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第百十六話 幸甚なひとりごと(2)
しおりを挟む「ひゃ、百回…?」
「そおよ。もうフラれてフラれてしょうがなかったの」
こんなに完璧で紳士的でまさに女性の理想の結婚相手と言われる
シアンが百回もプロポーズして断ったとなると、かなり手ごわい女性のようだ。
だが一回りという年の差もあればお互い騎士団大佐、二人の時間があまり作れない。
案外問題やしがらみが多い、のかもしれない。
「言っとくけどローアンが考えてるほど単純な話じゃなかったわ」
「と、いいますと…年の差やお互い騎士団大佐ということは関係していないのですね?」
「まあそうね。私が孤児だったって話したことあったかしら」
確かに、シアンに真名で呼んだ方が良いか…と尋ねた時、
孤児だったから変わらずに呼んで欲しい…と言われたことを思い出す。
「ええ。ラビさんとシアンさんが孤児であるということはお聞きしましたけど」
「そうだったわね。…私は孤児院にいてね、何ていうのかしら…その、
今からすれば想像できないかもしれないけど、当時すごく荒れてたっていうか…
両親に捨てられてグレてたっていうの…?まあそんな感じで…」
シアンが苦笑いしながら恥ずかしそうにしているのを見て、はしたなくも
あんぐりと口を開けてしまった。
シアンはそれこそ女子力も高く、気品があれば頭脳明晰で
剣の腕もこの帝国一の大佐のトップ。
そんなシアンに荒れていた時期があったなど誰も想像がつくまい。
「世界滅びればいいのに、ぐらい思ってたかもしれないわね。
かなり近所の子供と喧嘩もしてて、それで強いもんだから調子に乗ってた…と思う。
そんなやんちゃしてる時に、アルカンジュに出会ったの」
「そ、そこで奥様に…」
「やあね、まだよ。
アルカンジュは十四歳の時から剣聖だったんだけどね、子供が昔から好きで
孤児院に多額の寄付金を送ってて、よく子供たちの顔を見に来てた。
そんなアルカンジュにまあよく失礼なことしちゃってたわ…。
女なのに剣聖だなんて変なの…とかだっせぇ…とかね。」
思春期な男の子にありがちな行動だな…と苦笑いする。
同じくシアンも苦笑いだが、それでも何だか声色が明かるく、はずんでいる。
苦い思い出かもしれないが、自分の好きな人との思い出話だ。きっと話していて楽しいのだろう。
「まあそこでお決まりに私はアルカンジュに勝てる…何て思って
喧嘩ふっかけて普通にやられたわね。そこで彼女に、そんな強さじゃ、
国の守護者であり、剣である剣聖には勝てないわ…って当然のこと言われたのに、
彼女がかっこよくて、美しくみえてしょうがなかったのよ。
それが私と彼女の出会い。…だから私がだっさい話って言ったんだけどね」
アルカンジュの話をするシアンは楽しそうであったが、それと同時に
アルカンジュのことを誇らしげに話すのだ。よほど彼女に対する思いは強く、
そしてその気持ちも大切にしている。
「…いいえ、とても、とても素敵です。」
「あら、嬉しい。でね、
彼女に負けた私はムキになって、彼女に勝ちたくて、でも
孤児に誰も剣なんて教えてくれなから恥をしのんでアルカンジュに剣の教えを請いた。
それで彼女が剣の師匠になったし、こんな口調なのも、教えてもらっていくうちに
彼女を尊敬して、彼女みたいになりたいって思い始めたからなの。
でねでね…」
と、そこでお決まりのようにドアが開く。
「…シア、ここにいたの?」
「あ、アルカンジュ…?」
こんな話をしているのがバレたら殺される…みたいな会話を聞いたのを
思い出して、シュリとツキヤ、ラビリムに目を向けたが
見事にそらされたため、「あ、これ怒られるやつだ…」と、顔を青くさせた
ヴィルテローゼだった。
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