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第百一話 帰る場所(1)
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「あなたいつもそればかりだわ」
ヴィルテローゼの濡れた声にユーシアスは俯いた顔を上げた。
「…ロゼ?」
「分かってくれ分かってくればっかり…
私、ちゃんとあなたを愛しているし逃げたりもしない。
そりゃ…ユーシアスを不安にさせたかもしれません、不安にさせるようなことも言いました、
寂しい思いだってさせてしまいました。
でも…でもこんなのあんまりよ。
子供がいることを黙まっていたり監視したり、それは私のあなたへの愛を疑う行為でしかないじゃない!!
いつだってユーシアスは私のことを第一に考えて、私が嫌がることも傷つけるもしないけれど…
大事なことから隠されるみたいなっ…こんな風に大切にされたくないっ…」
ボロボロと涙を流し、部屋を出ていこうとするヴィルテローゼを、
ユーシアスは止めることが出来なかった。
ヴィルテローゼが自分を愛してくれていることは分かっている、彼女の毎日の優しさも
囁かれる言葉も、何一つ疑ったことなどない。
だが、大切にしたいという気持ちが束縛となり、一番してはいけないことをしてしまった。
妊娠を黙っていたのは目覚めたばかりで混乱するのではないかという考えからだったが、
ヴィルテローゼが子供が出来たことを取り乱したりすることなどなかっただろう。
むしろ喜んで、嬉し涙を流してくれただろう。
だってヴィルテローゼとの子供は彼女と決めて授かった命であり、突発的に授かった命ではない。
なのに監視したり、部屋から出さなかったりではそれは疑い以外の何物でもない。
ヴィルテローゼは魅力的で、何にも興味をしめさない男にも、
不特定多数の女を作り、真剣に恋をしたことがない男も夢中にさせてしまう
清く正しく美しい女性
だがヴィルテローゼが愛を囁くのも、愛しているのも、
体も心も許すのはユーシアスただ一人とユーシアスも分かっている。
なのにこの結果に至り彼女を傷つけ、泣かせてしまったのだ。
「…くそ、俺は馬鹿か!!」
彼女ときちんと話をしたい。「分かってくれ」ではなく、「ごめん」
と謝りたい。その思いからすぐに部屋を飛び出した。
「ロゼ!」
ヴィルテローゼの部屋の前まで来たが、いる気配も音もしない。
「…いるのか?すまない、開けるぞ」
おそるおそる部屋のドアを開けるが、そこには誰もいない。
それから公爵邸を走り回った。
ヴィルテローゼお気に入りの書庫、一緒にティータイムを毎日過ごすガーデンテラス、
食堂、寝室…どこを探してもいなかった。
「…ロゼ、どこだ…」
まさか…ヒルデ公爵邸領地にいない…?と気づかなかったことに気が付く。
実家か、それとも…
「カフェ…ロゼにか?」
もう騎士団大佐でないヴィルテローゼが行くところはその二つしか思いつかない。
「団長、どちらに?」
訓練場で訓練をしていたゼノに声をかけられる。
「妻を迎えにな」
「ロゼさ…奥様を?
裏門から出ていかれたのを見ましたが…団長の許可があったわけでは、
なかったようですね。泣いてどこかに助けを求めるような目をしていらしたのでお止めすることが出来ず…
お止めするべきでした、申し訳ございません。」
「いや、いい。」
「自分が行きましょうか?それとも誰かを使いを出させますか?」
「俺が迎えにいかなければ意味がないのだ。
それに、愛する妻を迎えに行くのは夫の役目だ。」
そう言ってユーシアスは馬を走らせた。
その頃ヴィルテローゼはカフェ「ロゼ」の中で
頭を抱えていた。
騎士団に所属している日は非番の日にたまに開けることしか出来なかったので、
一年ぶりに来たことになる。そんなに汚れていないということは、
もしかしたら公爵邸の誰かが定期的に掃除してくれていたのかもしれない。
「…どうしましょう、黙ってきてしまいました…」
公爵夫人とあろう者がこんな時間まで帰らないなどあってはならない。
それこそもっとユーシアスに疑われても文句は言えず、
夜遅くまで帰らなかったことが使用人の間で噂になれば、お腹の子供も本当に公爵の子供
なのか、よその男との子供を作った卑しい女…などと言われてもしかたがないことになってしまう。
はあ…とため息をつき、もう暗くなり灯りがついた明るい家々を窓から眺めた。
帰らなければ皆心配し、心配をかけるし疑われる。だが今は、帰る場所に帰りたくない。
「…帰りたくないなぁ」
カウンターキッチンにはあ、ともたれかかた時だった。
一年ぶりに聞いた、来客を知らせる店のベルが鳴る。
「……ロー、アン?」
ヴィルテローゼの濡れた声にユーシアスは俯いた顔を上げた。
「…ロゼ?」
「分かってくれ分かってくればっかり…
私、ちゃんとあなたを愛しているし逃げたりもしない。
そりゃ…ユーシアスを不安にさせたかもしれません、不安にさせるようなことも言いました、
寂しい思いだってさせてしまいました。
でも…でもこんなのあんまりよ。
子供がいることを黙まっていたり監視したり、それは私のあなたへの愛を疑う行為でしかないじゃない!!
