ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第百三話 帰る場所(3)

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「……っと、悪い」

ハヤテがハッとしてカップを拾う。
「割っちまったな…弁償…」
「そんなの大丈夫ですよ。怪我すると危ないですから…」

とヴィルテローゼが持ってきたほうきとちりとりを
ハヤテが「貸して」と奪う。
「お客様にそんなことさせられません!」
「……妊娠、してんだろ。体大事にしろ」

それはもちろんだが、割れたカップを片付けるだけで
大袈裟な…と思うがハヤテをかなり驚かせてしまったようだ。

「……すみません、驚いちゃいました?」
「お前、目覚めて一週間って言ったよな?
それは、嘘じゃないんだよな?」
「ええ。嘘をつく必要がどこに?」
「じゃあなんで妊娠してる?
一週間じゃ分かるもんじゃねえだろ。」

少しハヤテの声が震え、怒っているような声色であったため
ヴィルテローゼは眉を潜ませる。

「それは……」
「まさか、寝てる間に無理矢理っ…」

説明しようとした所で、衝撃の一言を言われ、
思わず声を荒らげた。

「ユーシアスはっ、私の夫はそんなことしません!!!!
このお腹の子はっ……眠りにつく前からいた子供なんです。
それを、眠っている間に出産は出来ないし私が栄養も取れないから魔法で胎児の成長を止めていた…んです。
この子は、私が目覚めた今成長をし始めたの…。
それも望んで出来た子で何も出来てしまった子供ではない、の。
それにユーシアスは私のことを傷つけたりなんて、しない。
だからっ……」

「じゃあ何でここにいるんだよ…ちょっとあいつから
逃げたかったからじゃねぇのかよ。
帰る場所に、今帰れないのはユーシアスに傷つけられたからじゃ
ねぇのかよ!!」
「ちがっ……!」

違わない。今は帰りたくない。彼に傷つけられた。
夫がまだ純粋で、自分らしく、素でいられたこの店に
少し思い出を感じに来たと同時に、逃げてきてしまったのだ。
だがまるでそれでは今の彼を愛していないみたいで、嫌になる。

昔の甘党なお客様なユーシアスであろうが、今の夫となったユーシアスであろうが、変わらず愛している。
ユーシアスに疑うなと怒っておきながら、ヴィルテローゼの
ユーシアスへの愛を疑っているのは自分自身かもしれない。
「俺なら、そんな顔……させねぇのに」
「え…?」

それは、思い違いでなければものすごい意味の、重い言葉。
ずっしりと心に沈んで、沈んで…と動かない。

「……あっ」
声を荒らげたからなのか、ぐらりと視界が傾く。
あまり無理はしてはいけなかったのに、これでは
またユーシアスに怒られてしまう…と地面に沈んだ。

「ローアン!!」






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