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第八十五話 雪垂の朝(1)
しおりを挟むハヤテは朝の5時、まだ明けきらぬ冬の空を見つめていた。
息を吸って、吐いてを何度もくりかえし、心を落ち着かせる。
ハヤテにとってもユーキリーナとしても彼にとっては兄との決着を
付ける日だったのだ。
出発するのは夕方なのに寝付けず、ただ先程から窓を見つめたり
深呼吸をしたりして過ごしていた。
兄との決着をつけにいくのにも関わらず好きな女のことが頭を
ちらついて離れない。
昨日の元剣聖同士の会話で分かった。
ローアン・ゼロ・ブリューナクとしての彼女は自分たちの中で
かなり大きな存在であり、いなくなれば心に穴が開いたようにさみしくなること。
そして考えるだけで、トクントクンと心臓の動きが早くなること。
初めて会った時から愛想笑いが上手で感情表眼がへたくそで、
おちょけるのが上手く、責任感が強い。
そしていつも清く正しく美しい、それが揺るがず料理も何でもできる
ローアン。
そして最近綺麗になったで噂される理由はユーシアスと結ばれたからだ。
元から可愛くて綺麗だが、ユーシアスの話をしたり実際隣にいる時には
色っぽさが増してさらに可愛くなる。
もっと気持ちに気が付くのが早かったら、彼女の隣にいられたのだろうか…
ここまで思って彼女への恋を自覚したのが二日や三日前だと思うと自分の
鈍感さに呆れてしまう。
「…何馬鹿な事言ってんだ…」
だがもはや彼女の隣にいることさえ許されないだろう。
帰りの馬車でのユーシアスの瞳からして、そんなことは分かっていた。
自分のせいで、生死を彷徨うことになってしまった女に好きだなんて言う資格なんてありはしない。
ありはしないが、自分でかたをつける必要があるのだ。
これはけじめであり懺悔であり、そして兄から目を背けずきちんと向き合い
花向けとすること。
あれが兄の本当の気持ち、感情だったならそれをしっかり受け止めて、
違うならば理由を聞いて、本当の気持ちを知ってからお別れとしたい。
そしてこれからも意思を受け継ぎ、戦っていくこと、
自分は大丈夫だということ、許されるなら好きな人ができた…なんて話もしたい。
そして全部全部終わったなら、許されるならもう一度だけでいいから
彼女に会いたいと思った。
きちんと謝って、話をして、揺るがない気持ちを持っているから意味はない言葉かもしれないが
直接好きだと伝えたいのだ。
木から流れ落ちた雪垂と共に、やはり早いが自宅を出た。
「…遅かったなユキ…待ってたぜ」
「ああ、俺も待ってたよ」
兄弟はお互いの存在を確認すると、同じ剣、同じ聖剣を構えた。
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