いつだってユーシアスは私のことを第一に考えて、私が嫌がることも傷つけるもしないけれど…
大事なことから隠されるみたいなっ…こんな風に大切にされたくないっ…」
ボロボロと涙を流し、部屋を出ていこうとするヴィルテローゼを、
ユーシアスは止めることが出来なかった。
ヴィルテローゼが自分を愛してくれていることは分かっている、彼女の毎日の優しさも
囁かれる言葉も、何一つ疑ったことなどない。
だが、大切にしたいという気持ちが束縛となり、一番してはいけないことをしてしまった。
妊娠を黙っていたのは目覚めたばかりで混乱するのではないかという考えからだったが、
ヴィルテローゼが子供が出来たことを取り乱したりすることなどなかっただろう。
むしろ喜んで、嬉し涙を流してくれただろう。
だってヴィルテローゼとの子供は彼女と決めて授かった命であり、突発的に授かった命ではない。
なのに監視したり、部屋から出さなかったりではそれは疑い以外の何物でもない。
ヴィルテローゼは魅力的で、何にも興味をしめさない男にも、
不特定多数の女を作り、真剣に恋をしたことがない男も夢中にさせてしまう
清く正しく美しい女性
だがヴィルテローゼが愛を囁くのも、愛しているのも、
体も心も許すのはユーシアスただ一人とユーシアスも分かっている。
なのにこの結果に至り彼女を傷つけ、泣かせてしまったのだ。
「…くそ、俺は馬鹿か!!」
彼女ときちんと話をしたい。「分かってくれ」ではなく、「ごめん」
と謝りたい。その思いからすぐに部屋を飛び出した。
「ロゼ!」
ヴィルテローゼの部屋の前まで来たが、いる気配も音もしない。
「…いるのか?すまない、開けるぞ」
おそるおそる部屋のドアを開けるが、そこには誰もいない。
それから公爵邸を走り回った。
ヴィルテローゼお気に入りの書庫、一緒にティータイムを毎日過ごすガーデンテラス、
食堂、寝室…どこを探してもいなかった。
「…ロゼ、どこだ…」
まさか…ヒルデ公爵邸領地にいない…?と気づかなかったことに気が付く。
実家か、それとも…
「カフェ…ロゼにか?」
もう騎士団大佐でないヴィルテローゼが行くところはその二つしか思いつかない。
「団長、どちらに?」
訓練場で訓練をしていたゼノに声をかけられる。
「妻を迎えにな」
「ロゼさ…奥様を?
裏門から出ていかれたのを見ましたが…団長の許可があったわけでは、
なかったようですね。泣いてどこかに助けを求めるような目をしていらしたのでお止めすることが出来ず…
お止めするべきでした、申し訳ございません。」
「いや、いい。」
「自分が行きましょうか?それとも誰かを使いを出させますか?」
「俺が迎えにいかなければ意味がないのだ。
それに、愛する妻を迎えに行くのは夫の役目だ。」
そう言ってユーシアスは馬を走らせた。
その頃ヴィルテローゼはカフェ「ロゼ」の中で
頭を抱えていた。
騎士団に所属している日は非番の日にたまに開けることしか出来なかったので、
一年ぶりに来たことになる。そんなに汚れていないということは、
もしかしたら公爵邸の誰かが定期的に掃除してくれていたのかもしれない。
「…どうしましょう、黙ってきてしまいました…」
公爵夫人とあろう者がこんな時間まで帰らないなどあってはならない。
それこそもっとユーシアスに疑われても文句は言えず、
夜遅くまで帰らなかったことが使用人の間で噂になれば、お腹の子供も本当に公爵の子供
なのか、よその男との子供を作った卑しい女…などと言われてもしかたがないことになってしまう。
はあ…とため息をつき、もう暗くなり灯りがついた明るい家々を窓から眺めた。
帰らなければ皆心配し、心配をかけるし疑われる。だが今は、帰る場所に帰りたくない。
「…帰りたくないなぁ」
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