ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第百二話 帰る場所(2)

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「……ロー、アン?」

懐かしい声にビクリと体が跳ねる。

「ローアン、ローアンだよなっ!?」

少し伸びていた黒い髪、変わらず美しい青い瞳、
久しぶりに見た仲間の…ハヤテの姿だった。

「……ハヤテ?」
「おっ…お前っ……」

ハヤテはその場に泣き崩れ、慌ててヴィルテローゼは
駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか?
え、ええとっ…幽霊ではありませんから安心して、ください」

久しぶりなのでなんと声をかけたらいいかが分からない。
ハヤテは泣いて肩を震わせている。
落ち着かせたいがさすがに抱きしめるわけにはいかないため
手を握った。

「ほら、大丈夫ですよハヤテ。
こうやって…ちゃんと生きていますから」

微笑むとようやくハヤテは顔を上げた。
「いつから目覚めてたんだよ…」
「一週間半前、ぐらいでしょうか。」
「なんでここに…?」
「……ううーん、ユーシアスと揉めちゃって。
しばらく帰りたくないのでとりあえず座りませんか?
お茶を入れますから」
「お、おう」

ハヤテは泣いてしまったことを恥ずかしがったのか
ぷいとそっぽを向いてしまう。

キッチンには材料が揃っており、驚く。
もしかしたら、目覚めてもう少ししたら公爵夫人の仕事を任され、
この店を締めなければならないため少しの間開けさせてくれる
ようにユーシアスが準備してくれたのかもしれない。

クリームチーズと生クリームを取り出し、
泡立てる。
紅茶の茶葉を火にかけ、カップに紅茶を注ぎ
チーズクリームを上に乗せる。

「どうぞ。
確かハヤテはチーズがお好きだと記憶しているので
チーズティーを用意してみました。」
「…さんきゅ」

ハヤテはチーズティーを1口口に運ぶと、1度カチャンと
紅茶を置き、じっと真剣な瞳で見つめてくる。

「……ローアン、あのさ」
「ん?」
「お前の、ブリューナク、壊したの……俺の兄貴なんだ」

ハヤテの表情を見る限り、よほどその事を気にしていたようだ。
別にハヤテのせいでも何でもないと思うが、
「ハヤテのせいじゃないですよ」という言葉は今の彼にとって
きつい言葉かもしれないと思い、ただ頷いた。

「……はい」
「きちんと、決着をつけた…けど、俺は兄さんが亡霊になってるってこて知ってたんだ。……俺が弱かったせいで、覚悟がなかったせいでお前を傷つけて、一年間を奪った。
……本当にすまない!!」

ばっと頭を下げるハヤテをじっと見つめ、
フッと苦笑いする。そしてポンポンと頭を撫でる。

「はい、よく頑張りましたね。
でも謝らなくていいんですよ?幸せですし、愛する人にももう一度会えたし…新しい命も、このなかに……。」


そう微笑んだヴィルテローゼにハヤテは目を見開き、
カップを落としてしまった。
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