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第六十九話 おしどり夫婦の噂(3)
しおりを挟む「あー、えっとすみません、お邪魔…でしたねぇ」
ものすごく入りづらそうに執務室に入ってきたのは予想通りゼノだった。
そして顔を青ざめさせた後、声にならない悲鳴を上げると、
上にのしかかっているユーシアスを突き飛ばした。
「い、いえいえ!!(?)
執務室でがっつくこの人が悪いのでお気になさらずに!!」
自分で何を言っているのかわからなくなりつつも必死に誤魔化した。
「し、仕事を再開しましょう!
ユーシアスも戻って下さい!」
「…お預けを食らわさせると後で痛い目を見ることを忘れるなよ」
「ひえ…」
いきなり突き飛ばしたのが気に入らなかったのか、ユーシアスはムスッとした顔で執務室を
去ろうとする。
そして作り笑いのような笑みで微笑み、
「すまんかったな」とだけゼノに言って出ていった。
「まったく…」
露になった胸元のボタンを閉めながらため息をついた。
「これ、追加書類です。」
「こ、コホンっ…。どうも」
「…驚きました」
書類に目を向けることでさっさと誤魔化そうとしたのに、
触れられたくないものに触れられ、肩がビクンと跳ねた。
「…そりゃ執務室であんなの見ちゃったら、驚きますね」
「そうじゃなくて、きちんと求める、求られる関係…ってことにです。
アレじゃ最後までいってますよね?」
そういう手の会話になると思っていなかったので、うっと顔をしかめて見せた。
「…ご想像にお任せします。」
「案外顔に出やすいんですねー。
団長ってかなり独占欲とか強めでしょ?嫌になりませんか?」
仕事中に何の話をしているのやら…と呆れるが、適当に答えておかないと
面倒くさそうな事になりそうだ。
「別に。嫌だなんてただの一回も思ったことありませんよ」
頬杖をついてフッと微笑んだ。
ゼノはいつも聡明で厳しい上官が、好きな人のことになると綺麗に微笑むため、
いくつかの質問をしようと考えた。
「ユーシアスの望むままにしたくなるんです。
抵抗しても不思議とね」
……何かとんでもないことを言った気がするが、
さあ仕事仕事と言うセリフで誤魔化した。
「ただ真面目な人かと思ってたけど、団長の前ではあんな顔するんだ…」
ボソリと呟いたゼノの声が聞き取れなくて、「どうかしましたか」と尋ねるが
首を振られたため何も聞かないことにした。
「……団長のどこが好きなんですか」
からかうような台詞を言っていいるも、ゼノは手を動かし、
顔はふざけてはいないが真剣でもないという複雑な表情をしていた。
それに手を動かしながら答える。
「色々ありますけど、剣聖だった私を受け入れて入れたところです。」
「受け入れてくれれば団長でなくてもよかったんですか」
そしてそれにまた微笑む。
「ユーシアス以外が私を受け入れる?
冗談言わないで下さい」
そういった所で執務室の任務出動を伝えるベルが鳴る。
「見たらすぐわかります。
行きましょうか」
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