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不穏な言葉にすぐに理解ができなかった。口は開くが、言葉は出てこない。
「詳細を」
「今、王宮にいる兵士たちをライモンド様が中心となり集めているところです。まずはそちらへお願いします」
兵士の言葉に、カミルは立ち上がった。慌ててアリシャも立ち上がる。急かされるように部屋を出た。
ドレスの裾を持ち、アリシャは走った。カミルと兵士と徐々に離されていく。開いていく距離が怖くて、アリシャは懸命に右足と左足を動かした。
玄関を出れば、そこは異様な光景だった。武装した男たちが集まり、黒い塊を作っている。怒鳴るような、叫ぶような声が飛び交っていた。
「カミル王子」
1人が声を出した。男たちの視線が一気にカミルに集まる。あれだけ騒がしかった声がピタリと止んだ。
「状況を説明してくれ」
カミルはあたりを見回し、叫ぶようにいった。誰に尋ねればいいのかわからなかったからだ。すぐに反応したのはライモンドだった。すでに甲冑を身に纏う彼の姿は、アリシャの知っている姿ではない。
ライモンドは一度頭を下げると、周りにも聞こえるように大きな声で状況を説明した。
「聖龍に乗った偵察隊が、南のダージャ国の不穏な動きを察知しました。詳細を把握しようと近づいたところ、大砲のようなもので撃たれました。なお、聖龍は翼に傷を負っており、すぐには飛べない状態であり、兵士は全身を強く打ち、病院に運ばれ治療を受けています」
「不穏な動きとは具体的にどういうものだ?」
「武器を持った兵士が、国境を越えようとしております。なお、すぐにチャルキ国にも偵察を出しましたが、同じにように武装しております。状況から考え、両国が手を組み、ナーリ国に攻め入ろうとしているのだと思われます」
ライモンドのカミルへの口調に違和を感じ、アリシャは2人を凝視した。けれど、すぐに思った。目の前にいるのは、「カミル」と「ライモンド」ではなく、ナーリ国の第一王子とその側近なのだと。
「…」
カミルは眉間にしわを寄せながら、ライモンドの言葉を聞いた。チャルキ国、ダージャ国と和平条約が結ばれてから久しい。両国の野心を感じながらも、ナーリ国は聖龍という圧倒的な武力をちらつかせ、バランスを保ってきたはずだった。武器の製造、所持については、一定の規制を設けながらも、属国とすることなく、完全な自治を認めてきた。国王同士の交流も設け、有効な関係を築いてきたはずだった。それなのに、なぜこんな事態になっているのか。定期的な交流に頻繁に同行しているカミルだからこそ、今の状況をすぐには理解できなかった。
「個人的な見解を述べてもよろしいでしょうか?」
考え込むカミルを助けるようにライモンドが言葉を発する。カミルは頷くことで先を促した。
「チャルキ国は北、ダージャ国は南に位置しています。両国が連絡を取り合うためには、必ず、ここナーリ国を通らなければなりません。そして、両国の動向は我が軍が定期的に観察していた。ならば、頻繁に行き来はできなかったはずです」
「そうだな」
「また、我が国の一番の武器、それは、聖龍です。両国もそこを押さえず侵攻するほど愚かではないでしょう。おそらくナーリ国にどのくらいの聖龍がいて、聖龍に対抗するためにはどうすればいいのか、綿密な作戦が練られた上での侵攻だと考えられます。両国は大砲を以前から持っていましたが、機敏な動きをする聖龍に当たることはなかった。しかし、今回はたった一発が見事に聖龍の翼を打ち抜きました。聖龍の動きに対応できる武器を用意し、兵士を集めた。また、この時期は、聖龍の繁殖期であり、雌の聖龍は子を産むため戦いに参加できません。武器や兵士を用意し、聖龍が一番少なくなるタイミングを図った。…おそらく、数年、あるいは十数年の時間を経てた上での行動であると考えます」
「……おそらく、ライモンドの言うとおりだろう。両国への偵察は常に行ってきた。偵察の時間はいつもずらして行っていたが、所詮、人のやること。おそらく、一定の規則性を見つけ、その偵察の穴をぬって、準備を進めてきたのだろうな」
「おそらくは」
「軍の聖龍の数は限られている。そして、この時期。両国はこちらの聖龍の数を確認し、それに対抗できると踏んで、今回の行動に出た。…圧倒的に、こちらが不利というわけか」
「な!そ、それでは、どうするのですか?こ、国王、国王はなんとおっしゃっているのです!?」
白髪交じりの男性が声を荒げた。武装していないところから見ると、軍の関係者ではないようである。
「トリス宰相、落ち着いてください」
「お、落ち着けですと?カミル王子、これが落ち着いていられる状況ですか!」
つばを飛ばし、鼻息を荒くする。そんな彼のおかげで、アリシャは少しだけ落ち着きを取り戻した。北の好戦的なチャルキ国と南の野心的なダージャ国。その両国がナーリ国に攻め入ろうとしている。それも、ナーリ国の状況を数年にわたり調査し、綿密に戦略を練った上で。ナーリ国の戦力は北と南に分断され、頼みの綱である聖龍は高度な大砲で押さえ込まれる。打つ手がない状況であるということはアリシャにもわかった。
兵士たちは冷静にカミルとライモンドの話を聞いている。1人騒ぎ立てる宰相を無視し、紋章を付けた5人の男たちがカミルに近づいてきた。身につけているものから位が高いことがわかる。この状況から判断するに、部隊の隊長たちなのだろう。
「いかがいたしましょう、カミル王子」
「国王は、判断は王子に委ねると」
その言葉にカミルは目を開き、しかし、すぐに小さく息を吐いた。
「…軍の指揮を任されているのは、俺だ。それに、…父、いや国王は、政は得意だが、軍事に関しては不得手としている。俺の方が、国民にとって有益な判断が出せると踏んだのだろう」
重圧がカミルの肩にのしかかるが見えた気がした。カミルはもちろん第一王子だ。けれど、まだ「青年」と呼べる年齢。それなのに、全国民の命と財産への責任を背負わなければならない。アリシャにはそのつらさを想像することもできない。胸が苦しくなって、息をするのがやっとだった。何もできない自分がもどかしい。
「龍軍を使い、国境近くにいる者に指示を出してあります。北と南双方に、いくつかの部隊を配置させました。ただ、全部隊に指示を出しましたが、数的に不利な状況にあることは変わりません」
「ああ」
「ここにいる者も2部隊に編成を終えています。指示があれば今すぐにでも北、南に向かう準備はできています」
