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第七十一話 見せられない顔(2)
しおりを挟むヴィルテローゼなら、受け入れてくれる人間は
沢山いるとゼノは思っていた。
清く正しく美しく、それはいつだって揺るがない。
だが、それは違うのかも知れないと、聞いたことを悔やんだ。
この人は選び放題名なのではなく、「選べなかった」のではないかと。
「あぁ、でも選べなかったとか、ユーシアスと恋人でいるのは
妥協なんてものじゃありませんよ。
受け入れてくれたから好きなんじゃない…。
いつだってユーシアスは私を見てくれたから好きなんです。」
「……」
「って、こんな話興味ありませんよね。
帰って報告書を書きに行きましょう」
ヴィルテローゼが王城にむかって歩きだそうとした時、
ゼノは立ち塞がるようにして前に立った。
「?何ですか」
「……その、すみませんでした。」
「何が、でしょうか」
ヴィルテローゼはきょとんとした顔でこちらを見上げてくる。
「今までの発言についての謝罪です。
……あなたが今まで何を背負ってきたかも知らずに、
何回も失礼を…」
「……それは私が可哀想に見えたという同情でしょうか?」
「ちがっ……!!」
俯いた顔を上げると、ヴィルテローゼは怒るどころか笑っていた。
「え…?」
「冗談ですよ。意地悪なことを聞きました。
……剣聖になったけれど、別に悪いことばかりじゃなかったので。
案外聖女の遺跡には感謝してることもあるんです。
だからそんな顔なさらないで。謝罪を受け入れます」
先程無表情で人を何人も殺したと思えないほど、ヴィルテローゼは
聖母のような優しい顔で再度にこりと微笑んだ。
「……同情なんかじゃ、ありませんから。
何も知らないのに失礼なことを言ってしまったから、謝りたかったのです。」
いつになく真剣で苦しそうなゼノの顔を見て、ヴィルテローゼは目をぱちくりとさせる。
「お優しいですね。
いえ…純粋と呼ぶべきでしょうか。
私があなたの立場なら絶対謝りませんけど。」
「え!?」
純粋だとか私なら謝らないとか、予想していた反応とは
かけ離れたことを言われてゼノは顔をぎょっとさせた。
「私の事なんて放っておいたらいいのに素直に謝れる
あなたは純粋ですわね。
女性関係では純粋とは呼べなさそうですが」
「うっ……、それを言われると痛い……」
ヴィルテローゼがふざけるように笑ったので、それにゼノも笑う。
「悪い人ではないようですし、これからも私の補佐としてよろしくお願い致します。
ゼノ」
初めて名前を呼ばれ、ゼノは大きく目を見開き、
差し伸べられた手を気恥しく握った。
「……はい」
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