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きゅんきゅんさせて
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「うわ~~、いい!!」
「婚約者を放っておくほど、何がそんなにいいんだ?」
ソファーのクッションに顔を埋めながら叫び声をあげるジェニファー。そんな彼女にレオナルドはどこか拗ねたようにそう言った。
ジェニファーとレオナルドはジェニファーが12歳、レオナルドが13歳であった5年前に婚約者となった。ブロンドの長い髪に小さな顔、大きな目。白い肌はきめ細かく、美しいジェニファー。端正な顔立ちに高身長、頭脳明晰で外交官として活躍しているレオナルド。2人並べば絵になるほどの美男美女。家の爵位はともに公爵であり、身分も相応しく、婚約者としてなるべくしてなったと言われている。
政略結婚であるものの、2人の仲はよく、レオナルドは少なくとも週に1回はジェニファーのところに顔を出していた。
「何って、小説だよ!この恋愛小説有名なのに知らないの?」
本の表紙を見せながらジェニファーは多少興奮気味にそう伝える。けれどレオナルドは興味なさそうに表紙を一瞥しただけだった。
「知らないよ、恋愛小説なんて。経済とか政治の本しか読まないからね、俺は」
「なんで!読んだ方がいいよ!キュンキュンするから!」
「キュンキュン、ね」
「もう、この切なくて甘い感じがもう、ほんと、キュンキュンするの。本当に格好いいし!」
「…へぇ、そんなに格好いいの?」
「格好いいよ!!この主人公を好きでたまらない感じが、もう、たまらない!…ほら、日常だと、なかなか、キュンキュンすることないから余計にドキドキするんだよね~」
「俺、一応、婚約者として会いに来てるんだけど?」
「だって、…ねぇ…」
ジェニファーはレオナルドを品定めするようにゆっくり上から下まで見た。王子様のような容姿は昔からだ。もちろん初めて会った時は、ドキドキした。こんなに格好いい人がいつか自分の旦那さんになるのか、と。容姿に加え、定期的に会いに来る真面目さも、話していると楽しいところも、もちろん婚約者として申し分ない。
「まあ、所詮、家同士が決めた婚約者だし?それに、一緒にいすぎてもうドキドキしないよ。何か家族みたいな感じかな」
「君が18歳にならないと結婚できないから、家族になるのはまだ2か月先だよ?」
この国では法律で結婚できるのは18歳以上と決められている。ジェニファーが誕生日を迎える7月まであと2か月残されていた。2人はジェニファーの18歳の誕生日の日に結婚式を挙げ、夫婦となる予定である。
「わかってるよ、そんなこと。そういう意味じゃなくて」
「じゃあ、どういう意味なの?」
「ん~。もっとキュンキュンしたいかな?あ、でも、大丈夫。レオナルドには求めてないから」
「…は?」
地を這うような低い声でレオナルドが聞き返す。けれど、その不機嫌さはジェニファーには伝わっていないようでジェニファーの視線はまたキュンキュンするという恋愛小説に向けられていた。
「これさえあれば、私はいつでもキュンキュンできるからね~」
とろけるようなジェニファーの表情にレオナルドの中で何かが崩れる音が聞こえた。
「キュンキュンさせればいいんだろ?」
「え?」
レオナルドの言葉の意味が分からず、ジェニファーは彼を見る。気付けば思ったよりも近くにレオナルドの顔があった。
「レ、レオナルド…?」
「レニー、だろ?」
レニーは近しい人だけに呼ぶことの許されているレオナルドの愛称。
「レニー?」
「なあに?ジェニー」
ジェニファーの愛称が甘い声で囁かれた。目の前に迫る端正な顔に頬が赤くなるのがわかる。
「結婚するまで触れることはできないから、我慢してたのに。…俺じゃなくてそんな小説にドキドキするなんて、ジェニーは悪い子だね」
「…レ、レニー、どうしちゃったの?」
「悪い子にはおしおき、しないとね」
「え?」
「キュンキュンしたいんだろう?」
レオナルドはその端正な顔に笑みを浮かべた。レオナルドの瞳にジェニファーが映る。こんなに近くに顔があったのは、この5年間で初めてだった。
「壁ドン、だった?君の好きなシチュエーション」
ジェニファーの顔をはさむように伸ばされたレオナルドの腕がソファーの背もたれを掴んだ。近かった顔がさらに近づく。
「壁じゃないけどね。でもこうして迫られたかった?」
「…」
「それから、顎クイ?」
