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第九十五話 偽りなく(1)
しおりを挟む「はっ…うう……」
ユーシアスがヴィルテローゼの首に顔を埋め、
もう消えてしまったキスマークをつけ始める。
「あんなにあったのに消えてしまったな…
またつけ直さないと」
「ううっ…ひうっ」
ヴィルテローゼは出る声が恥ずかしいと
言うように口元を手で押さえ、足をジタバタとさせている。
「声、我慢しないでくれ……
久しぶりに触れ合えたんだ。もっとロゼの声が聞きたい」
「うう……ユーシアス…」
「…とはいってもやりすぎてはお前の体に負担をかけるな。
今日はここまでにしておこう」
ユーシアスがのしかかっていた体を起こす。
「あっ…」
ヴィルテローゼは少し残念そうな声を上げてしまったことに
しまった…と再び口元を押さえる。
「何だ、物足りなかったか?」
クスリとユーシアスが意地悪な微笑みを見せ、
ヴィルテローゼの唇に指を添えた。
「ぜ、全然……っ!」
「ふぅん?」
もう少し触れ合っていたいと思うも、さすがにこれ以上は…ととヴィルテローゼも起き上がる。
そしてユーシアスにおそるおそる抱きつくと、
柔らかく微笑んだ。
「…どうした?」
「生きていて、良かった。……こうして、
またあなたと生きていくことができるから」
ユーシアスがハッとして、自分を抱きしめるヴィルテローゼの
手を見た。
その手はカタカタと震えている。
そりゃ、そうなのだ。ヴィルテローゼはこんなに若くして、
幸せを前に死を覚悟するような経験をしたのだから。
ユーシアスは震える手に手を重ね、ぎゅっと握った。
「…もう危険な目になんて、あわせないから。
ずっと傍にいるし、守るから……どうか俺から
離れていかないで」
ヴィルテローゼが「何ですかそれ」と、ユーシアスが握ってくれた手を重ね返す。
「いくら危険な目に合おうと…あなたから離れることも離すことも命に誓ってありえません……。
ずっとお側に」
それを聞いてユーシアスは満足気に、そして心底嬉しそうに
微笑み返す。
「ああ、俺も。」
ユーシアスがヴィルテローゼの足を持ち上げると
口付けをする。
「…全く、足へのキスの意は隷属、でしたか?
隷属では困るのですが」
ヴィルテローゼが苦笑いすると、ユーシアスが「許してくれ」
と笑うのでヴィルテローゼは何も出来ない。
「俺にとってはこれがロゼへの初めての誓いだった。
あの時とは意味が違うけど、ずっと一生…
俺の妻である、愛するロゼを守るから。
それにすまない。時間が過ぎてしまって…勝手に結婚している
ような形になってしまって。」
そういえば春はもう過ぎているため、結婚が決定する時期は
通り過ぎているようだ。
つまり形式上もうヴィルテローゼは公爵夫人で
ユーシアスは公爵で、姓も「ヒルデ」に変わっているのだ。
その自覚がなく、ヴィルテローゼは頬を「ほんとだ…」
と自分の手で挟んだ。
「…ロゼ?」
「えへへ、もう私ヴィルテローゼ・ヒルデなんですね」
ヴィルテローゼが幸せいっぱいの笑みで微笑むため、
ユーシアスはそれを押し倒すのを我慢して
可愛い妻の頭を撫でるのだった。
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