ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第七十七話 それはひどく美しく咲いて(1)

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午後の四時、執務室にベル
が鳴り響く。

「…今月は多いですね、任務回数が」
「ええ。」

上着を取り、羽織りながら部屋を出るのにゼノが続く。
といっても、任務回数が多いのは元からである。
騎士団指導要員の一人でないためそれの代わりというように任務は指導員の
元剣聖よりかは少し多めだ。

だがここ最近かなり多い気がするのだ。
それもただの賊なのではなく、まるでミステリーサークルのような
森に出現する不自然なクレーター。

足跡のように見えて魔物が通った形跡もなく、人間の残り香も
魔力の異変すらも感じられない。

それが出現するたび出動よいう形で調査に向かうが、
原因はさっぱり分からず、森周辺に住む国民を恐怖に陥れている
何かはいったい何なのか。


「それが分かったら苦労しないんですけれどねぇ」
「今何か?」
「ただの独り言ですよ。それにしても
またあの謎のクレーターな気がしますね。今月何回目なんでしょう…」
「17回です。何も起こらなければ文句なしなんですけれどね…。
悪い予感がしなくもないというか…」

ゼノもかなり疲れているようだ。
最近は女性と話しているところを全く見ないし、それだけこの事態に参っているのだろう。

原因が突き止めきれないならばこの仕事は永遠に続きそうで、
寒気がした。

「…冗談じゃありませんよ、まったく…」

文句を言いながらも森に入り、やはり新しい謎のクレーターが発見された。
「…またこれですか。
これならまだ低俗で下品な賊の相手の方がまだいくらか…
いえ、十倍マシなんですけれどね…」

魔力探知石には何も反応しない。
やはりいつも通りで何も起きないのだ。

「はあ…いい報告が出来ないのは大佐として痛い所なんですが…
何もないなら何もないと報告するしかありません…」

ムスっとしかめ面を作るとやけくそだというようにブリューナクで
クレーターをベシベシとつついた。

「帰りましょうか」
「ええ」

巨大な穴に背を向けた時、後ろからの嫌な気配に背筋が凍る。

「っ…!!!!」

魔力の気配もしなければ音もしない、だが気配だけは邪悪なものに違いないことだけが
分かる。

反射的に手が伸び、ゼノを突き飛ばす。

「うわ!?何を…、…!!??」

「ぐうっ…」

ゼノを突き飛ばし庇う様にしてしまったため、邪悪な何かに
黒い霧で後方まで吹っ飛ばされ、木で体を強打した。

「…何?」
「これはこれは、いつも調査に来ていた
麗しのブリューナクの使い手か。存じておるぞ」

上から目線な口調にこちらを見下したような目の男。
黒のローブを着ており、顔はよく見えない。
だが、只者ではないと思う程背筋が凍る。剣聖になってからは、
このような感覚を一度たりとも味わったことがなかった。
何故なら圧倒的に自分が、ブリューナクの力が強大故に
時間はかかっても、手こずっても絶対勝てるなんていう自信が常にあるからだ。

だが今感じている男の気配は邪悪とか何か良くない者で片付けられないほどに
強大な気配を纏っている。

「…これは、まずいかも…」

立ち上がろうとした時、男の剣が目に入る。

「それはっ…聖剣アルデアン…?
何故、ここにっ…!!」



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