焦げ茶色の長い髪を一つにまとめ上げているヤードと呼ばれていた隊長の一人が端的に説明した。カミルは考えるように腕を組む。ここにいる兵士たちを北と南に配置したところで状況は大きく変わるわけではない。そもそも聖龍の数は限られており、全員が聖龍で戦地に向かうことはできない。馬で向かえば、たどり着くのに数日かかってしまう。現状では、この戦争を勝ち取る手段はないように思えた。
パサッ。
翼が空気を切るような音が聞こえた気がした。アリシャは顔を上げ、空を見る。同じように数名が空を見た。
「カミル王子!」
一人がカミルの名を呼ぶ。青い空に浮かんでいたのは、水色がかった白だった。首に国の紋章をかけた聖龍がこちらに飛んでくる。見知った龍より一回り小さいその龍の上に、1人の若い兵士がしがみつくように乗っていた。カミルたちから少しだけ離れた開かれた場所に着陸する。若い兵士は転がるように聖龍から降り、もつれそうになりながらカミルの前まで来ると膝をついた。
「で、伝令でご、ございます!」
肩で息をするその姿に、どれだけの焦燥なのか感じ取れた。あたりに緊迫感が増す。
「発言を許す」
「ダージャ国はすでに国境付近に到着し、侵入を防ぐための壁を取り除こうとしています。ファルム隊長の見立てでは、一刻持つか持たないかというところ。攻撃か、降伏か。今すぐに王のご指示をいただきたい」
若い兵士の言葉にカミルは顔を上げた。あたりを見渡す。
「ライモンドと隊長2人を残し、その他の者は、すぐに北と南に向かい、抗戦の準備をせよ。龍軍はすぐに着くだろう。すでに待機している部隊に手を出さぬよう伝令を頼む。…攻撃か、降伏か。判断するのに、少しだけ時間が欲しい。だからこそ、お前たちはすぐに向かい、あらゆる状況に備えて欲しい」
「はっ」
声が重なった。すでに部隊が編成されていたこともあり、綺麗に北と南に分かれていく。数名が聖龍に乗り、それ以外は馬に乗った。砂埃を上げて、離れていく背中を、けれどカミルはもう見ていなかった。
「今後どうするか、今一度話し合う。お前は、すぐに飛び立てるように準備をしておいてくれ」
「御意」
伝令に来た若い兵士は膝を折り、頭を垂れた。
しばらくすると、先ほどと同じように聖龍に乗った若い兵士が転がるようにカミルの前に膝をついた。北のチャルキ国の状況を伝えるその伝令の内容はほとんど同じである。
「ど、どうするのですか!?やはり、国王の指示を…」
「トリス宰相、国王は私にすべてを任せるとおっしゃった。ここに残るヤード隊長、メイソン隊長、それからライモンド、そして私で策を考える。だから、あなたは少し黙っていてください」
苛立ちを抑えきれない声で、それでも声を荒げることなくカミルは言った。
「な、なんですか!?私は国王の右腕ですぞ!」
「国政に関しては、国王も貴殿も優れている。それは承知しています。けれど、軍事に関しては我らの方が上だ。貴殿が口を挟む必要はない」
ヤードがトリスを睨んだ。40代後半であろう彼の頬にはいくつも傷がある。おそらく、服を脱げばその身体にはいくつもの戦いの跡が残っているのだろう。ヤードの鋭い視線に、トリスは開いた口を静かに閉じた。
カミルは目の前にいる3人の目をしっかりと見る。皆、同じように緊張が浮かんでいた。圧倒的に不利な状況。それでも打開策を見いださなければいけない。かすかな絶望と不安。自分もこの目をしているのだろうな、とカミルは思った。息を一度大きく吸い、ゆっくり吐き出す。
「南にいるファルム隊長が言ったように、選択肢は2つだろう。攻撃か、降伏か。王族全員の首を差し出せば、おそらく降伏は受け入れられる。あちらも無意味な血が流れることは避けたいはずだ。降伏すれば、国民の血が流れることはない」
「…」
「けれど、血は流れずとも男は奴隷、女は慰み者にされるのが戦争敗者の常だ。それは時として死より苦痛を伴う」
誰かが唾を飲んだ音が聞こえる。アリシャは耳を塞がないで聞いているだけで精一杯だった。
「攻撃すれば、おそらくは勝てない。両国の多少の不満は国王も俺も感じていた。しかし、話し合いを重ね、妥協点を見つけたつもりでいた。国王も俺も両国と比較的良好な関係が結ばれてきていると思っていた。だから、ここまで大規模な抗戦は正直、想定してきていない。…武器についても和平条約のもと、新たな武器の製造はしていない。つまり、持つ武器の性能、心構えが圧倒的に違う」
「どうして今になって、ナーリ国に攻め入ってきたのでしょうか?しかも仲がよいとは言いがたい2つの国が手を組んで」
もう一人の隊長であるメイソンがそう尋ねた。短い髪は黒く、顔には傷があるものの、端正な顔立ちをしている。歳は、30歳後半と言ったところであろうか。彼の言葉にカミルは静かに首を横に振る。
「わからない。自治も認めていた。災害があれば、物資の支援もしていた。良好な関係を築いていたつもりだった。それでもこうして攻め入ろうとしているのには、我々にはわからない考えがあるのだろう。…もしかしたら、先祖代々の夢だったのかもしれないな」
「先祖代々の夢?」
「ああ。長い間引き継がれてきた想いがあったのかもしれない」
「…」
「ナーリ国の方が両国に比べ、資源が豊富であり、土地も広大だ。だからこそ、機会があれば、ナーリ国を滅ぼし、それらを手に入れよ、と先人たちの教えが根強く残っているのかもしれない」
「それは…」
それはあまりにも身勝手で、意味のない行動のように思えた。せっかくの平穏な日々を脅かす行動は、国民も望んではいないのではないだろうか。それでも、国のトップに君臨する者として、領土を広げ、より豊かにしたいという想いがあることは理解できる。
「いずれにしても想像の範囲を出ないがな」
「…カミル王子、王子はどうお考えですか?」
ヤードが問う。
「多くの血を流すか、誇りを失うか」
カミルの一言が静かに響く。しばらくは誰も声を発することができなかった。トリスでさえ、騒ぎ立てることをせず、ただ呆然とカミルの顔を見ていた。
「…もし、両国の狙いがナーリ国の資源と土地だとしたら、両国が手を組むのは、ナーリ国が降伏するまで、ということになります」
沈黙を破ったのは、ライモンドだった。
「そうすれば、こちらの降伏後、おそらくナーリ国はダージャ国とチャルキ国の戦地となるでしょう。そうすれば、自ずと血は流れる。…誇りを取ったとしても、結局、血は流れるのではないでしょうか?」
「しかし、戦いには勝てぬぞ」
「我らが戦い、戦えぬ者の逃げ道を作れば…」