レオナルドの右手がジェニファーの顎に触れた。抵抗する間もなく、上を向かされる。キスをしそうなその体制に、心臓はうるさいほど音を奏で始めた。
「これでも、キュンキュンしない?」
自分の容姿を最大限に生かしたその攻撃にジェニファーは完敗だった。顔は赤くなり、胸は大きく音を立てる。けれど対抗心がふつふつと浮かびあがってきた。
「こ、こ、こんなの、へ、平気、よ。…オリジナリティが、ないわ!」
「へぇ~」
耳まで赤いその顔からジェニファーの心情など容易に想像できるはずだ。けれど、レオナルドは攻撃の手を緩めない。
「そっか、そっか。ジェニーは手厳しいな」
「そ、そうよ。だからもう、離れ…」
て、と続けようとした言葉は続かなかった。レオナルドの手がジェニファーの膝裏と背中に触れる。そのまま持ち上げられた。
「な、何?…お姫様抱っこ?」
「ああ。でも、それだけじゃないよ」
そう微笑んでレオナルドは歩き出す。その先にあるのはジェニファーのベッド。
「……え?」
「俺なりの方法でジェニーに愛を伝えようと思ってね。他の男に目がいかないように」
「他の男って…小説の登場人物じゃない」
「架空の人物だろうと俺以外の奴にジェニーがキュンキュンするのは許せないんだ」
その言葉にジェニファーの胸はさらに音を立てた。
そっとベッドに降ろされる。軋むスプリングの音が妙に響いた。音を立てたキスを額に落とされる。
「レ、レニーって、私の事、好きなのね」
話を逸らしたくて、そんな言葉が口から出た。そんなジェニファーを意外そうな顔でレオナルドが見る。
「な、何?その顔」
「いや、知らなかったのか、と思って」
「え?」
「俺はジェニーが大好きだよ。…愛してる」
好かれていることは知っていた。けれどそれは友達の延長線上にある「好き」だと思っていた。優しい手が髪を撫でる。長い髪を耳にかけた。
「ジェニーが俺をどう思おうと、あと2か月したら俺たちは夫婦だ」
「…」
「だから諦めて俺を好きになって」
「…好きよ、私だって」
好きにならないはずがない。端正な顔立ちはもちろんのこと、マメに会いに来てくれるところも、一緒にいて楽しいところも、好きになる要素しかないのだ。けれど、ずっと友だちだと思われていると思っていた。政略だから仕方なく結婚するのだと。だから自分だけ好きなんて寂しいから、友だちだと言い聞かせてきた。
「政略結婚だから、じゃなくて?」
「もちろん政略結婚だけど。でも、好きよ。レニーのこと」
「俺も。俺もジェニーのこと愛してる」
愛してるとはでは言ってないんだけどな、と思いながらも幸せそうに笑うレオナルドの顔に「ま、いいか」と思えてくる。
レオナルドの端正な顔を見つめた。ゆっくり近づいてくる。ジェニファーは静かに目を閉じた。
「…っ…ん…」
不埒な手がジェニファーの胸を触る。思わず甘い声が漏れた。
「レ、レニー?」
慌ててレオナルドの名前を呼ぶ。この国では、結婚するまで関係を持たないことが一般的である。
「なあに、ジェニー?」
「何…って…っん…」
ジェニファーが抗議の声を上げる中でもレオナルドの手は止まらない。スカートの中を入ろうとしている動きに気づき、ジェニファーは慌ててレオナルドの腕を掴んだ。
「ん?」
「いや、ん?じゃなくて、…ねぇ、レニー」
「なに?」
「私、バージンロードが歩きたいわ」
暗に、今ここで関係を持ちたくないことを伝えた。そんなジェニファーにレオナルドは楽しそうに笑みを浮かべる。
「もちろんだよ」
「なら、離れてくれる?」
「それは、だめ」
「どうしてよ!」
「おしおきするって言っただろう?」
「え?」
「大丈夫、最後までしないから。最後の一歩手前までさ」
満面の笑みでそう告げるレオナルドにジェニファーはどうしていいかわからなかった。
「メ、メイドたちが勘違いするわ。最後までしてないなんて、みんなわからないんだから」
「それこそ、大丈夫さ」
「え?」
「もうとっくに勘違いしてるよ」
「…どういうこと?」
「ドアを閉めて2人きりでいる時点で、みんなずいぶん昔から君がバージンじゃないって思ってるよ」
「え?」
「でも、大丈夫。最後まではしないと誓うよ、今はね」
「…」
「愛してるよ、ジェニー」
囁かれるその声が甘くて、触れる手が優しかった。だから、ジェニファーは最後の抵抗をゆっくりと解く。
「私もよ、レニー。愛している」
それはお許しの合図。レオナルドは笑みを浮かべるとチュッと可愛い音を立ててキスを送った。
もちろん、そこからは、可愛さなんてないけれど。
