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第八拾六話 雪垂の朝(2)
しおりを挟むお互い剣を構えたが、その前に兄に聞く事がある
そう思ったハヤテは、口を開けた。
「……なぁ、兄さん」
「何だ?」
「俺は面倒臭いのとか遠回しなの嫌いだから
単刀直入に聞く。…なんか未練あったか?
案外あの時は…落ち着いてたように、いや、幸せそうに見えたけど」
「……さあな。お前が俺に勝てたら教えてやる、よっ!!」
「!!」
ユリーダが勢いよく飛びかかってきたため、
アルデアンでそれを制す。
異様な、異様な光景だった。
既に死んだものと今を生きる者とが二つは存在しない剣で
戦っているのだから。
ユリーダが生きている、それは即ち未練があるから亡霊として生き残っているのだ。
こうして弟と剣を交えるのも、まだ未練が、やり残したことがあるから残っていると思われるのにそれを喋る気はないらしい。
「なぁハヤテ」
「んだよっ!!」
「……お前さぁ、あの子のこと好きだろ?
俺が指輪壊した十三番の女」
それにハヤテは大きく目を見開くと3歩後方へ下がり、
距離を取った。
「……あんたに勝てた後で教えてやるわ。
亡霊とおしゃべりしながら戦ってる余裕は生憎ないんでね!!」
「はっ、なさけねぇなぁ!
つか、あの女の恋人は駆けつけた団長なんだろ?
お前のことだ、気がつくのが遅かったみてぇだな。
気がついた時には近づく資格もねぇってか。
可哀想な奴」
「んなこと言うためにダラダラ生き残ってやがんのか?
暇人なこった……」
「吐かせ…っ!」
それから暫く斬り合いは続き、有利と言えるのはユリーダの方で、
ハヤテの攻撃は今ひとつ届いていなかった。
「……はっ、はぁっ…」
「立てよ。もう終わりか?
…っていっても、早く終わらせてやんねぇとな。
永遠に、ずっと一生続く血の監獄から解放してやんねぇと…
じゃなきゃ、誰も報われない。
自由なんて…存在してない」
ずっと一生永遠に続く血の監獄、
何万もの命をたちきり涙を流し続けた剣聖、誰も報われていないように思えて、1人だけいるのだ。
たった1人、剣聖になって自由を手に入れ、案外悪くないと思っている人間が。
その人間は、剣聖にならなければ自由を手にしなかっだろうし、
一昨日のように美しく咲くように笑うことも出来ていなかったはずだ。
剣聖という血の監獄を味わい、対価は大きかったものの
…結局は本人が幸せで今の人生に生き生きとしているのならば、
誰の文句もつけようがないのだ。
「……いるさ、1人だけ…1人だけ報われた女が。
対価は大きかったが、あいつは幸せそうにしてんだよ。
それが救済とかどうので奪われた。
俺のケジメのためにも、そいつのためにも…負ける訳には
行かねぇんだよっ!!」
今までで見せた一番素早い攻撃、
それを見たユリーダは、笑って抵抗しなかった。
ガラスのように繊細で光る二腰の短剣が、
割れて地面に散った。
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