ヤードがライモンドの言葉に被せるように言う。
「逃げると言っても、どこに逃げる?南と北は敵で、東と西は山と海。逃げる場所などありはしない」
「…」
「戦って勝つ。それ以外に道はない。けれど、現状では勝つことは難しい。そういうことですね」
「いや、あります!ありますぞ!」
メイソンの言葉に、今まで黙っていたトリスが声を発した。カミルたちを見る。その視線が最後、アリシャに向かった。
いやな予感がした。けれど、アリシャは視線を逸らさなかった。
「私たちには、アリシャ様がいるではないですか!」
「…アリシャに何をしろと?」
地を這うような低い声だった。けれど、興奮しているトリスは気づかない。アリシャに手を伸ばし、その手を取った。
「聖龍を呼ぶのです!」
「聖龍…?」
「アリシャ様は聖龍の王を自在に操れるのでしょう?それならば、聖龍の王を呼び、奴らを殲滅させればいいのです!」
アリシャには、言われている言葉の意味がすぐには理解できなかった。ウラノスのことを言っているのだということはわかったが、今ここで自分にできることがあるとは思えなかった。思考が追いつかない中で、ただ呆然と目の前ではしゃぐように叫ぶ老人を見ていた。
「…アリシャに、ウラノス、いや、聖龍を呼び、人を殺せと命令せよと…?」
「人?いいえ、違います。敵です。この国に害をなす敵を殺せと命じて欲しいのです」
「…」
「……そ、そんなこと、私には…」
アリシャは首を横に振った。人を殺す、そんなこと自分ができるはずない。ましてや、ウラノスに誰かを殺させることなどできない。
否定を示したアリシャをトリスは睨むように見る。
「アリシャ様、あなたはなぜ、ここにいるのですか?」
「…」
それは低い声だった。責めるような声色に言葉が出ない。
「王宮でいい暮らしをし、高級なドレスを身にまとい、豪華な食事を食べる。それは、有事に、聖龍を使い、この国を守るためではないのですか。あなたは、国民の血税で裕福な暮らしをしているのです。だからこそ、つらい選択でも、国民を守るためにしなければならない。あなたはそのためにここにいるのです」
トリスの意見はもっともだった。ウラノスと絆ができたことで、アリシャは第一王子であるカミルの婚約者となった。それは、国のためにいざとなれば聖龍を使うため。聖龍と結んだ絆をこの国のために使うためだ。そうして初めて、カミルの隣を歩き、王宮で暮らすことができるのだ。ただの伯爵家の令嬢では決して手に入れることのできない裕福な生活は、ウラノスとの関係があったからこそのもの。
トリスの言うように圧倒的に不利なこの状況を打破する唯一が、聖龍だとするならば、自分は、ウラノスに助けを求めるべきである。それが第一王子の婚約者である自分の役目であり、それができなければここにいる意味などない。カミルの隣にいる資格などないのだ。
トリスの言葉は、頭では理解できた。そうするべきだとアリシャ自身も思う。そうすることで多くの国民を守ることができるのだ。けれど、敵であっても人は、人だ。その人を殺すようにウラノスに願うことが自分にできるだろうか。もし、それができたとしても、その多くの死を自分は受け止めることができるだろうか。ウラノスを血に染めることができるだろうか。血に染まったウラノスを抱きしめることができるだろうか。
答えは否だ。
きっと心が壊れてしまう。それはもしかしたら、死ぬことよりもつらいことかもしれない。けれど、たかが伯爵家の令嬢一人の心と、国民の命ならば、命の方がずっと重い。
「…わた…し…は…」
それでも、頷くことができなかった。この手で誰かを殺すことなどできるはずもない。
戦争となれば、多くの血が流れる。アリシャではない誰かが、敵を殺すだろう。そうして勝利を収めれば、喜び、安堵するのに、自分は願うことすらできない。国の勝利を願えても、人の死は願えなかった。それが同義だとわかっているのに。そんな自分の弱さやずるさを痛感する。涙があふれ出そうになるのをなんとか耐えることしかアリシャにはできなかった。
トリスが掴んだアリシャの手をカミルが奪う。そして、2人の間に身体を挟み、トリスからアリシャを隠した。
「トリス宰相。悪いが、アリシャにそんなことはさせられない」
カミルの背中から感じる優しさに、嬉しくなる。けれど、それは本来の、第一王子であるカミルとしては間違った発言だ。それがわかるから、アリシャの胸は苦しくなる。
「な、何を言っているのですか?それしか方法がないのですぞ!」
「そんな重い決断をさせたくて、アリシャを婚約者にしたのではない」
「カミル王子。あなたは、この国の第一王子です。ご自分の感情を優先させず、アリシャ様を説得すべきだ!それが国民のためです!」
「…」
「それが、あなたの使命なのですぞ!」
「…日々、剣を握り、国のために戦う私たちにとって、多くの敵を殺すことは栄誉だ。この国のために、敵を倒すことは誇りだ。けれど…アリシャは違う。今まで争いのないところで生きてきた。国のためだから、敵だから。いくらそんな理由をつけてもアリシャにとって人を殺すことは罪悪でしかない。……あなたは、それを背負えと言うのですか?たった一人の大人にもなっていない少女に」
「いや…しかし、それしか…」
カミルの言葉に、トリスは下を向いた。何を守るかの違いだった。けれど天秤にかけるものの重さにあまりにも違いがある。カミルは小さく息を吐いた。冷静さを取り戻し、トリスを見る。
「トリス宰相、…あなたの言うことは正しい。私は第一王子だ。この国のためにアリシャを説得することが一番だろうということはわかっている。けれど、わた…いや、俺には言えない。アリシャに人を殺せと命じろとは言えないんだ」
それは素直な言葉だった。この国を統べる者として、個人の感情を優先させるなどということは本来あってはならない。2人のやりとりを聞いていたヤードとメイソンの表情にかすかに落胆の色が浮かぶ。カミルはそれに気づいたが、それでも何も言わなかった。
「…けれど、それしか、多くの国民を守る方法が…」
「それでは、あなたは言えますか、トリス殿。貴殿の奥方やご令嬢に人を殺せと。自ら人を殺さずともよい。人を殺せと命令するだけでよい、と」
「ラ、ライモンド!なぜ、今、私の妻や娘の話が出てくるのだ!」
突然のライモンドの発言に、トリスが驚きの声を上げる。けれど、ライモンドは表情を変えずに淡々と告げた。
