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第百十一話 ロゼの終わりとこれからと(3)
しおりを挟む「ふう、久ぶりにあんなに食べました」
朝食後、ヒルデ邸にあるガーデンにてヴィルテローゼとユーシアスは
くつろいでいた。
天気が良く、日差しが少し差し込んでいるので暖かい、その心地よさに
目を細める。
「ロゼは目が覚めてからそんなに食べられなかったもんな」
「はい。」
「使用人の皆とは仲良くできたか?
悪い奴は一人もいないと思うが」
「はい!皆様とても優しくて良くしていただけました。」
ユーシアスが冷徹なイメージで通っていたのでどうかは
少し不安だったが、とても暖かい場所だとヴィルテローゼは感じていた。
貴族会では来た嫁が軟弱に見える、もしくは傲慢な態度を取る人間でその家の主人と
仲が良くなかったり、いつまでたっても子供が授からないと
使用人に嫌われたり陰口を言われてしまうことはよくある。
だが彼女に乱雑な態度を取る者は一人もおらず、血のつながりもなければ
絆もない人間を「家族」として向かい入れようとしてくれたヒルデ邸の使用人たちとは
これからも仲良くしていけそうだった。
「よかった。皆俺の家族のような人達なんだ。
仲良くしてやってくれ。」
「ふふ、仲良くしてもらうのはこちらの方ですわ。」
「上手くやっていけそうでよかった。
…してロゼ」
「はい」
「本当にあのカフェを終わらしてしまってもいいのか?」
不安そうなユーシアスの言葉に体がぴくりとはねる。
公爵夫人になればハッキリ言ってカフェを営業している時間などない。
現にヴィルテローゼの母、ブレティラがそうであったのを彼女はよく知っている。
「続けたいか」「続けたくないか」ではなく、拒否権は最初から与えられていない。
「何言ってるんですユーシアス。
これは私のわがままを聞く所ではないですよ…?
公爵夫人ともなればカフェを開いている時間なんてありませんし、
そんな噂が広まってしまえばヒルデ家にも泥を塗りかねません。
…っていうのは建前つつ本心なのですが」
苦笑いをする妻をユーシアスは相変わらず不安の表情で見つめていた。
カフェが無くなると、通ってくれた客人、あの店を好いてくれていた人に申し訳なささも
あれば悲しさもある。
あそこはヴィルテローゼがユーシアスと恋に落ちたきっかけとなった場所でもあるし、
初めてヴィルテローゼの料理が認められた場所だ。
だが公爵夫人となりユーシアスの妻になると決めた時から、離れず共に歩むと決めたのだ。
我がままを我慢したわけでも本心続けたい訳ではない。
「あそこにはいろんな思い出がつまっています。
あなたとこうして夫婦になるきっかけになった場所でもあれば、私の料理が
認められた場所でも、お客様が喜んでくれる大切な愛する場所です。
ですけど、あなたと結婚するって決めた時からそんなの決めてたんですよ。
あのお店は三日間で閉店とさせていただきます」
曇りのない妻の声を聞いて、これ以上聞くのは無粋だと判断したユーシアスは
微笑んだ。
「…わかった。それと、ありがとう」
「何に対してのお礼でしょうか。店を閉めることに対してのお礼ですか?」
「んなわけあるか。…その、俺の妻になることに関して、
きちんと心を決めていてくれたことに関して…。
でもあそこは、上皇陛下から剣聖になるという交換条件で頂いた物だったのに
いいのか?」
「う~ん、それもそうですけど、結構憂さ晴らしにもらった感ありましたから。
嫌な仕事するんなら少しでも楽しみが欲しかったというか…?
なので、今が幸せだからそこはいいかなって、思います」
そうして残り三日で、彼女が作り上げたカフェ、「ロゼ」の
閉店が決まった。
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