ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
114 / 128

第百十四話 再びの証(3)

しおりを挟む

「んじゃ、ごちそうさん」

ハヤテが代金を置いて立ち去ろうとしたのに慌てふためく。

「ちょちょ、いただけませんよ!」
「あ?」
「私が気まずくて勝手に出しただけですし注文受けてませんし…」
「…あー、この前割っちまったコップ代ってことにしてくんね?
悪かったな」
「…じゃあ、頂いておきます。
でも急にびっくりさせるようなこと言った私も悪かったですし、
あまり気になさらないで下さい」
「あんがと。じゃあな…っと、あとあんま無理して旦那に心配かけんじゃねぇぞ。
元気な子産めよ」
「もちろんです。…また王城ででも訓練場でも見かけたら
話しかけて下さいね」

先程告白を断った相手に言う台詞でないことは分かっている。
だがこうでも言っておかないと、これが最後の会話になりそうで名残惜しかったのかも
しれない。

「ばあか、永遠の別れじゃねえんだからそんな顔すんなっつーの。
じゃあな」
「…はい」

笑顔でハヤテを見送り、また静かな店内に戻る。
しばらくは誰も来ない気がしたので自分用の紅茶を入れて、カウンター席に座る
お客様と話せるように設置した椅子に座って一息ついた。

「おめでとう…か」

今はここに、カフェ「ロゼ」の店長として座っているが、
元は公爵令嬢で元皇后だった人間だ。皇太子との婚約が決まった時は
皇后の座を狙っていた令嬢達にまったく心がこもっていない「おめでとうございます」や、
「ヴィルテローゼ様こそ皇后にふさわしいと思っておりました」などの言葉を
散々聞いたことをふと思い出す。
散々敵視していたくせに、決定したとたん媚びを売ろうと必死になる人間の醜さに呆れていたが、

ルボニーが言ってくれたことも、ハヤテが言ってくれたおめでとうも、きっときっと本心だ。
婚約破棄されて剣聖になっていなければこのカフェで祝福を受けることもなかったであろう。
そして、再び開店する日は遅くなってしまい、閉店ということになったがそれは
ヴィルテローゼが幸せになれたという証である。

「…なかなかこの人生も捨てた物じゃありませんよね」

なんてたそがれてみる。

「何言ってんだか、恥ずかし…」
「アンちゃん、来たよー!!」
「お邪魔するわよローアン!」
「お久しぶりです!」
「ム……」

一人自分が考えていたことに酔いしれる発言をかましていたところにいきなり
シュリ、シアン、ツキヤ、ラビリムが突撃してくるものだから椅子から転げ落ちそうになる。

「どわああああ!!??」
「あらやだ、びっくりさせちゃった?」
「い、いえ…。皆さんお変わりないようで…
カフェ「ロゼ」にようこそ。お好きなお席にお座り下さい」

と、かつての同僚に微笑む。
「ところで、さっきの私の独り言聞いてたりします?」
「何のことですか?」
「あっー!何でもないんです、聞いていないのなら!」

一人店内でたそがれていたことなど知られたらこの先生きていけない。
それも元同僚、伴侶の現仕事仲間には特に。

「シュリとラヴィーネは会ってたみたいだけど、あんたも変わってなさそうで
よかったわローアン。元気してた?」

相変わらずのシアンのお姉様口調が優しすぎて、少し泣きそうになる。
こうやって「何かあった?」と聞かれるみたいに尋ねられると剣聖時代を思い出してしまうのだ。

「あ、はい。ありがとうございます…」
「そう。それは何より…」
「あ!聞いてきて!!しーちゃんもね、結婚するんだよ!」


シュリが身を乗り出してビックニュースを告げてくるので、思わず言葉が出てこない。

「ばっか!それは言わない約束だっていったじゃないのよシュリのおばか!!!」
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...