「貴殿が稼ぐ金もまた、この国の税金。その税金で暮らしている奥方やご令嬢はアリシャ様と同じです。貴殿の言っていることは、そういうことだ。税金で何不自由なく暮らしているのだから、敵を殺せと命じることくらい当たり前だろうと。なら、自分の奥方やご令嬢にそう言えますか?」
「そ、それは…」
「なら、どうするおつもりですか、カミル王子。トリス宰相が言うように、聖龍に頼ることができるならばそれが最善の策。それをせぬとおっしゃるのなら、どのような手をお考えで?」
ヤードの言葉には鬼気迫るものがあった。愚策なら首を切られる、そのくらいの緊張感が流れる。
「アリシャに無理矢理、聖龍を戦わせたとしても、聖龍は動かない」
「…どういうことですか?」
「聖龍、…アリシャと絆を結んだ白龍のウラノスは、この国のためにいるのではない。この国などどうでもいいのだ。彼はアリシャのためにだけに存在する。そのくらいの絆がアリシャとウラノスの間にはある。きっと、いや、十中八九、アリシャが願ったとしても、アリシャが心から願うものでなければウラノスは動かない」
「…」
「先ほど言ったのは俺の本心だ。アリシャに人を殺せと命令などさせたくない。けれど、それでも、俺はこの国の第一王子だ。もし、アリシャの心が壊れることで、多くの国民が守られるのなら、どんな手を使ってでも、アリシャに頼む。それに、もしそれでも俺がアリシャを守るというのなら、お前たちが俺を殺し、アリシャにナイフを突きつけてでも、アリシャに言うことを聞かせるだろう」
「…」
「けれど、そんなことでは、聖龍は動かない」
「なぜそう言い切れるのです?」
「ヤード、あなたが知っている聖龍とウラノスは違う。ウラノスは野生の龍だ。しかも白龍。つまり、ほかの龍を統治する龍だ。俺たちが普段見ている人間に従順な龍とは別物なんだ。あいつは、アリシャが望まない願いは、おそらく聞き入れない。…俺は、可能性の低い勝負に、アリシャの心を賭けることはできない」
「なら、どうするのです?負けることを承知で戦うのか、両国の良心を信じて、降伏するのか。十中八九の可能性に賭けるのか。…私は、少しでも可能性があるのなら、聖龍に頼るべきだと思います」
ヤードがそう進言する。そして鋭い視線はアリシャに向けられた。
アリシャには、その目の意味も、自分がすべきことも、わかっていた。わかっているのに、できない。カミルが身体を動かし、ヤードの視線を遮る。嬉しいはずのその行為も、今はアリシャ苦しめるだけだった。優しくしてもらう価値など自分にはない。多くの人を守れるかもしれないのに、それができない自分なんて。
カミルの隣にいたいと思った。隣にいて笑い合いたかった。手を取り、目を見つめ、幸せを感じていたかった。けれど、どうあがいてもカミルは、この国の第一王子であり、その隣に並ぶということは、覚悟を持たなければいけないということ。自分に都合のいいところだけ選び取るなどできない。
けれど、でも、でも、でも、でも、でも。アリシャの心が悲鳴を上げる。
「ウールー!!」
不意に耳に入る鳴き声に、アリシャは顔を上げた。空に浮かんでいたのは、美しい白。いつだって、一番苦しいときに駆けつけてくれたそれに、アリシャは泣きそうになった。
「ウラノス…」
名前を口にした。小さな声はけれど、ウラノスには聞こえたようで、嬉しそうに輪を描きながら、ウラノスは地上に降りてきた。地上に着くと、一度大きく翼を広げ、鳴く。
「ひっ…!」
その大きな声に、トリスは驚き、声を漏らす。ウラノスのあまりの大きさと獰猛な顔つきに、トリスの顔は青白く染まった。もつれながら駆け出すと一目散に、城の中に逃げていく。
「ウラノス!」
アリシャがウラノスに駆け寄った。途端にウラノスの目が優しくなる。
「ウルッ!」
そばに来たアリシャの頬をひと舐めした。アリシャは手を伸ばし、ウラノスを抱きしめる。温かい体温が伝わってきた。
「来てくれたのね、ウラノス。…ありがとう」
会いに来てくれた、それが嬉しくて、涙がこぼれる。その涙をウラノスは舌を伸ばして綺麗に拭った。
「これが、…白龍」
「大きい、ですね」
ヤードとメイソンは一歩も動かず、ウラノスを見ていた。軍で扱う見知った龍とは一回り違うその大きさに声が漏れる。2人の手がその腰にある剣の柄に触れているのは、ウラノスがけして味方でないことを感じ取ったからだろうか。
「隊長殿。警戒しなくて大丈夫です。白龍はアリシャ様の望まないことはしませんから」
「ライモンド…」
「どうして、そう言い切れるのですか?」
「私は、一度、白龍、ウラノスを見ています。ウラノスとアリシャ様との絆はきっとお2人が想像しているよりずっと強い」
「…」
ヤードとメイソンは無言でウラノスとアリシャを見ていた。自分たちの経験から、ウラノスのテリトリーに入ってしまえば、問答無用で攻撃されるのだろうことを感じ取る。だからこそ、ウラノスに触れることのできているアリシャが不思議だった。
「…正直、ずっと、カミル様は何をおっしゃっているのだろうと思っていました。アリシャ様の言うことを聞くのなら、何が何でも聖龍を使って、敵を殲滅すべきだろうと。どうしてそれをしないのだろうと。けれど、なるほど、これを見れば理解できる」
「ああ。アリシャ様以外はどうでもいいのだ、ということが空気を通して伝わってくる。確かにアリシャ様が望まぬ願いは、きっとアリシャ様が言ったところで聞きはしないだろうな。それ以上に…そんなことを言わせた我らを殺しかねない」
何度も死線をくぐってきた2人だからこそ、ウラノスからかすかに漏れる殺気を感じ取る。けれど2人がカミルの意図を理解したとしても圧倒的に不利な状況は変わらない。
「カミル…?」
アリシャとウラノスのやりとりを見ていたカミルが一歩踏み出した。ライモンドが呼びかけるが、返事はない。ゆっくり、近づいていく。
「ヴル!!」
攻撃圏内に入ったのだろう。ウラノスが翼を広げて威嚇した。
「ウラノス!やめて。…カミル様は優しい人よ」
「…ウル」
「大丈夫だから。ね?」
アリシャの言葉にウラノスは渋々、広げた翼をたたむ。けれど、警戒を解かないその様子にカミルは小さく苦笑を浮かべた。
けれどすぐに表情を戻し、まっすぐにウラノスの目を見る。初めて近くで見たその目はかすかに潤んでいた。その丸の中にカミルが映る。
カミルは一つ息を吸い、頭を下げた。突然のことに、ウラノス以外の皆が驚きを示す。
「ウラノス、君にお願いがある」
「詳細を」
「今、王宮にいる兵士たちをライモンド様が中心となり集めているところです。まずはそちらへお願いします」
兵士の言葉に、カミルは立ち上がった。慌ててアリシャも立ち上がる。急かされるように部屋を出た。
ドレスの裾を持ち、アリシャは走った。カミルと兵士と徐々に離されていく。開いていく距離が怖くて、アリシャは懸命に右足と左足を動かした。
玄関を出れば、そこは異様な光景だった。武装した男たちが集まり、黒い塊を作っている。怒鳴るような、叫ぶような声が飛び交っていた。
「カミル王子」
1人が声を出した。男たちの視線が一気にカミルに集まる。あれだけ騒がしかった声がピタリと止んだ。
「状況を説明してくれ」
カミルはあたりを見回し、叫ぶようにいった。誰に尋ねればいいのかわからなかったからだ。すぐに反応したのはライモンドだった。すでに甲冑を身に纏う彼の姿は、アリシャの知っている姿ではない。
ライモンドは一度頭を下げると、周りにも聞こえるように大きな声で状況を説明した。
「聖龍に乗った偵察隊が、南のダージャ国の不穏な動きを察知しました。詳細を把握しようと近づいたところ、大砲のようなもので撃たれました。なお、聖龍は翼に傷を負っており、すぐには飛べない状態であり、兵士は全身を強く打ち、病院に運ばれ治療を受けています」
「不穏な動きとは具体的にどういうものだ?」
「武器を持った兵士が、国境を越えようとしております。なお、すぐにチャルキ国にも偵察を出しましたが、同じにように武装しております。状況から考え、両国が手を組み、ナーリ国に攻め入ろうとしているのだと思われます」
ライモンドのカミルへの口調に違和を感じ、アリシャは2人を凝視した。けれど、すぐに思った。目の前にいるのは、「カミル」と「ライモンド」ではなく、ナーリ国の第一王子とその側近なのだと。
「…」
カミルは眉間にしわを寄せながら、ライモンドの言葉を聞いた。チャルキ国、ダージャ国と和平条約が結ばれてから久しい。両国の野心を感じながらも、ナーリ国は聖龍という圧倒的な武力をちらつかせ、バランスを保ってきたはずだった。武器の製造、所持については、一定の規制を設けながらも、属国とすることなく、完全な自治を認めてきた。国王同士の交流も設け、有効な関係を築いてきたはずだった。それなのに、なぜこんな事態になっているのか。定期的な交流に頻繁に同行しているカミルだからこそ、今の状況をすぐには理解できなかった。
「個人的な見解を述べてもよろしいでしょうか?」
考え込むカミルを助けるようにライモンドが言葉を発する。カミルは頷くことで先を促した。
「チャルキ国は北、ダージャ国は南に位置しています。両国が連絡を取り合うためには、必ず、ここナーリ国を通らなければなりません。そして、両国の動向は我が軍が定期的に観察していた。ならば、頻繁に行き来はできなかったはずです」
「そうだな」
「また、我が国の一番の武器、それは、聖龍です。両国もそこを押さえず侵攻するほど愚かではないでしょう。おそらくナーリ国にどのくらいの聖龍がいて、聖龍に対抗するためにはどうすればいいのか、綿密な作戦が練られた上での侵攻だと考えられます。両国は大砲を以前から持っていましたが、機敏な動きをする聖龍に当たることはなかった。しかし、今回はたった一発が見事に聖龍の翼を打ち抜きました。聖龍の動きに対応できる武器を用意し、兵士を集めた。また、この時期は、聖龍の繁殖期であり、雌の聖龍は子を産むため戦いに参加できません。武器や兵士を用意し、聖龍が一番少なくなるタイミングを図った。…おそらく、数年、あるいは十数年の時間を経てた上での行動であると考えます」
「……おそらく、ライモンドの言うとおりだろう。両国への偵察は常に行ってきた。偵察の時間はいつもずらして行っていたが、所詮、人のやること。おそらく、一定の規則性を見つけ、その偵察の穴をぬって、準備を進めてきたのだろうな」
「おそらくは」
「軍の聖龍の数は限られている。そして、この時期。両国はこちらの聖龍の数を確認し、それに対抗できると踏んで、今回の行動に出た。…圧倒的に、こちらが不利というわけか」
「な!そ、それでは、どうするのですか?こ、国王、国王はなんとおっしゃっているのです!?」
白髪交じりの男性が声を荒げた。武装していないところから見ると、軍の関係者ではないようである。
「トリス宰相、落ち着いてください」
「お、落ち着けですと?カミル王子、これが落ち着いていられる状況ですか!」
つばを飛ばし、鼻息を荒くする。そんな彼のおかげで、アリシャは少しだけ落ち着きを取り戻した。北の好戦的なチャルキ国と南の野心的なダージャ国。その両国がナーリ国に攻め入ろうとしている。それも、ナーリ国の状況を数年にわたり調査し、綿密に戦略を練った上で。ナーリ国の戦力は北と南に分断され、頼みの綱である聖龍は高度な大砲で押さえ込まれる。打つ手がない状況であるということはアリシャにもわかった。
兵士たちは冷静にカミルとライモンドの話を聞いている。1人騒ぎ立てる宰相を無視し、紋章を付けた5人の男たちがカミルに近づいてきた。身につけているものから位が高いことがわかる。この状況から判断するに、部隊の隊長たちなのだろう。
「いかがいたしましょう、カミル王子」
「国王は、判断は王子に委ねると」
その言葉にカミルは目を開き、しかし、すぐに小さく息を吐いた。
「…軍の指揮を任されているのは、俺だ。それに、…父、いや国王は、政は得意だが、軍事に関しては不得手としている。俺の方が、国民にとって有益な判断が出せると踏んだのだろう」
重圧がカミルの肩にのしかかるが見えた気がした。カミルはもちろん第一王子だ。けれど、まだ「青年」と呼べる年齢。それなのに、全国民の命と財産への責任を背負わなければならない。アリシャにはそのつらさを想像することもできない。胸が苦しくなって、息をするのがやっとだった。何もできない自分がもどかしい。
「龍軍を使い、国境近くにいる者に指示を出してあります。北と南双方に、いくつかの部隊を配置させました。ただ、全部隊に指示を出しましたが、数的に不利な状況にあることは変わりません」
「ああ」
「ここにいる者も2部隊に編成を終えています。指示があれば今すぐにでも北、南に向かう準備はできています」
焦げ茶色の長い髪を一つにまとめ上げているヤードと呼ばれていた隊長の一人が端的に説明した。カミルは考えるように腕を組む。ここにいる兵士たちを北と南に配置したところで状況は大きく変わるわけではない。そもそも聖龍の数は限られており、全員が聖龍で戦地に向かうことはできない。馬で向かえば、たどり着くのに数日かかってしまう。現状では、この戦争を勝ち取る手段はないように思えた。
