ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第八十四話 亡霊への花向け(2)

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「……ロゼ」

ユーシアスは自宅のベッドにヴィルテローゼを寝かせると、
ただ恋人の名前だけを呟いて頬を撫でた。
そして、ギリギリと唇を噛んで、壁に殴りつけた。

「くそっ……くそくそくそっ……!」

間に合わなかった。助けられなかった。
なのにヴィルテローゼは最後までユーシアスを心配して微笑んだ。
そんなことをさせてしまって、情けない以外の言葉が見当たらない。

命があっただけまだマシだと思いたいが、
体にかかった負担は計り知れない。
いつ目覚めるか分かったものではないし、一生目を覚まさなかった剣聖も歴史上には存在する。

「……だめだ、マイナスに考えては」

最悪の結果は想像すればするほど大きく、不安も募って行く。
ただ恋人として、ヴィルテローゼを待つ他ないのだ。


「……え、今、なんて言ったのよ」

翌日、全騎士団員にヴィルテローゼ・ネージュが
聖剣ブリューナク破損により、眠りについたという事が知れ渡った。
それを聞いたシアンもツキヤもシュリも、ただ呆然としていた。

「……は?嘘よねハヤテ……。ねぇ、何とか言いなさいよっ!!
それって、あんたが報告怠った責任よね?
どう責任取るつもりよ!!あっ……あの子はっ…もう結婚も決まってたのに……」

シアンがハヤテの肩を震えた手で掴むと、
ポロポロと涙を流した。


「……一発殴ってやりたいぐらいですけどね、
団長が殴ってないなら殴りませんよ。
一番苦しかったのは……団長のユーシアスさんですから……」

ツキヤも鋭くハヤテを睨みつける。

「……ハヤヤンを責めてもしょうがないよ。
それに、まだアンちゃんは死んでない……
私らが信じてあげなくてどうするの?
勝手に……殺しちゃやだよっ……絶対、絶対アンちゃんは帰ってくるもん……!」

普段何にも関心を特に持たず、自己表現が下手くそで苦手なシュリが泣き始めたことに、やはりローアンの存在が自分たちの中で大きかったことに皆心を痛めた。

うわぁぁぁんとシュリはラビリムに抱きつくとさらに泣き出した。
それをラビリムは無言で頭を撫でた。

「……シュリの言う通りよ。あの子まだ…生きてるんだから……
ユーシアスを残してこの世を去ることなんて無い…。」

ぐじっと、シアンは涙を拭った。

「……仲間の私たちが、信じて待ちましょう」

それに皆泣きそうな赤い目をして、静かにシアンの言葉に頷いたのだった。

「……ハヤテ、お兄さんのことはアンタが決着つけるのよね?」
「……もちろんだ。」
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