甘さだけはたっぷりで、けれど、甘すぎて、キュンキュンなんてしている暇はなかった。
「婚約者を放っておくほど、何がそんなにいいんだ?」
ソファーのクッションに顔を埋めながら叫び声をあげるジェニファー。そんな彼女にレオナルドはどこか拗ねたようにそう言った。
ジェニファーとレオナルドはジェニファーが12歳、レオナルドが13歳であった5年前に婚約者となった。ブロンドの長い髪に小さな顔、大きな目。白い肌はきめ細かく、美しいジェニファー。端正な顔立ちに高身長、頭脳明晰で外交官として活躍しているレオナルド。2人並べば絵になるほどの美男美女。家の爵位はともに公爵であり、身分も相応しく、婚約者としてなるべくしてなったと言われている。
政略結婚であるものの、2人の仲はよく、レオナルドは少なくとも週に1回はジェニファーのところに顔を出していた。
「何って、小説だよ!この恋愛小説有名なのに知らないの?」
本の表紙を見せながらジェニファーは多少興奮気味にそう伝える。けれどレオナルドは興味なさそうに表紙を一瞥しただけだった。
「知らないよ、恋愛小説なんて。経済とか政治の本しか読まないからね、俺は」
「なんで!読んだ方がいいよ!キュンキュンするから!」
「キュンキュン、ね」
「もう、この切なくて甘い感じがもう、ほんと、キュンキュンするの。本当に格好いいし!」
「…へぇ、そんなに格好いいの?」
「格好いいよ!!この主人公を好きでたまらない感じが、もう、たまらない!…ほら、日常だと、なかなか、キュンキュンすることないから余計にドキドキするんだよね~」
「俺、一応、婚約者として会いに来てるんだけど?」
「だって、…ねぇ…」
ジェニファーはレオナルドを品定めするようにゆっくり上から下まで見た。王子様のような容姿は昔からだ。もちろん初めて会った時は、ドキドキした。こんなに格好いい人がいつか自分の旦那さんになるのか、と。容姿に加え、定期的に会いに来る真面目さも、話していると楽しいところも、もちろん婚約者として申し分ない。
「まあ、所詮、家同士が決めた婚約者だし?それに、一緒にいすぎてもうドキドキしないよ。何か家族みたいな感じかな」
「君が18歳にならないと結婚できないから、家族になるのはまだ2か月先だよ?」
この国では法律で結婚できるのは18歳以上と決められている。ジェニファーが誕生日を迎える7月まであと2か月残されていた。2人はジェニファーの18歳の誕生日の日に結婚式を挙げ、夫婦となる予定である。
「わかってるよ、そんなこと。そういう意味じゃなくて」
「じゃあ、どういう意味なの?」
「ん~。もっとキュンキュンしたいかな?あ、でも、大丈夫。レオナルドには求めてないから」
「…は?」
地を這うような低い声でレオナルドが聞き返す。けれど、その不機嫌さはジェニファーには伝わっていないようでジェニファーの視線はまたキュンキュンするという恋愛小説に向けられていた。
「これさえあれば、私はいつでもキュンキュンできるからね~」
とろけるようなジェニファーの表情にレオナルドの中で何かが崩れる音が聞こえた。
「キュンキュンさせればいいんだろ?」
「え?」
レオナルドの言葉の意味が分からず、ジェニファーは彼を見る。気付けば思ったよりも近くにレオナルドの顔があった。
「レ、レオナルド…?」
「レニー、だろ?」
レニーは近しい人だけに呼ぶことの許されているレオナルドの愛称。
「レニー?」
「なあに?ジェニー」
ジェニファーの愛称が甘い声で囁かれた。目の前に迫る端正な顔に頬が赤くなるのがわかる。
「結婚するまで触れることはできないから、我慢してたのに。…俺じゃなくてそんな小説にドキドキするなんて、ジェニーは悪い子だね」
「…レ、レニー、どうしちゃったの?」
「悪い子にはおしおき、しないとね」
「え?」
「キュンキュンしたいんだろう?」
レオナルドはその端正な顔に笑みを浮かべた。レオナルドの瞳にジェニファーが映る。こんなに近くに顔があったのは、この5年間で初めてだった。
「壁ドン、だった?君の好きなシチュエーション」
ジェニファーの顔をはさむように伸ばされたレオナルドの腕がソファーの背もたれを掴んだ。近かった顔がさらに近づく。
「壁じゃないけどね。でもこうして迫られたかった?」
「…」
「それから、顎クイ?」
レオナルドの右手がジェニファーの顎に触れた。抵抗する間もなく、上を向かされる。キスをしそうなその体制に、心臓はうるさいほど音を奏で始めた。
「これでも、キュンキュンしない?」
