ダ)

これが要塞国家コキュートスの貴族か。ギュンターの言う通り、前世界の貴族や士官は、『第1世界(ファースト)』でも要人として扱われている。最終戦争時代に旧ガルサルム大国への資金提供や武器の斡旋によって戦争終結に貢献したということだ。だが、旧ガルサルム大国はあまりに広く、王族共でもこういう豚共を完全に管理出来なかった。なにより、ギュンターの『矢切り』がこのようなか形で悪用して世界に蔓延しているのだ。アイツとしても本意では無い。本来は重罪人や凶悪なモンスターを制御する為に開発された筈だった。だが、いつしかギュンターが開発した魔法に契約を重ねがけを施した者が現れる。それは誓約という形で『誰にでも』使役権利を与え主従関係を強制的に築く禁呪となった。

「オエー」

俺は貴族宮の廊下を歩いていただけなのだが、ここまでの低俗さを見せつけられると逆に笑えてくるな。こんな世界のためにアダムは……。俺は頭をかく。すれ違う貴族や士官もそれぞれに使役権を表す印が身体に刻まれていた。この国は今でこそ旧ガルサルム大国から独立したが、その時代から『奴隷』という下位身分を形成しており、まるで家畜のように彼らを扱ってきた。女は壊れるまで犯されて、男は重労働を押し付けられ、その果てに捨てられる。この国にはまだそういった階級社会が根付いている。

(……だが、それも今日までダ)

まだ時間があるな。俺はしばらくぶらつくことにして、貴族宮から出ると中流階級が住む市街地に向かおうとする。こんな時には酒に限る。ちょっと早いが祝杯にするか。さて、何処で飲もうかとキョロキョロしている時。『ソレ』は俺の目に止まった。

「……おーイ、生きてるカ?」

『ソレ』は要塞国家コキュートスの街路脇に転がっていた。ボロ雑巾のように臭く傷だらけだった男児は這いつくばった状態で俺を睨みつける。へぇ。この国にまだそんな眼が出来る奴がいるのか。俺はチラっと周りを観察する。ここは門を隔てて貴族宮に連結している場所だ。男児の首筋には奴隷のタトゥー『矢切り』が刻印されていた。その様子から察するに既に貴族の誰かの所有物か。誰かにボコボコにされたのか身体中が傷だらけで痛みで蹲っているようだった。両脚の爪は剥がれ、足の裏はガラスの破片や石が突き刺さって鬱血している。よく見ると貴族宮の門番がヘラヘラしながらこちらを眺めている。男児は歯を食いしばりながら貴族宮を睨み付けている。

「……ねぇちゃんが、……きぞくのやつらに、つれていかれた!」
「……お前、親はどうしタ?」
「……ずっとまえに、きぞくのまちにつれていかれてから、もどってこないんだ。……おれたちは、なにもしてないのにっ……!!ただ、いきているだけなのに!!……あいつらは!!」
「……」
「おれ……たちはっ……あいつらのもの……じゃないのにっ!」

……そうだよな。生きているだけなのにな。門番達は口元を押さえながら、悔しさで地面を叩き続ける奴隷の男児をヒーヒー言いながら笑っていた。

「……ウン。丁度暇してたんだよナ。お前、名前ハ?」
「……な、なまえ。なんて、ない……」
「ア?そうなのカ?」
「う、うまれたときからどれいだったから、『それ』とか『おまえ』としかよばれた……こと……ない」
「じゃあ、今日からお前は『ワン』ダ。あ、ワンダーの方がいいカ?」
「……は?なんでぇ?」
「犬っぽいかラ」

呆気に取られるワンダー。泥まみれのワンダーを腰から持ち上げると肩に担ぎ、今来た道を戻る。許可の無い奴隷はこの門をくぐる事は許されず、跨いだ瞬間に殺しが許可されている。俺は、まぁ、ギュンターに承認された王宮魔導師だから貴族宮をウロチョロ出来るが、ワンダーを連れて行く事は許されないだろう。いや、そんなこともういいんだった。好きに殺ろう。悪いな。ギュンター。俺はもう待ち切れなんだ。

「俺はレジェンド(Re:The End)。さぁ、姉ちゃん探しにいくゾ。今日は新しい世界の誕生日になるんダ」





「……なんだそれは」
「あら、ギュンターじゃない。コレ?拾って来たのよ」

クロエ嬢は私の質問にキッパリと言う。まるで犬を拾ったかのような言い方だが、そこにいたのはズタボロの奴隷の男。まともな服など纏っておらず、主人の遊びなのか、拷問具のような痕で身体中が傷だらけだ。しかも髪はペンキか何かで様々な色に染められていた。言葉が分からないのか、意思の疎通が出来ない。

