ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
119 / 128

第百十九話 「ロゼ」より、私達より感謝をこめて(2)

しおりを挟む


かなり恥ずかしいことを言った自覚がある故に、
余計に恥ずかしい。若干お決まりのような気がしなくもないが、
それどころではない。

「き、聞かなかったことに……」

と、言いかけたが、ユーシアスが身体を起こし、
覆いかぶさった様な姿勢を取った時点でそれは出来ないと分かった。

「そ、そういうのは直接言って欲しいといつも言っているんだがな」

少し照れているのか、赤い顔をしてぎこちない手つきで顔に触れてくる。
「い、言えるわけないでしょう!?」

ユーシアスは好きだの愛しているだのサラッと口に出してくるが、
普段から甘い台詞を囁けるほどの度胸はない。
そしてユーシアスの気持ちに答えるようにしか、なかなか
甘い言葉を口に出来ないでいた。

「それともなんだ、素直なのはベッドの上だけだなとでも言ってやろうか」
「お、怒りますよ……!?」

照れたと思えば、今度は拗ねたみたいな顔をして
指をぐにぐにと唇に這わせてくる。さすがにこれ以上されると
止まってくれない予感しかしないので、厚い胸板を押してみるが
どいてくれない。

「…ユーシアスってば」
「お願いロゼ、もう1回言って」
「…なに、を」
「愛してるって、もう1回言ってくれ」

久しぶりに見た、求められているような目。
この目に見つめられると、抵抗出来なければする気もないと
分かっているくせに、本当に彼はずるい。

「…やだ」
「ロゼ」

首筋にまで触れてくる。手がひんやりしていて、身体が
びくりと跳ねる。
「か、勘弁してってば……、そんな目で見ないで」
「ん?どんな目?」
「ど、独占欲丸出しみたいな目……」
「はは、実際そうだからな。その目に見つめられると、
なんだったかな、ロゼは俺のなすがままにされたくなるんだったか?」
「…っ、分かった、分かったから!これ以上意地悪しないで…
ゆ、ユーシアス…」
「うん」

「あ、愛してる……」

ユーシアスの服をひっぱり、聞こえないぐらいの小さな声で
耳元で囁いた。顔が真っ赤になって死にそうにはなったが、
これで許してくれるだろう。

「これでもう許してちょうだい。
あの、そろそろ日が登るから……、ん?ちょ、ちょっとユーシアス…、ユーシアスさん?」
「逆に何で許してくれると思った?あんまりにも可愛いから
使用人の誰かが入ってくるまで許してあげれそうにないな」

それは不味い、非常に、不味い。
逃げるなら、今しかない……が、遅かったらしい。
すでに手首を掴まれて固定されていた。

諦めて目を閉じると、触れるだけの口付けをされる。
舌を入れられるものばかりと思っていたので拍子抜けした
顔をしたところに、少し乱暴な口付けが再度される。


「んっ……ユーシア、ス…んんっ」
もはや名前を呼ぶことすら許してくれない。ただひたすらに
口付けが降ってきて、首筋や耳にまで手が進んだところで、
「お目覚めですか」と使用人が入ってきてしまう。

「…あ、ノエル……」

そして真っ赤な顔をしたノエルと目がぱちりと合う。

「ししし、失礼しましたぁっ!!で、ですが奥様!
そろそろお支度をしないと間に合わない、と、存じますっ!!」
「大賛成です!!」
「なんだ、もう終わりか」
「終わりです!」

無理矢理ユーシアスを押しのけると、クローゼットルームに
走ろうとする。

「…最終日だ、しっかりやっておいで」
「…はい!」

そう、今日は「ロゼ」の最終日。
お客様に感謝の気持ちを伝えれる最後の一日。
開店したのも閉店するのも、いきなりだったが、「ロゼ」は自分が自分でいられた場所、料理を好きだと言えた場所。
そして自分の料理を認めて貰えた場所で、
愛する人と何気ない会話ができた場所だ。

閉店しても、少しでも温かい店だったと覚えていて貰えるように、
沢山のありがとうを伝えられるように、一日を精一杯
務めよう。

そう思って、愛した店のドアを開いた。








しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

処理中です...