なんで夜だけ鬼畜ですか

うに

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診察日

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同僚達は気心が知れている分、言いたい放題言ってくれる。

明け方まで酒のネタにされたうえロクにアドバイスもせず、最後には満足した顔で「せいぜい頑張れよ!」と肩を叩いて帰って行きやがった。

「…クソが」

思い出して腹立たしくなるのを抑えながら、別邸の診療室に向かう。
今日はミヤの診察日だ。


ミヤの城から程近い場所にあるランブルト家の別邸は、診療室を主に周辺貴族向けに開いており、我が家の保養場所と言うよりは田舎の診療所的な役目を果たしている。

今日はそこで一番上の兄のリューイが診療をしている筈だ。
父によく似て冷たい印象の目つきと、丁寧なのにどこか底意地の悪い話し方をする兄は、
見かけによらず面倒見が良いのか嫌がらせなのかは知らないが、何かと煩いのでこのまままっすぐにミヤの診療室に向かおう。

そう思っていると、ガチャリと横の扉が開き、今まさに会いたくないと思っていた男に会ってしまった。

「…どうも。」

「…違うだろう?マシュー。お疲れ様です、リューイ兄さん。だ。やり直せ。」

(顔を合わせた途端これだ。)
マシューは棒読みで繰り返す。

「あぁ、お疲れ。これからレーミヤ嬢の診察か?」

高い背をさらに姿勢良く、冷たい目で見下ろしてくる兄に、面倒くさそうな態度を隠さずに「えぇ、まぁ」と投げやりに返事する。
もう行っていいかな…。そう思って僅かに視線を上げると、室内のベッドに見慣れた女性の姿があった。

「…本日は別邸にお泊りですか?」

「あぁ、まぁな」

やり返すが如く投げやりに返事をすると、白衣を翻してネクタイを緩めながら、マシューと同じ方向に歩き出す。

(道中でも小言をいう気か?)

どこまでついてくる気だとげんなりした気分でその白衣の背中に問いかける。

「どちらまで?」

こちらを小馬鹿にしたような微笑みを浮かべた男は振り返る。

「シャワー室だ。」

我が兄ながら全く、お盛んなことだ。




ミヤは恐る恐るドアノブに手をかけて、逡巡したのち、…そっと手を引っ込める。
もう何回この動作を繰り返しただろう。


あれからマシューについて考えた。
好きというのはきっと友愛じゃないことくらいはミヤにも理解できた。
理解は出来ても、受け入れられるかどうかはまた別問題だ。

飄々としていてどこか常識外れなあの男は、きっと世間一般の真剣な愛というものが分かっていないのだ。
だからあんな破廉恥な行為を考えつくのだろう。
あんな風に気軽に女性に手を出してマシュー自身が傷つく前に、年上の私がちゃんとした恋愛というものを教えてあげた方が良いのではないだろうか。

ーそこまで考えて、じゃあ自分の気持ちは?と自分に問うた時に、
健康に対する恩や親愛の情はあれど、恋しさに胸が張り裂けそうになるという様なことはなかった。


「ーよしっ」

今ここでうじうじしたって仕方がない。
ミヤは努めて普通の顔を作り、勇気を出して診療室のドアを開けた。

「や、遅かったね。座って。」

あまりにいつも通りのユルさに緊張が解けたミヤは、ドサっと椅子に座り込む。

「なに、疲れてるの?体調はど?」

あんたのせいでしょ、と心の内で呟く。なんだかどっと疲れた。

「ふつうね」

あれからずっとマシューのことを考えていたとは絶対に言いたくない。

「少し寝不足だね。」

見透かされたようで、思わず目を逸らした。

診察はいつも通り、口の中を覗いたり腹を見たりした後、手を合わせて魔力の状態を確認する。
こうすると、お互いの魔力の状態がよく分かってしまう。

マシューは、自分などよりよほど荒れた流れをしていた。

「貴方ね…。私よりよっぽど疲れてるんじゃない?」

よく見れば顔色は血色が悪く、目元にはクマも出来ていた。

「お仕事、忙しかったの?ちゃんと寝てる?」

「はは、実は今朝までちょっと…、同僚との付き合いもあってね。」

バツの悪そうな顔で慌てて手を離すマシュー。
つまりは寝ていないという事か。

今はもう夕方を過ぎているのだから、顔色が悪くなるのも無理はない。
幸いにも自分と会う時の時間はいつもたっぷりと取ってある。
近くに居さえすれば良いのだから、マシューが寝ていようが私の体調には問題がない。

「ねぇシュー、ご飯は食べた?ここで軽食でも取って少し休みましょうよ。それとも、ゆっくりお風呂にでも浸かってくる?」

心配そうに見つめるミヤに、マシューは少しの間目を見開いてから、ふふっと笑う。

「ミヤは奥さんみたいだねぇ。」

まったくこの男は、ひとが真剣に心配しているというのに、すぐからかうような事を言う。
そんな血色の悪い顔で力なくヘラヘラ笑われても困る。

ミヤは無言の呆れ顔を返すと、側にあったベッドに腰掛けて隣をぽんぽんと叩いて見せる。
マシューが大人しく側に寄って来る。

「ミヤは時間までちゃんと側にいてよね。」

「分かってるわよ。」

ふとマシューは耳元に顔を寄せる。


「いくらでも、触っていいからね。」

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