「……っ」

奴隷の男の身体が突如ガタガタ震える。その原因が足早にやって来る。それはコキュートスの貴族の青年で奴隷の男とは異なる感情で震えていた。

「貴様っ、『それ』は僕の奴隷だぞ!勝手に連れ出しおって!身をわきまえろ!」
「誰ぇ?」
「……この僕に向かって『誰?』だと?私はコキュートス要塞国に多大な貢献をしたガルバーー」
「あ、良い。一切興味ないから」
「……なっ。……あぁ!もういい!」

貴族の青年は奴隷の印に向けて手をかざす。私が編み出した誓約魔法『矢切り』だ。誓約を結んだ主従関係の者を調教する際に強制的に電撃を流す。だが、それは起きなかった。何が起きたのか理解出来ないまま、只何度も何度も同じことを繰り返すだけの愚図。ここは既にクロエ嬢の絶対領域(サンクチュアリ)範囲内だ。範囲内ではお嬢の筋を通すことが絶対正義と成る。弱きを助け強きをくじく強肉弱食世界。それによって対象は超人的で絶大なバフを得る。無論、デメリットもある。お嬢自身が弱体化する。領域の解除条件は強化対象の死亡。しかも領域解除後もお嬢の弱体化は半永久的に引き継がれる。そのため『それ』は味方でなければならない。その化物をコントロールするのがお嬢の人心掌握術。

「な、な、な、何故、発動しないのだ……?」
「……?……?……??」
「私の近くにいれば、あの痛い『矢切り』は発動しないわ。これでお前を縛っていたアイツの優位性はなくなった。これでイーブン」
「……」
「アイツはお前をこれまで玩具にしてきた。言う事を聞かなければ電撃を失神するまで続けた。恐らく、これからもアイツの人間性は変わらず、お前が死ぬまで使役するわ。でも、私の傍にいれば今は違う。これを逃せばお前の人生はずっと犬畜生以下よ。さぁ、どうするぅ?」

クロエ嬢は奴隷の男に囁く。恐らくその男の言語能力ではクロエ嬢の言葉の意図を理解する事は出来ていないのだろう。だが、クロエ嬢の存在が貴族の青年のアドバンテージをかき消しているという事をその奴隷の男の生存本能が理解している。この女が正しいと。

「……」
「……あぶっ!?」

奴隷の男は主人を殴る。それは野生の獣のような動きだった。想定外の出来事にのたうち回る貴族の青年に馬乗りになって追撃を放つ。全体重を載せた拳は幾度となく奮われる。何度も何度も何度も。鼻の骨は折れ、歯は折れ、目は抉れる。

「まっ……、待っ……」

時に勢い余って地面を殴ることもあった。奴隷の男の息は上がり、その拳は既に血塗れだった。どちらのものなのかは分からない。やがて貴族の青年は動かなくなった。奴隷の男は荒い息のまま動かなくなった男の顔を擦り笑いながら涙を流す。解放感に満たされた瞬間だった。今まで苛まれて来た生涯の中で初めて自分で決定した選択。命を奪う達成感。滴る熱い血から温度が伝わり高まる高揚感・征服感。自分の手で相手の命の形を確かめる楽しさ。それらの感触に感銘を受けているのだ。言葉には出来ない。だが、それは間違いなく彼の哲学を変えた。

クロエ嬢は、死んだ貴族の青年の血をおもむろに指に塗ると、涙を流すその奴隷の男の口角からはみ出るように唇に塗る。それはまるで道化師の化粧のように不細工なものだった。だが、その男の死んでいた目に燻っていた火が再び空気を得るように煌めいた。クロエ嬢がその男を変えた。命令ではなく、己の意思で決めさせて悪の花を開花させた。

