82 / 128
第八十四話 亡霊への花向け(2)
しおりを挟む「……ロゼ」
ユーシアスは自宅のベッドにヴィルテローゼを寝かせると、
ただ恋人の名前だけを呟いて頬を撫でた。
そして、ギリギリと唇を噛んで、壁に殴りつけた。
「くそっ……くそくそくそっ……!」
間に合わなかった。助けられなかった。
なのにヴィルテローゼは最後までユーシアスを心配して微笑んだ。
そんなことをさせてしまって、情けない以外の言葉が見当たらない。
命があっただけまだマシだと思いたいが、
体にかかった負担は計り知れない。
いつ目覚めるか分かったものではないし、一生目を覚まさなかった剣聖も歴史上には存在する。
「……だめだ、マイナスに考えては」
最悪の結果は想像すればするほど大きく、不安も募って行く。
ただ恋人として、ヴィルテローゼを待つ他ないのだ。
「……え、今、なんて言ったのよ」
翌日、全騎士団員にヴィルテローゼ・ネージュが
聖剣ブリューナク破損により、眠りについたという事が知れ渡った。
それを聞いたシアンもツキヤもシュリも、ただ呆然としていた。
「……は?嘘よねハヤテ……。ねぇ、何とか言いなさいよっ!!
それって、あんたが報告怠った責任よね?
どう責任取るつもりよ!!あっ……あの子はっ…もう結婚も決まってたのに……」
シアンがハヤテの肩を震えた手で掴むと、
ポロポロと涙を流した。
「……一発殴ってやりたいぐらいですけどね、
団長が殴ってないなら殴りませんよ。
一番苦しかったのは……団長のユーシアスさんですから……」
ツキヤも鋭くハヤテを睨みつける。
「……ハヤヤンを責めてもしょうがないよ。
それに、まだアンちゃんは死んでない……
私らが信じてあげなくてどうするの?
勝手に……殺しちゃやだよっ……絶対、絶対アンちゃんは帰ってくるもん……!」
普段何にも関心を特に持たず、自己表現が下手くそで苦手なシュリが泣き始めたことに、やはりローアンの存在が自分たちの中で大きかったことに皆心を痛めた。
うわぁぁぁんとシュリはラビリムに抱きつくとさらに泣き出した。
それをラビリムは無言で頭を撫でた。
「……シュリの言う通りよ。あの子まだ…生きてるんだから……
ユーシアスを残してこの世を去ることなんて無い…。」
ぐじっと、シアンは涙を拭った。
「……仲間の私たちが、信じて待ちましょう」
それに皆泣きそうな赤い目をして、静かにシアンの言葉に頷いたのだった。
「……ハヤテ、お兄さんのことはアンタが決着つけるのよね?」
「……もちろんだ。」
0
お気に入りに追加
1,578
あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる