ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第九十一話 禁秘の花嫁(3)

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「ねぇ兄さん、聞きたいことがあるんだけど」


ノエルの兄、ジエンは騎士団長所属の階級少佐だ。
ヒルデ公爵邸にはユーシアスが団長のため訓練場があり、
兄が訓練場に来ていたためユーシアスの妻のヴィルテローゼという
女性について尋ねたのだ。

「何だいノエル。」
「えっと……
ヴィルテローゼっていう名前の人知ってる?」

それだけ聞くとジエンはさあっと顔を青くした。

「様をつけろバカ!!
ヴィルテローゼ様は騎士団階級大佐っ、そして
ネージュ公爵家のご令嬢であり現ヒルデ公爵夫人だぞ!!」

いつも優しい兄の怒鳴り声にノエルは
あんぐりと口を開け、
「ご、ごめんなさい」と謝った。

「……ヴィルテローゼ様のことは
よく知っている。俺はヴィルテローゼ様の側付きの
ゼノ様の側付きだから…。」

ジエンは現大佐へと昇格したゼノの側付きを
命じられている。
だがゼノが中佐の時から慕っていた女性だ。
ゼノのする話はヴィルテローゼの話ばかり、それに
その話をするようになってからと言うものゼノの女遊びが
ピタリと止んだのだ。

「ヴィルテローゼ・ネージュ様、
現ヴィルテローゼ・ヒルデ様は元剣聖、そして
剣聖制度が無くなってからは大佐の階級につき、
その時点でユーシアス団長とは婚約関係にあった。」

「剣聖!?こ、公爵令嬢が?」
「ああ。何で知りたがってるかは知らないが
敬意を払わない喋り方は弁えろ。
あの方はライオス殿下が皇太子だった時の次期皇后でも
あったお方…、身の程を弁えなさい」

皇太子の婚約者、次期皇后に選ばれるなんて余程完璧かつ
家柄が良く美しくないとそんな名誉は与えられない。
ライオスが間抜けでなければ今の皇后は
そのヴィルテローゼ・ヒルデだったかも知れない…、
そして剣聖に選ばれており騎士団大佐の役職の人間に
勝てるところはノエルに一つだってありはしない。

「ごめんなさい、兄さん。
……ヴィルテローゼ様はユーシアス様と仲はよろしかったの?」
「ああ。貴族同士の婚約だが全く政略結婚ではない。
何よりユーシアス様のヴィルテローゼ様への愛が恐ろしくてな。
普段は冷酷かつ冷静だが恋人の前では別人かと思うぐらい
違うんだ。
ヴィルテローゼ様もユーシアス様を愛している気持ちは見ていて
分かるが…あれはユーシアス様の押しに負けたな」

「えええ!?」

仕事中は静かすぎるユーシアスが
豹変し、恋人にデレデレになる姿など到底想像出来はしない。
ノエルは公爵夫人がますますどういう存在なのか気になって来ていた。

「そして戦いの最中、聖剣をズタボロにされてな…
ユーシアス様はその瞬間にかけつけ間に合わなかったらしい。
ヴィルテローゼ様は最後まで団長の心配をして笑ったそうだ。
本当にお互いの愛が深い夫婦だと思うよ」

全く関係のない人間の話なのに、
話しているジエンの顔は辛そうだった。
戦いで眠りについてしまったのか…、それは可哀想にとは
思ったが、ユーシアスの気持ちは、今どうなのだろうか
とノエルは胸をキュっと押さえた。

その時、別館の近くでガチャーンっというかすかな音が聞こえた
ため、ノエルとジエンは振り返る。

「何の音…?」
「別館の方からだ……。」

二人は別館の前まで小走りして、ジエンは
見た人物に唖然としていた。
その場にはジエンと一緒にヒルデ公爵邸を訪れていた
ゼノの姿もあり、
すぐにゼノとジエンは跪き、頭を下げた。

それにノエルはハッとする。
こちらを怯えるような、だが虚ろな目をしている
色白く美しい女性、
その女性にゼノは声を震わせた。

「……っ、お帰りなさいませ、
ヴィルテローゼ様……」



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