「……」
「今まで泣いた分、これからは笑っていなさい。私といればお前も『最強』になれるわ」

クロエ嬢はその男を『J』と名付けた。Jはクロエ嬢から離れようとしなかった。まるで犬のように懐いている。クロエ嬢が笑いながらJの頭をくしゃくしゃに撫でた。

刹那、背後から灼熱の熱風が撒き起こる。星の守護者(ガーディアン)レッドドラゴンが飛来する。Jは『神威』を纏いながらクロエ嬢の前に立ち、熱風を遮る。

「ちょっと。熱いじゃない」

コキュートスに飛来したレッドドラゴンの背から降りたのは『最強』テラ。地面に着地すると共にテラは私に急接近して殴り掛かる。テラの拳は私に届く直前で『最強』レイの黒刀によって弾かれる。その黒刀は業物であったが、レイの斬撃をもってしてもテラの拳が砕かれることは無かった。それだけテラの拳が強固という事。テラは翻すと腰の背面に左手を添えながら右拳を伸ばす。しかし、レイの斬り上げによって遮られた。逆にレイが上段から中段に切り替え、左から右に薙ぎ払う。テラは右肘と右膝で黒刀を挟み込んだ。幾度となくぶつかり合う『最強』の両雄。拳と黒刀が衝突する度に鈍い衝突音と衝撃波が発生する。

「そこまでだ」

両者が再び衝突する瞬間、その両者の攻撃を双剣で受け止めたのは英雄ベガだ。彼女は身体を勢いよく回転させると『最強』の2人を引き剥がす。ベガは双剣の柄を合わせると2本は繋がり、両刃剣となった。かつてアダムとも肩を並べた『英雄の椅子』の中でも3番目の強さを誇る英雄ベガ。前世界から実力は全く衰えていない。『最強』のテラとレイに拮抗出来る程か。

「あれ?終わっちゃうのかい?」

背後から不敵な笑みを浮かべた英雄アークが現われる。

「ベガはサナの師匠じゃなかったっけ?君がこっちに付いてくれるとは思わなかったよ。旧知の仲、故にかな?」
「別に。お前のためじゃない」
「ふーん?」

まさか、あの英雄同士が再会する日が来るとはな。とにかく、『最強』同士の衝突を制止してくれた事には感謝しなければ。でなければ、要塞国家コキュートスは崩壊していたかもしれない。英雄アークはクロエ嬢に気付くと大袈裟にカーテシーをする。

「クロエ嬢もようこそ。君が僕の誘いに乗ってくれるなんて嬉しいね。見慣れないのがいるね?」
「この盤上の面子に興味があっただけの話よ。この子は『保険』」
「テラもクロエ嬢と同意見かい?」
「……」
「なんにせよ、『英雄の椅子』の中でも最弱な僕の招集に応じてくれて嬉しいよ。コキュートスは君達を歓迎するよ」

アークが指を鳴らすと、『創造(クリエイター)』の力が宿った『セフィラの九剣』が空から降り注ぎ、その剣が刺さった痕から玉座が造られる。『セフィラの九剣』は各元素で構成されている。故に『創造(クリエイター)』は万物を創造する事が可能だ。

「ギュンター、はーやーく」

エリザベスが玉座の縁に腰掛けながら私を急かす。国には王の存在が必須。コキュートスの玉座に座すのは、私だ。私は玉座に着くと、アークは続けてその玉座の前に10m程の長机と椅子を同時に造り出す。アークが微笑みながら他の者達にも席に着くように促した。先程来た者達が各々席に着くが、まだ空席がいくかあった。

「悪い、遅刻ダ」

遅れてやって来たのはレジェンド(Re:The End)。白髪に丸い縁をした赤いサングラスをかけたその男は煙管で煙を纏っていた。

「……何だそれは」

私はレジェンド(Re:The End)の両脇に抱えられた奴隷の姉弟を見ると、「拾っタ」とだけ言った。クロエ嬢といい、お前達は……。よく見るとレジェンド(Re:The End)の手は赤く染まっており、姉弟の『矢切り』は既に解除されていた。アイツめ。既に事を起こしたな。だが、彼に抱えられた2人のレジェンド(Re:The End)を見る尊敬の眼差しで私はフッと笑う。そうだな。そうだった。

「他の者は?」
「ン?どうせ後で来るだろうヨ。先に始めてくレ」

ここにいるのは国も、生まれた時代も、生きる意味も、死ぬ意義も、それぞれ異なる者達。ここにこれだけの不揃いな曲者を集めたのには理由がある。

「……さて、『神威』か『神楽』を纏っておけよ。領域の対象になるぞ。……クロエ嬢はいいか」
「うん♡そのための領域だもの」

私はヴィンセントを構える。

「ーー『Cocytus』起動。『前人未到領域(サクリファイス)』」

要塞国家コキュートスの上空に巨大な魔法陣が展開される。この領域の発動条件を満たすのは大量の元素(エレメント)。それは人間レベルの元素量は勿論、星の守護者(ガーディアン)や元素核(エレメントコア)でも賄いきれない。だからこそ必要だったものが『核(フレア)』の『神託機械(オラクルマシン)』。私が領域を発動させると魔法陣から黒い手が無数に伸びてきて必要条件となる代償を求めてくる。アークがその魔法陣の中心に向かって『核(フレア)』を放った。『神託機械(オラクルマシン)』の効果は『世界の理の反故(ルールブレイク)』。

