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第七十四話 縛る糸(1)
しおりを挟む手合わせ?が始まってからというもの、
何とも苦戦していた。
「もおおおっ、嫌なんですけど!?」
「ごめんねアンちゃん!
悪く…思わないでねっ!?」
「いや無理があるからぁっ!」
2人の攻撃を防ぐのに手一杯である。
こうも自分に攻撃が集中するとは思っていなかったが
ツキヤとシュリが言うには任務で一緒になった回数が少ない故に、
実力を確かめたい……とのことらしい。
「ハヤテに攻撃して下さいっての!」
ルール上誰に攻撃しても構わないがさすがに2人を相手にするのは
かなりキツいし拉致が開かない。
おまけにハヤテも誰に攻撃するのかが分からないのか
こちらにまで攻撃してくる始末だ。
「……この状態は不味いなぁ…」
頬には冷や汗が滲み、唇を噛む。
ゼノの言う通り、剣聖との戦いは賊とは比べ物にならない。
ここまで緊張感のある戦いは久しぶりだ…と笑みを浮かべる。
「ごめんなさいねっ」
手を地面につくことでシュリの動きを鈍らせる。
いきなり隙を作るとは思わないだろう。
「おわっ!?」
勢いよく斬りかかってきたシュリの動きが鈍ったのを確認して、
避けた後にツキヤの腹に蔓をぶち当ててやる。
「くっ…」
ツキヤをハヤテの方向にぶっ飛ばしたため、必然的に
二人の競り合いになる。
これでようやくシュリとの一騎打ちに持ち込めた。
聖剣「バリテアーク」、シュリとは任務が一緒になることなど
ほとんど無かったため、実力を目にするのは初めてと言っていい。
シュリとはほとんど合同任務が無かったのが不思議だったが、
これは意図的に一緒に組まされていなかったのだと思った。
聖剣バリテアークはレイピア型。
鍔の部分にあしらわれた薔薇の飾りが美しく、だが
攻撃は使い手がシュリだからなのか威力が凄まじい。
それにシュリは攻撃に性格がかなり出てきている。
表情からしても戦闘を楽しむタイプであり、何より協調性が無さそうである。
単独任務が多いのはその影響なのだろうし、
戦う武器も性格もタイプが違いすぎるから、一緒になることは
少なかったと考える。
タイプが違うだけに戦いにくい。
さてどうするかと息を吐く。
「考え事なんて余裕じゃん?」
「っ!」
シュリの攻撃を何とか交わす。
戦いに余所見は禁物だった…と戦闘に意識を戻した。
「あはっ、楽しいねアンちゃん!」
「一刻も早く終わらせて帰りたいんだけどなぁー」
それにこれ以上戦闘が長引けばギャラリーも集まり、
ユーシアスの耳にも入るだろう。
何より側近以外は元剣聖との戦闘の任務はない。
その4人が同時に戦っており、しかも手加減無しの全力だ。
騎士団員である以上手合わせをするとことは規則違反でもなんでもないが、怪我、もしくは隊服が砂で汚れるのようなことがあれば
後からユーシアスに何と言われるか気が気でない。
「あっ、団長も見に来たんですか?」
「何をだ?えらく騒がしいな。」
「今元剣聖の4人が手合わせ中なんですよ~。
かなり迫力ありますよ」
ギャラリーの声が耳に入る。
「あー、思ったより早かったなぁ」
「なんか言った?」
そう言っている間にもシュリは素早い突き技の手をとめない。
蔓でガードしても突破されるのは一瞬。
蔓でガードしつつ新しい攻撃用とガード用の蔓を生み出す
戦闘もかなりジリ貧…しょうがないよねとため息をつき、
一旦シュリとかなり距離を取る。
「えっ、ちょっとアンちゃーん!
どこ行くのぉ」
戦闘範囲の真ん中の地点まで走ると
まるでおとぎ話にでも出てきそうな、木のように太い蔓を生み出すとそれにつかまり、登りきった頂点に立つ。
戦闘をしている三人の武器に向かって
ブリューナクの力を集中させる。
「は!?」
「ちょっ、」
「ええっ~」
ユーシアスにバレてしまったならしょうがない。
武器そのものを蔓で取り上げてしまったのだ。
「何すんだローアン!」
「武器を取り上げるのが反則なんて決まりないでしょう?
ごめんなさいね、ユーシアスが来ちゃったみたいなので今日はこのぐらいにしてくれませんか?
これの続きはユーシアスが非番の時にでもお相手させて下さい」
蔓から登り棒から降りるようにするすると滑る。
「あらっ?」
何故か滑っている途中で足を滑らせたかと思いきや、
ユーシアスと目が合ったので目をぱちくりとさせた。
どうやら滑っている途中で蔓を切られ、そこから受け止められたらしい。
「…俺が非番の時でも困るんだが?」
「わ~…あ、あはは」
ユーシアスの黒い笑みを真下から見て、
ダラダラと冷や汗が流れ、顔が青くなる。
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