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第九十八話 偽りなく(4)
しおりを挟む「そ、そんなわけないじゃない……
だ、だって私ずっと眠っていたのよ…?」
先程まで美しく微笑んでいたヴィルテローゼの顔が
恐怖に染まり、体を支えてくれていた手を震えた手で
力強く掴んでしまう。
「落ち着きなよアンちゃん。」
「だ、だっておかしいじゃない…」
「まだ決まった訳じゃない。大丈夫、落ち着いて」
シュリの真剣な顔にハッとしてノエルの手首を掴んだ手を
下ろした。
「…ごめんなさいノエル。痛くなかった?」
「いえ、平気です…」
ヴィルテローゼが再び二人の方へと顔を向けた時、
一番真っ青な顔をしているのはアマレッティだった。
ヴィルテローゼよりも手の震えはひどく、今にも倒れてしまいそうなぐらいに。
「ちょ、ちょっとどうしたのレッティ?」
「ねぇ……ロゼ」
「な、なに?」
「私の考えがおかしい、んだけどねきっと…
ユーシアスが…あなたを逃がさないために妊娠させた…って
考えちゃったの…あは、おかしい…わよね」
それにヴィルテローゼの心臓がビクンと跳ねる。
ユーシアスが逃がさないために妊娠させた?そんなことあるわけが無い…と思いたかった。
だが最近のユーシアスは別館からも出してくれない。
最初は心配をかけた分安心させなくてはと思っていたが、
あそこまで縛られてはアマレッティが抱くような猜疑心を
抱き始めるのも無理はない。
「二人とも落ち着きなって。
……愛してる奥さんに団長はそんなことしないでしょ。
自分だけの欲望のために動くような人間でもない。
疑ったらどんどん悪い方にいくのなんて当たり前だよ。
だから、アンちゃんはきちんと旦那さんに相談すること。」
先程シュリはまだ子供だからなんて言っていたが、
シュリが1番まともで落ち着いたことを言ってくれた。
そのお陰で疑ったら心が少し和らぎ、ほっとした。
「…そろそろ、戻るわね。
ユーシアスに相談したいし」
「ええ。何かあったら必ず力になるからなんでも言うのよ」
「私も。大好きなアンちゃんのこと守らせてね、約束」
シュリが小指を絡ませ、ぎゅっとにぎる。
「…レッティ、シュリ……ありがとう」
「ええ。また遊びに来るわ」
「私も。お茶ご馳走様でした」
良い友人を持った…とほっこりするのもつかの間。
「…さて」
ノエルに口を開く。
「ねぇノエル。
……別に答えなくてもわかっているけれど、ユーシアスから
私を監視するように言われてるんじゃないの?」
「えっ……」
否定もされないので驚く。はたまたわざとらしい反応を見せる
演技か。
「そ、そのようなことは!!」
「大丈夫、ユーシアスに言ったりしないわ。
夫ですもの、それくらい分かるわ。
だって私の側付きの侍女でなくあなたが来てずっと真剣な顔をして必死に私達の話を聞いていたものね」
すべてノエルにとっては図星なのだ。
なぜ、ここまで知られているのかが不可解でしょうがない。
「…どれだけ疑われてるのかしら」
「疑うだなんて!ユーシアス様はただヴィルテローゼ様を
心配しておられるのです!!」
「…分かっているわ。
だけど……少し度が過ぎているとは思わない?」
「それは……」
「ユーシアスに話をしに行きます。
あの人の愛がただの執着なのか、それとも偽りなく愛なのかを
確かめにね」
そう言ったヴィルテローゼの目は、笑っていなかった。
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