パサッ。
翼が空気を切るような音が聞こえた気がした。アリシャは顔を上げ、空を見る。同じように数名が空を見た。
「カミル王子!」
一人がカミルの名を呼ぶ。青い空に浮かんでいたのは、水色がかった白だった。首に国の紋章をかけた聖龍がこちらに飛んでくる。見知った龍より一回り小さいその龍の上に、1人の若い兵士がしがみつくように乗っていた。カミルたちから少しだけ離れた開かれた場所に着陸する。若い兵士は転がるように聖龍から降り、もつれそうになりながらカミルの前まで来ると膝をついた。
「で、伝令でご、ございます!」
肩で息をするその姿に、どれだけの焦燥なのか感じ取れた。あたりに緊迫感が増す。
「発言を許す」
「ダージャ国はすでに国境付近に到着し、侵入を防ぐための壁を取り除こうとしています。ファルム隊長の見立てでは、一刻持つか持たないかというところ。攻撃か、降伏か。今すぐに王のご指示をいただきたい」
若い兵士の言葉にカミルは顔を上げた。あたりを見渡す。
「ライモンドと隊長2人を残し、その他の者は、すぐに北と南に向かい、抗戦の準備をせよ。龍軍はすぐに着くだろう。すでに待機している部隊に手を出さぬよう伝令を頼む。…攻撃か、降伏か。判断するのに、少しだけ時間が欲しい。だからこそ、お前たちはすぐに向かい、あらゆる状況に備えて欲しい」
「はっ」
声が重なった。すでに部隊が編成されていたこともあり、綺麗に北と南に分かれていく。数名が聖龍に乗り、それ以外は馬に乗った。砂埃を上げて、離れていく背中を、けれどカミルはもう見ていなかった。
「今後どうするか、今一度話し合う。お前は、すぐに飛び立てるように準備をしておいてくれ」
「御意」
伝令に来た若い兵士は膝を折り、頭を垂れた。
しばらくすると、先ほどと同じように聖龍に乗った若い兵士が転がるようにカミルの前に膝をついた。北のチャルキ国の状況を伝えるその伝令の内容はほとんど同じである。
「ど、どうするのですか!?やはり、国王の指示を…」
「トリス宰相、国王は私にすべてを任せるとおっしゃった。ここに残るヤード隊長、メイソン隊長、それからライモンド、そして私で策を考える。だから、あなたは少し黙っていてください」
苛立ちを抑えきれない声で、それでも声を荒げることなくカミルは言った。
「な、なんですか!?私は国王の右腕ですぞ!」
「国政に関しては、国王も貴殿も優れている。それは承知しています。けれど、軍事に関しては我らの方が上だ。貴殿が口を挟む必要はない」
ヤードがトリスを睨んだ。40代後半であろう彼の頬にはいくつも傷がある。おそらく、服を脱げばその身体にはいくつもの戦いの跡が残っているのだろう。ヤードの鋭い視線に、トリスは開いた口を静かに閉じた。
カミルは目の前にいる3人の目をしっかりと見る。皆、同じように緊張が浮かんでいた。圧倒的に不利な状況。それでも打開策を見いださなければいけない。かすかな絶望と不安。自分もこの目をしているのだろうな、とカミルは思った。息を一度大きく吸い、ゆっくり吐き出す。
「南にいるファルム隊長が言ったように、選択肢は2つだろう。攻撃か、降伏か。王族全員の首を差し出せば、おそらく降伏は受け入れられる。あちらも無意味な血が流れることは避けたいはずだ。降伏すれば、国民の血が流れることはない」
「…」
「けれど、血は流れずとも男は奴隷、女は慰み者にされるのが戦争敗者の常だ。それは時として死より苦痛を伴う」
誰かが唾を飲んだ音が聞こえる。アリシャは耳を塞がないで聞いているだけで精一杯だった。
「攻撃すれば、おそらくは勝てない。両国の多少の不満は国王も俺も感じていた。しかし、話し合いを重ね、妥協点を見つけたつもりでいた。国王も俺も両国と比較的良好な関係が結ばれてきていると思っていた。だから、ここまで大規模な抗戦は正直、想定してきていない。…武器についても和平条約のもと、新たな武器の製造はしていない。つまり、持つ武器の性能、心構えが圧倒的に違う」
「どうして今になって、ナーリ国に攻め入ってきたのでしょうか?しかも仲がよいとは言いがたい2つの国が手を組んで」
もう一人の隊長であるメイソンがそう尋ねた。短い髪は黒く、顔には傷があるものの、端正な顔立ちをしている。歳は、30歳後半と言ったところであろうか。彼の言葉にカミルは静かに首を横に振る。
「わからない。自治も認めていた。災害があれば、物資の支援もしていた。良好な関係を築いていたつもりだった。それでもこうして攻め入ろうとしているのには、我々にはわからない考えがあるのだろう。…もしかしたら、先祖代々の夢だったのかもしれないな」
「先祖代々の夢?」
「ああ。長い間引き継がれてきた想いがあったのかもしれない」
「…」
「ナーリ国の方が両国に比べ、資源が豊富であり、土地も広大だ。だからこそ、機会があれば、ナーリ国を滅ぼし、それらを手に入れよ、と先人たちの教えが根強く残っているのかもしれない」
「それは…」
それはあまりにも身勝手で、意味のない行動のように思えた。せっかくの平穏な日々を脅かす行動は、国民も望んではいないのではないだろうか。それでも、国のトップに君臨する者として、領土を広げ、より豊かにしたいという想いがあることは理解できる。
「いずれにしても想像の範囲を出ないがな」
「…カミル王子、王子はどうお考えですか?」
ヤードが問う。
「多くの血を流すか、誇りを失うか」
カミルの一言が静かに響く。しばらくは誰も声を発することができなかった。トリスでさえ、騒ぎ立てることをせず、ただ呆然とカミルの顔を見ていた。
「…もし、両国の狙いがナーリ国の資源と土地だとしたら、両国が手を組むのは、ナーリ国が降伏するまで、ということになります」
沈黙を破ったのは、ライモンドだった。
「そうすれば、こちらの降伏後、おそらくナーリ国はダージャ国とチャルキ国の戦地となるでしょう。そうすれば、自ずと血は流れる。…誇りを取ったとしても、結局、血は流れるのではないでしょうか?」
「しかし、戦いには勝てぬぞ」
「我らが戦い、戦えぬ者の逃げ道を作れば…」
ヤードがライモンドの言葉に被せるように言う。
「逃げると言っても、どこに逃げる?南と北は敵で、東と西は山と海。逃げる場所などありはしない」
「…」
「戦って勝つ。それ以外に道はない。けれど、現状では勝つことは難しい。そういうことですね」
