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番外編1 皇后の舞台裏(3) 百話記念
しおりを挟む「こっちにおいで」そう言われたアマレッティは
「えっ」と立ち止まってしまった。
意識してからというもの、グラディウスが何だか
色っぽく見えてしょうがないのだ。
もとからその様な容姿をしていることは分かっていたが、
意識すれば尚更、今から何かをされる妄想ばかりが高まる。
「どうしたの?」
「いやあの…その、こ……困るんです」
こんな言い方をしてはグラディウスを傷つけるかもしれない。
だが頭が混乱して上手く話せないのだ。
「……困る、か。
君を困らせることは分かっていたよ。でもね、私の自惚れでなければ嫌われてはないと思っているんだけど」
グラディウスがアマレッティの頬に触れ、
アマレッティの体がビクリと跳ねる。
困るというのは好意を寄せられたら困るのではなく、
グラディウスを意識すればするほど、ドキドキしてしまう
ことに困るのだ。
グラディウスが皇帝になると誓ったあの日から、
アマレッティの忠誠が揺らいだことなどただの一度もない。
だから今、グラディウスを主として見ているから応えられずにいるのか、自分の気持ちに頭が追いついていないのか分からない。
「嫌いなわけが、ございませんでしょう…。
私はあなたの剣なのですもの、一生の忠誠をとうに誓っている
身でございます。ですから、困るのです。
そのっ…恐れ多くも意識すればするほど、心が落ち着かなくて、
苦しいのですグラディウス様…。」
アマレッティがきゅうっと胸を抑えて俯くのを見て、
グラディウスは優しく微笑む。
「なんだ、困るってそういうことかい?
まったく可愛いな、私のアマレッティは…。
意識はしてくれていたんだね?」
「いや、あのっ…………はい」
アマレッティがさらに顔を赤くするのにグラディウスは
クスリと笑って跪いた。
「ねぇアマレッティ。
私ね、将来一緒に国を築いていくのは、私の隣にいてくれるのは、君がいい。…幼い頃からずっと君を見てきた。
どこが好きかって聞いたね。単純な理由で恋をしてずっと片思いしてきたなんて気持ち悪い話かもしれないが、何も期待されていなかった私の''王になる''という馬鹿げた話を真剣に聞いて、
頷いてくれたのは、君が初めてだったんだ。
あとね、いつだって真面目で聡明で、
ちょっと、ううん、かなり天然で自分の気持ちに疎すぎて、
その癖して人の事には人一倍敏感で何でもすぐ気がついちゃうし
隠し事できなくて、落ち込んでたらちょっと怒らせてでも元気を出させようとしてくれる、そういういつものアマレッティが大好き。
こんなこと思ったのも、好きになったのも愛したと思ったのも
昔も今もこの先も、ずっとアマレッティだけだよ。
だから、私の妻になって欲しい」
グラディウスの真剣な視線にアマレッティは何も言えなくなる。
だが、主が望むのならそれに応えたいとも思う。
ここで断ればグラディウスは別の令嬢か姫と結婚するだろう。
そうすればその妻が女性の護衛を嫌がり護衛から外されるのが
おちで、二度とグラディウスの隣に立つことは許されない。
脳内でぐるぐると感情が渦巻く。
グラディウスの側にいたいだなんて思いながら、
それが恋愛感情なのか忠誠なのか分からず、
そして別の女性がグラディウスの隣に立つことを嫌がる感情さえもある。グラディウスは王となり、自分でない別の女性を隣に立たせ子を育みいつか幸せそうな表情をする。そんなのは、耐えられない。
それに何だか少し笑えてくる。「なんだ、自分もちゃんと、無意識ではあったが恋愛対象としてグラディウスを慕っていたのだと」。
これが忠誠心か?いや、全くの別物だ。
「えっと…」
「私の隣は嫌かな。
君が断ればいずれは別の女性が私のとなりに立つことになるけれど…それに護衛の役職からも外れる」
「……殿下」
「ん?」
「まだ、突然の事で整理がついておらず…その、
一日いただけませんか?
私…、今あなたの気持ちに応えたいと思っているのです。
それに……それに、グラディウス様のお側にいられないのも、
いや、なんです。そこまで分かっているのに、答えは出ているのに、側にいたいという感情が忠誠心なのか、女としてグラディウス様の隣にいたいのか分からないなどと言い訳をする私を、どうかお許しください。」
顔を真っ赤にするアマレッティにグラディウスは
目を見開き、間抜けな表情で問いかけた。
「それは……ええっと、
私の妻になる決心、のための一日ってことかな…?」
「……は、はい」
「じゃ、じゃあ返事は…えっと」
「その、ふつつか者ですが、お願いします…」
そう答えると、グラディウスへなへなとしゃがみこむ。
「殿下!?だ、大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃないよ、大丈夫なわけない…
だってずっと好きだった女の子に結婚の返事をもらえたんだから…」
さっきまでかっこいいことを言っていた人と別人のように
グラディウスは顔を覆いしゃがみこんでいる。
そらにクスリと笑って手を差し伸べようとしたが
逆に手を引っ張られる。
「ひゃ!?」
距離が5センチほどしかないまでに顔を近づけられた。
「言っとくけど、言い訳でも忠誠心か恋心なのか
分からないなんて絶対言わせないから。
これだけ初めてを奪われたんだ、アマレッティの全部の初めて、
俺にちょうだい?逃がさないから」
「っ~……」
それからグラディウスとアマレッティが
仲睦まじくおしどり夫婦となるには時間がかからなかった
という。
番外編 [完] 百話記念「皇后の舞台裏」
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