ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第百話 忘我(2)

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「今帰った…」

「お帰りなさい」

ユーシアスは愛する妻の声にビクンと体を震わせた。
それにヴィルテローゼが苦笑いする。

「どうしました?
そんな怯えるみたいな顔をして」
「……分かっているくせにそんなことを聞いてくるなんて
君も怖いな。話をしようか」
「ええ」

望んでいることをユーシアスがきちんと言ってくれたので
ヴィルテローゼは微笑む。
まだヴィルテローゼはユーシアスが妊娠を知っていたのが
眠る前であること、そして胎児の成長を魔法で止めていたこと
など知りはしない。

監視を付けられたイコール、それは信用されていないことに
値するだろう。
ここまでとは思っていなかったが、ユーシアスは
ヴィルテローゼに酷く依存し執着している。
彼が一年前に言ったように3年越しの片思いの大きさは
計り知れないものかもしれない。
だがこれでは一方的に想いを押し付けられているだけのようにしか思えない。


ユーシアスの部屋に入り、机に二人は向かい合わせに腰掛ける。

「……ヴィルテローゼ」
「何でしょう」
「俺はお前の妊娠を知っていたのに黙っていた。
すまない」

ユーシアスがヴィルテローゼに頭を下げる。
知っていた、それはいつ分かったことなのだろうと
初めて耳にすることに拍子抜けだった。

「し、知っていたってそれはいつ…?
ま、まさか意図的に……」

ヴィルテローゼの顔が青くなるのにユーシアスは焦り、
ヴィルテローゼの手を握る。
ユーシアスはヴィルテローゼに執着し、依存し、
それが行き過ぎ監視をつけるなどという行動を取ったが
消して自分の気持ちを押し付け、ヴィルテローゼを傷つける行為だけは命にかけてもしない。

「そんなことをする訳がないだろう。
一方的なそんな感情でロゼを傷つけることは命にかけてもしない。」
「……ユーシアス…」

ヴィルテローゼの瞳が不安に揺れる。
その目からユーシアスは目をそらさずに答える。

「いいかロゼ。
お前が妊娠したのは眠る前だ」
「……眠る、前?
ということは、お腹の子は……?」
「魔法で胎児の成長は止めている。
それが今、ロゼをが目覚めてから動き出したんだ」
「……なる、ほど……。
それを、どうしてすぐに教えてくれなかったんですか?」

「混乱してしまうと思ったんだ。
…分かってくれ」

確かにユーシアスの黙っていた行為はヴィルテローゼを
気遣ったものかもしれなかった。

 だが思いはすれ違い、ヴィルテローゼは「妻」でありながら
どれだけ自分は信頼されていないのだとショックさえ
受けていた。

愛する人との子供だ、いることが分かったら混乱など
絶対にしなければ、監視を付けられなければ
いけないことなんてひとつも無いというのに。

「……あなたいつもそればかりです。」
ヴィルテローゼは光のない瞳で歪に口角を上げた。






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