「いや、あります!ありますぞ!」
メイソンの言葉に、今まで黙っていたトリスが声を発した。カミルたちを見る。その視線が最後、アリシャに向かった。
いやな予感がした。けれど、アリシャは視線を逸らさなかった。
「私たちには、アリシャ様がいるではないですか!」
「…アリシャに何をしろと?」
地を這うような低い声だった。けれど、興奮しているトリスは気づかない。アリシャに手を伸ばし、その手を取った。
「聖龍を呼ぶのです!」
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「アリシャ様は聖龍の王を自在に操れるのでしょう?それならば、聖龍の王を呼び、奴らを殲滅させればいいのです!」
アリシャには、言われている言葉の意味がすぐには理解できなかった。ウラノスのことを言っているのだということはわかったが、今ここで自分にできることがあるとは思えなかった。思考が追いつかない中で、ただ呆然と目の前ではしゃぐように叫ぶ老人を見ていた。
「…アリシャに、ウラノス、いや、聖龍を呼び、人を殺せと命令せよと…?」
「人?いいえ、違います。敵です。この国に害をなす敵を殺せと命じて欲しいのです」
「…」
「……そ、そんなこと、私には…」
アリシャは首を横に振った。人を殺す、そんなこと自分ができるはずない。ましてや、ウラノスに誰かを殺させることなどできない。
否定を示したアリシャをトリスは睨むように見る。
「アリシャ様、あなたはなぜ、ここにいるのですか?」
「…」
それは低い声だった。責めるような声色に言葉が出ない。
「王宮でいい暮らしをし、高級なドレスを身にまとい、豪華な食事を食べる。それは、有事に、聖龍を使い、この国を守るためではないのですか。あなたは、国民の血税で裕福な暮らしをしているのです。だからこそ、つらい選択でも、国民を守るためにしなければならない。あなたはそのためにここにいるのです」
トリスの意見はもっともだった。ウラノスと絆ができたことで、アリシャは第一王子であるカミルの婚約者となった。それは、国のためにいざとなれば聖龍を使うため。聖龍と結んだ絆をこの国のために使うためだ。そうして初めて、カミルの隣を歩き、王宮で暮らすことができるのだ。ただの伯爵家の令嬢では決して手に入れることのできない裕福な生活は、ウラノスとの関係があったからこそのもの。
トリスの言うように圧倒的に不利なこの状況を打破する唯一が、聖龍だとするならば、自分は、ウラノスに助けを求めるべきである。それが第一王子の婚約者である自分の役目であり、それができなければここにいる意味などない。カミルの隣にいる資格などないのだ。
トリスの言葉は、頭では理解できた。そうするべきだとアリシャ自身も思う。そうすることで多くの国民を守ることができるのだ。けれど、敵であっても人は、人だ。その人を殺すようにウラノスに願うことが自分にできるだろうか。もし、それができたとしても、その多くの死を自分は受け止めることができるだろうか。ウラノスを血に染めることができるだろうか。血に染まったウラノスを抱きしめることができるだろうか。
答えは否だ。
きっと心が壊れてしまう。それはもしかしたら、死ぬことよりもつらいことかもしれない。けれど、たかが伯爵家の令嬢一人の心と、国民の命ならば、命の方がずっと重い。
「…わた…し…は…」
それでも、頷くことができなかった。この手で誰かを殺すことなどできるはずもない。
戦争となれば、多くの血が流れる。アリシャではない誰かが、敵を殺すだろう。そうして勝利を収めれば、喜び、安堵するのに、自分は願うことすらできない。国の勝利を願えても、人の死は願えなかった。それが同義だとわかっているのに。そんな自分の弱さやずるさを痛感する。涙があふれ出そうになるのをなんとか耐えることしかアリシャにはできなかった。
トリスが掴んだアリシャの手をカミルが奪う。そして、2人の間に身体を挟み、トリスからアリシャを隠した。
「トリス宰相。悪いが、アリシャにそんなことはさせられない」
カミルの背中から感じる優しさに、嬉しくなる。けれど、それは本来の、第一王子であるカミルとしては間違った発言だ。それがわかるから、アリシャの胸は苦しくなる。
「な、何を言っているのですか?それしか方法がないのですぞ!」
「そんな重い決断をさせたくて、アリシャを婚約者にしたのではない」
「カミル王子。あなたは、この国の第一王子です。ご自分の感情を優先させず、アリシャ様を説得すべきだ!それが国民のためです!」
「…」
「それが、あなたの使命なのですぞ!」
「…日々、剣を握り、国のために戦う私たちにとって、多くの敵を殺すことは栄誉だ。この国のために、敵を倒すことは誇りだ。けれど…アリシャは違う。今まで争いのないところで生きてきた。国のためだから、敵だから。いくらそんな理由をつけてもアリシャにとって人を殺すことは罪悪でしかない。……あなたは、それを背負えと言うのですか?たった一人の大人にもなっていない少女に」
「いや…しかし、それしか…」
カミルの言葉に、トリスは下を向いた。何を守るかの違いだった。けれど天秤にかけるものの重さにあまりにも違いがある。カミルは小さく息を吐いた。冷静さを取り戻し、トリスを見る。
「トリス宰相、…あなたの言うことは正しい。私は第一王子だ。この国のためにアリシャを説得することが一番だろうということはわかっている。けれど、わた…いや、俺には言えない。アリシャに人を殺せと命じろとは言えないんだ」
それは素直な言葉だった。この国を統べる者として、個人の感情を優先させるなどということは本来あってはならない。2人のやりとりを聞いていたヤードとメイソンの表情にかすかに落胆の色が浮かぶ。カミルはそれに気づいたが、それでも何も言わなかった。
「…けれど、それしか、多くの国民を守る方法が…」
「それでは、あなたは言えますか、トリス殿。貴殿の奥方やご令嬢に人を殺せと。自ら人を殺さずともよい。人を殺せと命令するだけでよい、と」
「ラ、ライモンド!なぜ、今、私の妻や娘の話が出てくるのだ!」
突然のライモンドの発言に、トリスが驚きの声を上げる。けれど、ライモンドは表情を変えずに淡々と告げた。
「貴殿が稼ぐ金もまた、この国の税金。その税金で暮らしている奥方やご令嬢はアリシャ様と同じです。貴殿の言っていることは、そういうことだ。税金で何不自由なく暮らしているのだから、敵を殺せと命じることくらい当たり前だろうと。なら、自分の奥方やご令嬢にそう言えますか?」