要塞国家コキュートスから次々と『核(フレア)』のエネルギーが空の魔法陣に吸われていく。それは徐々に光を増し、更に魔法陣の範囲が拡大して行く。この魔法陣は『前人未到領域(サクリファイス)』の発動範囲となる。その範囲が海を越え、ダイダロス新大国を呑み込み、サウザンドオークス、大和、ドン・クライン、やがては『第1世界(ファースト)』全てを覆い尽くした。そして、『前人未到領域(サクリファイス)』は完成する。

「……さぁ、『革命』だ」

領域範囲は『第1世界(ファースト)』。
効果は『逆転』。

領域は無事に発動した。拒絶反応も無く発動は安定している。その代償も『核(フレア)』でお釣りが来た程だ。ふと貴族宮から悲鳴が聞こえてくる。どうやら要塞国家コキュートスでもその効果が現れたようだ。アークが映し出したモニターからは奴隷に嬲り殺しにされているコキュートスの貴族が映し出された。貴族宮を逃げ惑いながら奴隷達から必死に懇願している。今迄蔑んでいた者から向けられる悪意はどうだ?

同じ現象が『第1世界(ファースト)』中で発生しているだろう。身体的、社会的、精神的、戦闘レベル全てにおいての階級関係の逆転がこの世界で起きたのだ。弱者は強者に、強者は弱者に。『矢切り』も誓約内容が反転して主人だった者が奴隷となり、奴隷だったものが新たな主人となる。これだ。これが私の求めていた世界だ。前世界の貴族共を、アダムを見捨てた世界を壊すための領域の完成だ。

金に汚い貴族は今まさに奴隷だった者に殺されている。民に圧政を強いていた王族も同じだ。これが正しい在り方だ。あぁ、どんな顔をしているだろうか。自分が世界の中心だと思っていた奴が、今この瞬間にも命乞いをしている様はさぞ不様だろうな。今存在する悪は縮小され、新しい開拓者が国を統治する。これ迄この領域を発動するまで利用されたコキュートスの貴族諸君、有難う。今迄人の幸せを奪って来たな。今度はお前達の番だ。

非人道だと、私達こそが悪だと糾弾すればいい。テロリストであり国家転覆を目論んでいるとも。世界が束になってかかって来い。要塞国家コキュートスは受けて立つ。だが、弱体化した権力者の国家に何が出来るだろうな。数週間もすれば内部崩壊か新たな王が決まるだろうな。

殺しは駄目だが戦争で敵国を滅ぼすのは良い?殺しは駄目だが死刑は良い?人は駄目だが食肉用の動物は良い?何が違う?自分たちは安全な場所にいてその対象から外れているだけだろう。何が正しいか何が許されるかは国々によって異なるだろう。だが、法など、抑止力があって始めて機能するのだ。人間が人間のために作り出したじぶんかっな線引きだ。警察、軍、騎士団という強者組織が機能してようやく法には強制力が生まれる。

今、お前達は私を裁けるのか。いや、不可能だ。何故なら世界の半数が新しい逆転した世界を良いと思っているからだ。さぁ、奴隷だった諸君。もしくは上流階級に虐げられてきた弱者の者よ。私こそが必要悪でありこの世界の正義だ。

これは個人的な復讐だ。復讐など虚無感に包まれるだけと思うだろう。そんな私を憐れむ者もいるだろう。だが、これはアダムの尊厳の回復と私の悲願なのだ。こんな完成した復讐劇が虚しい訳ないだろう。気持ちいいに決まっている。今、私は絶頂の中にいる。自己満足だとなんとでも言えばよい。このコキュートスの玉座に私が座っていることが全てを体現している。

「世界よ、アダムを返してもらうぞ……」

その数時間後、要塞国家コキュートスはドン・クラインに対して宣戦布告を出すことになる。2週間後にドン・クラインへ進行した後、一斉攻撃を仕掛けると。これに対してドン・クラインは沈黙。ワイマール同盟のダイダロス新大国とサウザンドオークスは反発した。

ふとレジェンド(Re:The End)がギュンターの背中を眺めながらこう呟いた。

「ボウズ、誰かを護りたいなラ、もっと強くなレ。俺らのようにナ」
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