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第七十六話 縛る糸(3)
しおりを挟む「だーっ、こんなところじゃ嫌ですってば!」
ゴッチンと痛いが頭突きすることでユーシアスを押しのける。
「いったぁ…!!」
「うっ…」
お互い額を押さえうずくまったがこの機会を逃がすまいと
リボンを強引にほどく。
「あ、あんまり私にデレデレだと部下にも舐められますよ!?
あなた冷静かつ聡明なイメージで通ってるんですから…」
ずびしとユーシアスを注意するように人差し指を胸に押し当てた。
「…そうだな。数日こうやって触れ合えなかったからと言って
獣のように襲い掛かるのはよろしくない。
ロゼにも不快な思いをさせるし部下からのイメージダウンも良くないな…
以後気をつける」
あからさまにシュンとした顔を隠すように冷静な発言をし、
ユーシアスは髪をぐしゃぐしゃと崩した。
「分かってくれたならいいですけれど…
別に……不快になんて思っていませんからね。
あなたの妻になる者として、恋人として、あなたを愛している人間として
支えていきたいし心配なのです。
生意気なことを申したかもしれませんけど、お許しくださいね」
苦笑いをしてユーシアスに軽く口付ける。
唇を離すと美しい顔と、目が合う。
久しぶりの会話に口付け。
それに若干うっとりしてしまい、もう少し深く、口付けてしまいたくなる。
職場では控えろなんていいつつも、自分も人のことを言えた身分ではないなと
顔を赤くする。
「あ…あとっ」
「ん?」
「私だってユーシアスと数日触れ合えないのは…
嫌なので。私もかなり重症なんです。これだけは覚えていて下さいね?」
「…それで誘ってないとか説得力ないんじゃないか」
「家でならいくらでもかまいませんから…その
職場では口付け以降禁止です」
少し危機を感じたのでベッドから降り、リボンを結びなおした。
そしてドアノブにかけられた氷魔法を炎魔法で溶かす。
ユーシアスは聞き分けがかなりいいから、
暴走しかけても「襲うな」という正当な理由さえあれば頷き解放してくれるが、
きっと何も言わなければ、ユーシアスは一生永遠に自分を縛り付ける糸となるだろう。
別にそれは全然かまわないが…
この部屋にいたら何が起こるか分からないため、
保険をかけて小部屋から出ようとドアノブに手をかけた時だった。
その手を掴まれ、壁に体を押し付けられる。
「ちょっとユーシアス?
今から帰るところなんですから何を…」
「口付けまでならいいんだったか?」
「い、今…ですか?」
「まだ仕事が残ってるんだ。…やる気がでない」
「…しょうがないですね」
顔を少し赤く染めて、目を閉じた。
「ありがとう」
優しいほほ笑みとは裏腹に、キスは優しいものから深いキスに変わっていく。
「んむっ…んんっ…はっ…」
かなりキスが長引くので、うっすらと目を開ける。
するとユーシアスは目を開けていた状態だったので驚いてドンドンと胸を叩いたことで
ようやく口付けが終了する。
「…どうした?」
「い、今までキスの時目、開けてたんですか!?」
「バレた…」
「やめてください恥ずかしい!」
「ロゼが必死で、口を離すごとにまだ欲しいって言う顔がみたくてついな。
すまない」
「…もうしりません!先に帰ってますから!!」
「家でならいいんだったな。覚悟しておいてくれ」
独占欲があふれ出す、鋭い瞳で見つめられ思わずゾクリとしてしまう。
「…わかり、ました」
小走りでユーシアスの執務室を出た。
ユーシアスが一生縛りつける糸なのは、構わない。
ただその糸が、自力でほどけるもののうちは。
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