「そ、それは…」
「なら、どうするおつもりですか、カミル王子。トリス宰相が言うように、聖龍に頼ることができるならばそれが最善の策。それをせぬとおっしゃるのなら、どのような手をお考えで?」
ヤードの言葉には鬼気迫るものがあった。愚策なら首を切られる、そのくらいの緊張感が流れる。
「アリシャに無理矢理、聖龍を戦わせたとしても、聖龍は動かない」
「…どういうことですか?」
「聖龍、…アリシャと絆を結んだ白龍のウラノスは、この国のためにいるのではない。この国などどうでもいいのだ。彼はアリシャのためにだけに存在する。そのくらいの絆がアリシャとウラノスの間にはある。きっと、いや、十中八九、アリシャが願ったとしても、アリシャが心から願うものでなければウラノスは動かない」
「…」
「先ほど言ったのは俺の本心だ。アリシャに人を殺せと命令などさせたくない。けれど、それでも、俺はこの国の第一王子だ。もし、アリシャの心が壊れることで、多くの国民が守られるのなら、どんな手を使ってでも、アリシャに頼む。それに、もしそれでも俺がアリシャを守るというのなら、お前たちが俺を殺し、アリシャにナイフを突きつけてでも、アリシャに言うことを聞かせるだろう」
「…」
「けれど、そんなことでは、聖龍は動かない」
「なぜそう言い切れるのです?」
「ヤード、あなたが知っている聖龍とウラノスは違う。ウラノスは野生の龍だ。しかも白龍。つまり、ほかの龍を統治する龍だ。俺たちが普段見ている人間に従順な龍とは別物なんだ。あいつは、アリシャが望まない願いは、おそらく聞き入れない。…俺は、可能性の低い勝負に、アリシャの心を賭けることはできない」
「なら、どうするのです?負けることを承知で戦うのか、両国の良心を信じて、降伏するのか。十中八九の可能性に賭けるのか。…私は、少しでも可能性があるのなら、聖龍に頼るべきだと思います」
ヤードがそう進言する。そして鋭い視線はアリシャに向けられた。
アリシャには、その目の意味も、自分がすべきことも、わかっていた。わかっているのに、できない。カミルが身体を動かし、ヤードの視線を遮る。嬉しいはずのその行為も、今はアリシャ苦しめるだけだった。優しくしてもらう価値など自分にはない。多くの人を守れるかもしれないのに、それができない自分なんて。
カミルの隣にいたいと思った。隣にいて笑い合いたかった。手を取り、目を見つめ、幸せを感じていたかった。けれど、どうあがいてもカミルは、この国の第一王子であり、その隣に並ぶということは、覚悟を持たなければいけないということ。自分に都合のいいところだけ選び取るなどできない。
けれど、でも、でも、でも、でも、でも。アリシャの心が悲鳴を上げる。
「ウールー!!」
不意に耳に入る鳴き声に、アリシャは顔を上げた。空に浮かんでいたのは、美しい白。いつだって、一番苦しいときに駆けつけてくれたそれに、アリシャは泣きそうになった。
「ウラノス…」
名前を口にした。小さな声はけれど、ウラノスには聞こえたようで、嬉しそうに輪を描きながら、ウラノスは地上に降りてきた。地上に着くと、一度大きく翼を広げ、鳴く。
「ひっ…!」
その大きな声に、トリスは驚き、声を漏らす。ウラノスのあまりの大きさと獰猛な顔つきに、トリスの顔は青白く染まった。もつれながら駆け出すと一目散に、城の中に逃げていく。
「ウラノス!」
アリシャがウラノスに駆け寄った。途端にウラノスの目が優しくなる。
「ウルッ!」
そばに来たアリシャの頬をひと舐めした。アリシャは手を伸ばし、ウラノスを抱きしめる。温かい体温が伝わってきた。
「来てくれたのね、ウラノス。…ありがとう」
会いに来てくれた、それが嬉しくて、涙がこぼれる。その涙をウラノスは舌を伸ばして綺麗に拭った。
「これが、…白龍」
「大きい、ですね」
ヤードとメイソンは一歩も動かず、ウラノスを見ていた。軍で扱う見知った龍とは一回り違うその大きさに声が漏れる。2人の手がその腰にある剣の柄に触れているのは、ウラノスがけして味方でないことを感じ取ったからだろうか。
「隊長殿。警戒しなくて大丈夫です。白龍はアリシャ様の望まないことはしませんから」
「ライモンド…」
「どうして、そう言い切れるのですか?」
「私は、一度、白龍、ウラノスを見ています。ウラノスとアリシャ様との絆はきっとお2人が想像しているよりずっと強い」
「…」
ヤードとメイソンは無言でウラノスとアリシャを見ていた。自分たちの経験から、ウラノスのテリトリーに入ってしまえば、問答無用で攻撃されるのだろうことを感じ取る。だからこそ、ウラノスに触れることのできているアリシャが不思議だった。
「…正直、ずっと、カミル様は何をおっしゃっているのだろうと思っていました。アリシャ様の言うことを聞くのなら、何が何でも聖龍を使って、敵を殲滅すべきだろうと。どうしてそれをしないのだろうと。けれど、なるほど、これを見れば理解できる」
「ああ。アリシャ様以外はどうでもいいのだ、ということが空気を通して伝わってくる。確かにアリシャ様が望まぬ願いは、きっとアリシャ様が言ったところで聞きはしないだろうな。それ以上に…そんなことを言わせた我らを殺しかねない」
何度も死線をくぐってきた2人だからこそ、ウラノスからかすかに漏れる殺気を感じ取る。けれど2人がカミルの意図を理解したとしても圧倒的に不利な状況は変わらない。
「カミル…?」
アリシャとウラノスのやりとりを見ていたカミルが一歩踏み出した。ライモンドが呼びかけるが、返事はない。ゆっくり、近づいていく。
「ヴル!!」
攻撃圏内に入ったのだろう。ウラノスが翼を広げて威嚇した。
「ウラノス!やめて。…カミル様は優しい人よ」
「…ウル」
「大丈夫だから。ね?」
アリシャの言葉にウラノスは渋々、広げた翼をたたむ。けれど、警戒を解かないその様子にカミルは小さく苦笑を浮かべた。
けれどすぐに表情を戻し、まっすぐにウラノスの目を見る。初めて近くで見たその目はかすかに潤んでいた。その丸の中にカミルが映る。
カミルは一つ息を吸い、頭を下げた。突然のことに、ウラノス以外の皆が驚きを示す。
「ウラノス、君にお願いがある」
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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