ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第九十四話 歪な鳥籠(3)

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周りから見てユーシアスはヴィルテローゼが眠っている間、
辛そうにしてはいたが、今回の事を「仕方ない」と思っている
ようにも見えた。が、実際そんなことは全くない。

愛する人が笑いかけてくれない、一緒に笑うことも
泣くことも触れ合うことも許されない。

仕事が終われば1番に別館に向かって、
眠る妻に今日あったことを話し、いつもなら相槌をうって聞いてくれる彼女の声はなく、ただ自分一人で話しているだけ。
そして話終えると口付けをし、一緒に眠る。

それがそれがユーシアスには耐えきれず、
すぐそばに居るのに話せない、愛し合えないことが
ただもどかしく憂鬱なのだ。

ユーシアスの片思いは三年、その愛はユーシアス自信が認める
「依存」「執着」「独占欲」そのものである。
だから他の人間に、他の人間のせいで自分の恋人が傷つけられたことに怒りを隠しきれない。

だからしばらくは誰にも会わせないことに決めた。
男共に教えれば押しかけてくるかもしれないし、
何よりハヤテはすっかりヴィルテローゼへの恋心を自覚してしまったようだ。
どうせ兄との戦いで気付かされたか何かだろう。

そんな思いを既婚者に、自分の妻に向けられるなどと
迷惑と同時に不快極まりない。

いいや、今はそんなことよりやっと目覚めた自分の妻との
時間を大事にしようと、
押し倒したヴィルテローゼに顔を向ける。

「…何か考え事ですか?」

ヴィルテローゼの口調はぎこちなさがとれ、
ようやく舌が回るようになってきた様だった。

「何でもないよ。」
ユーシアスがふにゃりと微笑むと
ヴィルテローゼがほっとした様に笑い返す。

「いい?」
ユーシアスがヴィルテローゼの頬を撫でると、
ヴィルテローゼの体がピクリと跳ねる。

「…えっと、はい……」

ユーシアスがヴィルテローゼの顎を持ち上げ、
優しく口付ける。

ヴィルテローゼは久しぶりの口付けが恥ずかしいのか、
ぎゅーっと目をつぶって落ち着きのない様子だった。
それがなんとも愛らしい。
口付け自体はユーシアスが寝ている間にも勝手にしていたため
久しぶりでも何でもないが、
反応があることに嬉しさを隠しきれない。

「…力抜け、ロゼ」
「だ、だって久しぶりだから……身構えてしまって……その」
「嫌か?」
「嫌だなんてそんな……!!
……本当は、もっとしたいですけど私の体を気遣ってくれているんでしょう?だから、抑えておかないと私が抑えられなくなるから……」

それは反則ではないかとユーシアスが頭を抱える。
少し一方的になりすぎたかと反省しようと思ったことろにこれである。

「…すまないロゼ、もう少し許してくれ」
「んんっ……んっ、う……」

舌を入れるつもりは無かったのに、
夢中で舌を絡ませた。
離しては吸い付くように唇を合わせ、お互いの声が
部屋に響く。

「ん……はあっ、はっ……」  

唇を離すと少し潤んだヴィルテローゼの
顔が目に入る。

ああ愛おしい、願わくばずっと、
この歪な感情の檻に閉じ込めておきたいなどと、
ユーシアスはにっこりと微笑むのだった。
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