なんで夜だけ鬼畜ですか

うに

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我が道な二人

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ミヤはあまり昔の事を憶えていないのかと思ってた。


マシューはレーミヤの納品した薬草を持って研究室に篭り、レーミヤの為の薬を作りながら、レーミヤの事を考えていた。

彼女の育てた薬草はすごい。
通常なら薬に使えるようになるまでに膨大な手間と時間のかかる、育成が難しいはずの薬効に特化した薬草を、発注から数日で納品してくる。
それも毎回、完璧な品質でだ。

それをマシューは独り占めしていた。

何処かに知られてしまえば、きっと彼女は色々な場所で重宝されるだろう。
それはミヤにとって、
「このくらいしか私に取り柄はないわ。」
なんて自己評価を改めさせる良い環境になるかも知れない。
彼女がかつて諦めていた、世の中の役に立ち必要とされる存在に、きっとすぐにでもなれるだろう。

故に、マシューは独り占めしていた。

首輪で繋いでおきたいとまでは言わない。庭で放し飼いにして眺めたいのだ。
これからもずっとそうあれる様に、家族にだって根回しをした。
それなのに。

「……そういうものよね。だってさ。」


子供の頃、何故急に会いに来なくなったのか、と問われた時。
「忙しくなったんだよね。」
とだけ言った自分に対して、ミヤは悟ったような笑顔でそう言った。

「寂しかったの?」
「俺に会いたかった?」
そう言ってベッドで慰めながら、あわよくばもう一回戦する予定だったのに。
彼女ときたら後ろを向いてさっさと寝たのだ。信じられない。

あいつは昔からそういう女だった。
人の気も知らずに真っ直ぐ前を向いて、一人で凛と立ってみせる。おかげで掌に乗せてもうまく転がらない。
今だって散々お預けを喰らわせて、「好き」の一言も言って来ない。これではどちらが転がされているのか分かったもんじゃない。


子供だった自分が、レーミヤの主治医の座を父親から奪う事は並大抵の努力では出来なかった。
能力主義の父に認めさせるのは、身も心も削られた。

(おかげで腹黒になっちゃったじゃねぇかよ)

腹黒なのは元からの性質によるものなのだが、マシューはレーミヤの事に関しては正確に憶えている。

彼女が昔、言ったのだ。
頭の良い人は憧れると。
色んな人と仲良く出来ることはすごい事だと。
結婚するなら健康で力持ちの人がいいと。

「もっとか…?もっとなのか?」

マシューは腹筋に力を入れながら考える。
いや、もしかして自分の言った言葉を憶えていないのか?
そういえば、再会した時も「見た事ある奴だな~」程度の反応だった気がする。

この間もそう。もう少し先にステップを進めようとしたら目を見ただけで逃げた。
逃げられると無性に追いたくなるもので、つい楽しくなって追い回してしまったけれど、結局逃げられた。
もうそこまでされたら意地だ。

(泣きながら「挿れて下さい」って言わせてやる…)

こちらも相応の覚悟と精神力が必要だ。
ミヤだって自分のことを男として好きなはずなのに、あれでなかなか頑固だから上手くいかない。

(そこがなかなか…)

…どこまで自分を翻弄する気なんだろうか。

「クッソミヤめ…」

マシューは宝物に触れるような手付きでレーミヤの薬草を掴むと、レーミヤの事を考えながら、丁寧な手付きでレーミヤの薬を作り続けた。



「ミヤ、貴女ねえ。貴女がお世話になっているのは男性の家ではなく診療所よ。それにマシューくん以上に貴女を任せられる殿方なんてきっとこの先も現れないわ。」

あっけらかんと母さまは言って退けた。
今日は会わないの?なんて言うものだから、結婚前の娘が男性の家に泊まって心配ではないのか。そう聞いたらコレだ。
大体そんなに毎日会ってあんな行為をされては身も心ももたない。

(それなのにあのランブルト兄弟ときたら、なんて性に奔放な兄弟かしら⁈いいの⁈それで‼︎)

…良いのかしら?
相手は医者だし、私にとって悪いことならば止めるはずよね?

ミヤの基本はランブルトの医療の上に成り立っていた。

それにマシューは言ったのだ。無理にはしないと。ゆっくり進むから、と。
正確には、鬼畜スイッチが入ってしまったマシューから逃げ回るミヤに、

「無理じゃないって。俺痛覚無くすのは得意なんだ。お医者さんだからね。」

と言って追い回したのだが。
そして捕獲したミヤに

「ここに入れる時はゆっっくりと入れてあげる」

と言ったのだが…。

その時は命辛々逃げてきたミヤだったが、切り替えが早いのはミヤの長所だ。
辛い過去を経験したミヤは、自分なりの独自の解釈を持つことでそこから立ち直ってきたのだ。
短絡的とも言う。
今もその長所は発揮されている。

目の前で百面相をする娘を呆れた顔で見ながら母は考える。

(婚約を申し込まれたこと、どう思っているのかしら?)

「ねえ、聞いていたの?ミヤ。彼の気持ち、素直に受け取ったらどう?」

「そんな、いくらゆっくりでも…っえ⁈母さままで知っていたの…⁈流石に恥ずかし…っえ、それで良いの⁈」

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