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第八十三話 亡霊への花向け(1)
しおりを挟む「なるほど。
つまりはユリーダ様に無念があったということでしょうか。」
「…そうであってもおかしくねぇよ。
森で会った時、俺は聖剣アルデアンの使い手として完全に
あいつに負けた。
それで、思ったんだよ。あの暴言が、叫びが兄さんの本心だったんじゃないのかってな……。
それに騎士団が向かえば遠慮なしに殺されて、元No.1なんかに
他の剣聖が適うはずねぇ。だから報告はせずに俺は黙ってた…
いや、兄という存在があんな形でも消えて欲しくなかったのかもしれない……」
ハヤテはグシャグシャと髪を掻かき回すと、
心底苦しそうな顔で俯いた。
「…悪い。騎士団として、元剣聖として俺は……失格だ。
俺が放置した結果がこれだ。その結果、ローアンを…
お前の恋人のヴィルテローゼ・ネージュを、傷つけたんだ。
どんな罰でも受けるよ。これは重罪だろう?」
ハヤテの苦しそうな顔を見ると、ユーシアスも責めることは出来なかった。それに改革前の剣聖の扱いは言うまでもなくただの殺戮の道具だった。
だが、黙っていたハヤテにも非がないわけではない。
「除隊になっても構わない。
だが、あの亡霊のことだけは俺に片をつけさせて欲しい」
ハヤテはぎゅうっと目を瞑り、ユーシアスに頭を下げる。
「身内の不始末は身内がつける。
頼むっ……!」
「…分かりました。
ですが……これは騎士団長としてではなく、
ヴィルテローゼの恋人として……もうロゼに剣聖として戦わせることはしたくありません。……そこだけは御容赦を」
実際ブリューナクは壊れてしまっている。
この指輪に選ばれたことは、果たしてヴィルテローゼにとって
幸か不幸か。
聖女の遺跡が彼女に反応していなければ、
国外追放されネージュ家は没落の危機に陥ったかもしれないが、
若くして生死を彷徨うとこになるとは
夢にも思わなかっただろう。
こんな危険な仕事、恋人としてもうしていて欲しくなどない。
ぎゅっと、ユーシアスはヴィルテローゼを抱きしめて、
ハヤテに「この気持ちは揺るがない」と言うような目をすると、
馬車をおりた。
「くそ……気持ちに気がつくのが遅かったな」
何もかもハヤテは後になって後悔をした。
気持ちに気がつくのが遅かったこと、兄の事実に顔を背け続け、
大切な人間を傷つけたこと。
あれが兄の、尊敬し続けたアイザックの姿なのかと思うと
思わず目を背けずにはいられなかった。
「その結果がこれかよっ……」
誰もいなくなった馬車で、ハヤテはドンッと
壁を叩くと泣きそうな濡れた声で呟いた。
「…ごめん、ローアン……」
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