私が巻き戻りに気が付いた時

凪鈴蘭

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プロローグ 1

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昔から、私の姉はこの家の一番で、両親の一番で、私の一番。何でもできて、愛らしくて、誰もを引き付ける能力を持っていた。だから皆、姉を一番に褒める。
そして私に、「お姉様のように立派になりなさい」と言った。

だからいつも姉の真似をして歩いた。表情、所作、勉強の出来まで、全てを。
私と姉は双子だったから、似せればよく似た。私が完璧である姉の真似事をし始めてからは、誰もが姉と私を見間違えた。

姉の真似をすれば両親は褒めてくれた。公爵家の娘としてふさわしいと、誇らしいと。
でもそうしてしまったのが私の地獄の始まりだった。


「ゴホ、ケホッ…」

「せ、先生…!娘は、娘の病気は治るんでしょうか。」

「残念ながら、厳しいかと。死に関わるような病気ではありませんが、完治する可能性は低いです。」

「そんな…!!来月には皇太子殿下の婚約者を決めるパーティーがあるというのに…。」

姉のリンファシーは、治るという見込みがない病にかかってしまった。それからは寝たきりのようになってしまい、
元気に外を出歩ける日は日に日に減って行った。
両親は一番に可愛がっている姉を皇太子の婚約者にして、この公爵家から皇族を輩出したかったらしい。だがそれは姉が病を患ってしまったが故に、叶いそうにない状況に陥った。

「お、お父様。元気を出して。」

ある日私は落ち込む父を励まそうと書斎に顔を出した。その時、父はすぐ私と姉の顔を見間違えた。

「リン、寝ていなければ駄目ではないか。」

「お父様、私…ランデイシーです。お姉様は寝ているわ。」

すると父はハッとしたような顔をして、ズンズンと私の元へ歩いて来た。そして私の顔をじっと見つめると、顔を抱えておかしな笑い声を出し始めた。

「おとう、様?」

「そうだ、この家にはリンファシーによく似たお前がいるではないかランデイシー!!いいかいラン。来月の皇太子殿下の婚約者を決めるパーティーには、お前が参加しなさい。」

「…?お父様はお姉さまを皇太子妃にしたいのでは無かったのですか?」

「そうだ。お父様はお前の姉さんを皇太子妃にしたいんだ。でもリンは病気を患ってしまって、パーティーに出ることが難しい。だから、お前がリンファシーのフリをして出席するんだ。いいね?」

幼いながにも、そんな事をしていいはずがない事は分かった。それは王族の人間を騙す事に等しいからだ。
もしバレてしまったら、この公爵家がどうなるか分からない。

「だめです、それって、皇太子殿下を騙すってことに…、」

「黙りなさい!!」

「っ…!」

「リンファシーが皇太子の婚約者に選ばれればそんなのどうとでもなるんだ。皇族が影武者を使うなんてのは珍しい話じゃないからね。」

「そんな…、私は、私は私です。お姉さまが選ばれてしまったら、一生影武者をやらなければいけないわ。」

「それでいいんだ!!それがこの家と、リンファシーの一番の幸せなんだ!!!…分かったね?
返事は、返事はどうしたんだランデイシー。リンなら、私の言うことに逆らったりしないいい子だ。」

興奮しきった父のその顔は、私から見たら化け物のようだった。父は私と私の人生、幸せの事はどうでもいいというように、家の名誉と、姉の幸せを私の顔に全てをその日押し付けた。

「はい…、お父様。」




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