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第百十九話 「ロゼ」より、私達より感謝をこめて(2)
しおりを挟むかなり恥ずかしいことを言った自覚がある故に、
余計に恥ずかしい。若干お決まりのような気がしなくもないが、
それどころではない。
「き、聞かなかったことに……」
と、言いかけたが、ユーシアスが身体を起こし、
覆いかぶさった様な姿勢を取った時点でそれは出来ないと分かった。
「そ、そういうのは直接言って欲しいといつも言っているんだがな」
少し照れているのか、赤い顔をしてぎこちない手つきで顔に触れてくる。
「い、言えるわけないでしょう!?」
ユーシアスは好きだの愛しているだのサラッと口に出してくるが、
普段から甘い台詞を囁けるほどの度胸はない。
そしてユーシアスの気持ちに答えるようにしか、なかなか
甘い言葉を口に出来ないでいた。
「それともなんだ、素直なのはベッドの上だけだなとでも言ってやろうか」
「お、怒りますよ……!?」
照れたと思えば、今度は拗ねたみたいな顔をして
指をぐにぐにと唇に這わせてくる。さすがにこれ以上されると
止まってくれない予感しかしないので、厚い胸板を押してみるが
どいてくれない。
「…ユーシアスってば」
「お願いロゼ、もう1回言って」
「…なに、を」
「愛してるって、もう1回言ってくれ」
久しぶりに見た、求められているような目。
この目に見つめられると、抵抗出来なければする気もないと
分かっているくせに、本当に彼はずるい。
「…やだ」
「ロゼ」
首筋にまで触れてくる。手がひんやりしていて、身体が
びくりと跳ねる。
「か、勘弁してってば……、そんな目で見ないで」
「ん?どんな目?」
「ど、独占欲丸出しみたいな目……」
「はは、実際そうだからな。その目に見つめられると、
なんだったかな、ロゼは俺のなすがままにされたくなるんだったか?」
「…っ、分かった、分かったから!これ以上意地悪しないで…
ゆ、ユーシアス…」
「うん」
「あ、愛してる……」
ユーシアスの服をひっぱり、聞こえないぐらいの小さな声で
耳元で囁いた。顔が真っ赤になって死にそうにはなったが、
これで許してくれるだろう。
「これでもう許してちょうだい。
あの、そろそろ日が登るから……、ん?ちょ、ちょっとユーシアス…、ユーシアスさん?」
「逆に何で許してくれると思った?あんまりにも可愛いから
使用人の誰かが入ってくるまで許してあげれそうにないな」
それは不味い、非常に、不味い。
逃げるなら、今しかない……が、遅かったらしい。
すでに手首を掴まれて固定されていた。
諦めて目を閉じると、触れるだけの口付けをされる。
舌を入れられるものばかりと思っていたので拍子抜けした
顔をしたところに、少し乱暴な口付けが再度される。
「んっ……ユーシア、ス…んんっ」
もはや名前を呼ぶことすら許してくれない。ただひたすらに
口付けが降ってきて、首筋や耳にまで手が進んだところで、
「お目覚めですか」と使用人が入ってきてしまう。
「…あ、ノエル……」
そして真っ赤な顔をしたノエルと目がぱちりと合う。
「ししし、失礼しましたぁっ!!で、ですが奥様!
そろそろお支度をしないと間に合わない、と、存じますっ!!」
「大賛成です!!」
「なんだ、もう終わりか」
「終わりです!」
無理矢理ユーシアスを押しのけると、クローゼットルームに
走ろうとする。
「…最終日だ、しっかりやっておいで」
「…はい!」
そう、今日は「ロゼ」の最終日。
お客様に感謝の気持ちを伝えれる最後の一日。
開店したのも閉店するのも、いきなりだったが、「ロゼ」は自分が自分でいられた場所、料理を好きだと言えた場所。
そして自分の料理を認めて貰えた場所で、
愛する人と何気ない会話ができた場所だ。
閉店しても、少しでも温かい店だったと覚えていて貰えるように、
沢山のありがとうを伝えられるように、一日を精一杯
務めよう。
そう思って、愛した店のドアを開いた。
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