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第九十話 禁秘の花嫁(2)
しおりを挟むノエルは口をパクパクさせて何も言えなかった。
何故別館に皇后であるアマレッティがいるのか、
それに噂通り公爵夫人が実在していたこと、
それらに驚きを隠せない。
「あら、痛かったかしら。
ごめんなさい。
でも本当に、見ていたらあなたの首が飛んでいたのよ」
念を押すように2回目言われ、
ノエルの肩がビクリと跳ねた。
そしてそこで、扉が開く。
「……あれ、
ご機嫌麗しゅう、皇后陛下」
扉から出てきたのは小柄な少女が、
スカートの端を摘んで頭を下げた。
この人が公爵夫人なのか、それとも公爵とそのような関係にあるのは皇后の方なのかと頭の回転が追いつかない。
だが皇后に会ったにも関わらず頭も下げなかった無礼を思い出し、
ノエルも慌ててアマレッティに頭を下げる。
「やめてシュリ。
あなたに頭を下げられるなんて何だか寒気がするから」
アマレッティがそう笑うとシュリと呼ばれた
少女も「なにそれひどぉーい」と笑った。
何が何だか分からず、ノエルはおずおずと口を開いた。
「……の、あの…首が飛ぶってどういう…?」
皇后に見せたシュリの無邪気な笑顔はノエルを見ると冷たく
凍てついた。
「……なにこの子。
あなた別館に立ち入りが許されている子じゃないよねぇ?
ユーシアス団長に言われなかった?
別館には立ち入りが許されている者しか入るなって。」
冷たい声に、ノエルは何も言えなくなってしまう。
「どうする皇后陛下。
斬る?これバレたらユーシアス団長に何されるか
わかんないんだけど」
シュリが薔薇の装飾があしらわれたレイピアを
カチャンと抜いた。そしてそれをノエルの首元に宛てがう。
ただ別館に迷い込んだだけなのに、首を跳ねられてしまう
ほどのことをしてしまったのだろうかと
ノエルはその場に崩れ落ちる。
「おっ、お許しください!!
そうとも知らず不注意でございましたっ……」
「わかった?
首が飛ぶっていうのは仕事クビになるって話じゃないの。
物理的な話なの。
……いいわシュリ。私から公爵に説明するから
貴方も顔を上げなさい。」
ノエルは指示により顔を上げ、立ち上がる。
「……あの、公爵夫人は…何故別館に?」
「元は公爵の、ユーシアスの婚約者。
だけどあの子は1年間ずっと眠り続けている…
ユーシアスに何か聞いてはダメよ。
ユーシアスは恋人を助けられなかったことを深く後悔しているから。だから彼はもうあの子を傷つけたくないから
ずっと別館で眠りにつかせ、面会が許されているのは
友人である私や、この子、シュリ…そしてヴィルテローゼの
家族のみ。男性はあの部屋への出入りを禁じられている。
それぐらいユーシアスはヴィルテローゼを大事に大事に
しているの。だから、次はない。
ここに来た時点で極刑を免れたことを感謝すべきね。」
それだけ言って皇后とシュリは去った。
実在した公爵夫人は、
昏睡状態ということになり、
ユーシアスはそれを助けられなかったらしい。
だが大事にしているとはいえ、恋愛感情を抱いているかは
別であると訳の分からない自信をノエルは持った。
「大体1年だなんて待たせすぎだよね…?
あんなに素敵な人をほったらかしにするなんて…。
いつ目覚めるかも分からない人を待ち続けるくらいなら…
ユーシアス様も新しい恋をした方がいいと思うんだけどなぁ。
ユーシアス様のためにも」
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