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第九十三話 歪な鳥籠(2)
しおりを挟むヴィルテローゼを抱きしめたユーシアスの手はカタカタと
震えており、嬉しそうに胸に顔を埋める妻の顔を見て
ようやく実感が湧き、力強く抱きしめ返した。
「……お帰り、ヴィルテローゼ……」
「わたし…どのぐらい眠っていたの?」
「一年だ。」
「いちっ…!?…それは、ずい、ぶんお待たせしましたね……
待っていてくれて、ありが、とう…」
「ロゼのことならいくらでも待つよ。
それに喋るのもまだ大変だろう?部屋に戻ろう」
ユーシアスがヴィルテローゼを抱き抱え、使用人達に振り返る。
「いいかいお前達。我が妻が目覚めたことは内密に。
もし情報がどこかで漏れたなら…わかるな?」
それに使用人も侍女もゼノとジエンが跪く。
『…仰せのままに』
「じゃあ部屋に戻る。今日はしばらく誰も別館に入るな。」
目覚めたことをなぜ内密にされるのかヴィルテローゼは
全く分からなかった。
心配してくれている人もいるだろうに、ユーシアスが
そこまで隠したがる訳はなんなのか。
部屋につき、ユーシアスのベッドに体を下ろされると
ヴィルテローゼは尋ねた。
「なぜ…内密にするのです、か?」
「大丈夫、皇后陛下とネージュ公爵、シュリ様にはお伝えするから」
「だ、だから…シアンさんやハヤテみたいな…元剣聖、の
人には教えない…つもりな、んですか?」
不安な目でユーシアスを見つめると、
ユーシアスはにっこりと笑ってヴィルテローゼを押し倒した。
「…ユーシアス?」
「当たり前だろう。
ロゼは一年間眠り続けたんだ。それだけ体に負担がかかっていたということでもある。……それにブリューナクは破壊された。
もうロゼが騎士団員として戦えるすべは無い…
いや、あったとしてもさせない。
もうロゼを危険な目に合わせたくないんだ、分かってくれ。
今回のことだってハヤテ様が報告を怠ったから起きたこと…
ロゼが誰かに危険な目に合わされるなんてもう耐えられない。」
「ユーシアス……で、も……」
ユーシアスの言い分も理解できない訳では無い。
それだけ自分が心配をかけてしまったことは重々承知だ。
だが教えないというのは心配してくれる人を余計不安にさせる行為だ。
「ずっと教えないわけじゃないから…、
だから……だから今はロゼが生きてるんだって感じさせてくれ…
頼む」
ユーシアスに抱きしめられ、震えるユーシアスに
ヴィルテローゼはハッとし、やはり言う事を今は聞くべきだと
ユーシアスを抱きしめ返した。
「…ごめん、なさいユーシアス。
分かったから、もうどこにも、いかないから安心して……ください」
「絶対だぞロゼ……あんな思いをするのはにどとごめんなんだ」
泣くのをこらえるようなユーシアスの顔に
ヴィルテローゼの胸が締め付けられる。
きっと自分には計り知れない思いをさせたのだ。
だから今はユーシアスの言う通りにしよう、と
強ばった表情を緩め、肩の力を抜いた。
それに気がついたのかユーシアスが笑う。
「…そうだ、そうやって……ずっと側に」
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