自分の容姿を最大限に生かしたその攻撃にジェニファーは完敗だった。顔は赤くなり、胸は大きく音を立てる。けれど対抗心がふつふつと浮かびあがってきた。
「こ、こ、こんなの、へ、平気、よ。…オリジナリティが、ないわ!」
「へぇ~」
耳まで赤いその顔からジェニファーの心情など容易に想像できるはずだ。けれど、レオナルドは攻撃の手を緩めない。
「そっか、そっか。ジェニーは手厳しいな」
「そ、そうよ。だからもう、離れ…」
て、と続けようとした言葉は続かなかった。レオナルドの手がジェニファーの膝裏と背中に触れる。そのまま持ち上げられた。
「な、何?…お姫様抱っこ?」
「ああ。でも、それだけじゃないよ」
そう微笑んでレオナルドは歩き出す。その先にあるのはジェニファーのベッド。
「……え?」
「俺なりの方法でジェニーに愛を伝えようと思ってね。他の男に目がいかないように」
「他の男って…小説の登場人物じゃない」
「架空の人物だろうと俺以外の奴にジェニーがキュンキュンするのは許せないんだ」
その言葉にジェニファーの胸はさらに音を立てた。
そっとベッドに降ろされる。軋むスプリングの音が妙に響いた。音を立てたキスを額に落とされる。
「レ、レニーって、私の事、好きなのね」
話を逸らしたくて、そんな言葉が口から出た。そんなジェニファーを意外そうな顔でレオナルドが見る。
「な、何?その顔」
「いや、知らなかったのか、と思って」
「え?」
「俺はジェニーが大好きだよ。…愛してる」
好かれていることは知っていた。けれどそれは友達の延長線上にある「好き」だと思っていた。優しい手が髪を撫でる。長い髪を耳にかけた。
「ジェニーが俺をどう思おうと、あと2か月したら俺たちは夫婦だ」
「…」
「だから諦めて俺を好きになって」
「…好きよ、私だって」
好きにならないはずがない。端正な顔立ちはもちろんのこと、マメに会いに来てくれるところも、一緒にいて楽しいところも、好きになる要素しかないのだ。けれど、ずっと友だちだと思われていると思っていた。政略だから仕方なく結婚するのだと。だから自分だけ好きなんて寂しいから、友だちだと言い聞かせてきた。
「政略結婚だから、じゃなくて?」
「もちろん政略結婚だけど。でも、好きよ。レニーのこと」
「俺も。俺もジェニーのこと愛してる」
愛してるとはでは言ってないんだけどな、と思いながらも幸せそうに笑うレオナルドの顔に「ま、いいか」と思えてくる。
レオナルドの端正な顔を見つめた。ゆっくり近づいてくる。ジェニファーは静かに目を閉じた。
「…っ…ん…」
不埒な手がジェニファーの胸を触る。思わず甘い声が漏れた。
「レ、レニー?」
慌ててレオナルドの名前を呼ぶ。この国では、結婚するまで関係を持たないことが一般的である。
「なあに、ジェニー?」
「何…って…っん…」
ジェニファーが抗議の声を上げる中でもレオナルドの手は止まらない。スカートの中を入ろうとしている動きに気づき、ジェニファーは慌ててレオナルドの腕を掴んだ。
「ん?」
「いや、ん?じゃなくて、…ねぇ、レニー」
「なに?」
「私、バージンロードが歩きたいわ」
暗に、今ここで関係を持ちたくないことを伝えた。そんなジェニファーにレオナルドは楽しそうに笑みを浮かべる。
「もちろんだよ」
「なら、離れてくれる?」
「それは、だめ」
「どうしてよ!」
「おしおきするって言っただろう?」
「え?」
「大丈夫、最後までしないから。最後の一歩手前までさ」
満面の笑みでそう告げるレオナルドにジェニファーはどうしていいかわからなかった。
「メ、メイドたちが勘違いするわ。最後までしてないなんて、みんなわからないんだから」
「それこそ、大丈夫さ」
「え?」
「もうとっくに勘違いしてるよ」
「…どういうこと?」
「ドアを閉めて2人きりでいる時点で、みんなずいぶん昔から君がバージンじゃないって思ってるよ」
「え?」
「でも、大丈夫。最後まではしないと誓うよ、今はね」
「…」
「愛してるよ、ジェニー」
囁かれるその声が甘くて、触れる手が優しかった。だから、ジェニファーは最後の抵抗をゆっくりと解く。
「私もよ、レニー。愛している」
それはお許しの合図。レオナルドは笑みを浮かべるとチュッと可愛い音を立ててキスを送った。
もちろん、そこからは、可愛さなんてないけれど。
甘さだけはたっぷりで、けれど、甘すぎて、キュンキュンなんてしている暇はなかった。
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