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第六十六話 おしどり夫婦の噂(1)
しおりを挟む「ありがとう、やっぱりロゼの作る料理は世界一だな」
「あら嬉しい。そんなこと初めて言われました」
おいしいと言われても「世界一」とまでは言われたことがないため、
嬉しそうに頬を染めてしまった。
「…ゼノに不必要に絡まれたら側近を変えることも考えるが…、
今日一日大丈夫だったか」
「はい。最初は何でこんな人が…って思いましたけれど、
仕事の腕はすごくて…細かいこととかも全部覚えてるみたいですね。
剣の腕もすごいとシアンさんから聞きました。
中佐止まりなのが不思議なぐらいです」
「ああ。すまないな、出来ればゼノはロゼの側近には付けたくなかったんだが…」
「騎士団長のあなた様が恋人のために私情を通す訳にはいけないことぐらいわかります。
大丈夫ですから」
そうほほ笑むとユーシアスも苦笑いを返した。
「性格はあんなだけど、優秀な奴なんだ。
ゼノのこと、部下としてよろしくな。」
「ええ。…部下として、ね?
知ってましたけどユーシアスって独占欲がお強いみたいですね」
ふふっと口元を抑えてほほ笑んだ。
独占欲が強いのは愛されている証とも言えるが、止めるまで夜寝ない
お返しだというように、いたずらに微笑んだ。
「いけないか?」
「いいえまったく。でも歯形をつけられるのはちょっと痛いかも…」
「す、すまない…」
歯形をつけられることが痛くとも、まるで「自分のものだ」と独占されているみたいで
全然かまわないし、むしろ嬉しいが、これはいつものお返しだ。
もう少しからかってみようとにっこり笑った。
それに騎士団じゃあんなにしっかりして、人を寄せ付けないユーシアスがからかっているときは
まるで主人に怒られた子犬のような顔をするのだ。
それが少し自分だけしか知らない顔…のような優越感があり、それが少し楽しいのだ。
「それに、もう少し寝て欲しいのにあなた私が止めるまで止めてくれないじゃいですか」
これはからかい三割、真剣七割だ。
ユーシアスは剣聖と違って体は普通の人間なのだ。
だからもう少し休んで欲しいと思っているのに、なかなか休もうとせず、
やつれるどころか朝にはツヤッツヤの顔をしてくま一つない。
だがだからと言って休まなくていいい理由にはならない。
「それは…ロゼは寝れないから一人にしておけないし…」
ユーシアスがさらにしょぼーんとした顔をする。
もう頭にはしょぼくれた犬の耳が見えるようだ。
うっ…と怒るのに気が引けるも、ちゃんと休んでもらわなければこちらが不安なのだ。
それに「一人にしておけない」なんて言うのはずるい。
「私はユーシアスの寝顔を眺めるのも至福の時だからいいんです!」
「…ほう。じゃあ今日は寝顔を見れないようにしてやる」
…しまった、怒るどころかスイッチを入れてしまったことを猛烈に後悔した。
何でこうなったのだろうか。ちゃんと寝なさいがどうやってやったら今夜寝かさないぞに
なるのやら…。
「ロゼ」
「な、なに…おわっ!?」
カウンター席で話していたのに、反省点を考えている間に
テーブルに座らされていた。
「ちょ、待って…!」
「俺をからかってしつけるみたいにするのは楽しかったか?
まあ楽しそうなロゼが見られたからいいが…俺が"待て"が出来ない犬なのは知っているだろ?
待っては聞かない」
鋭い目に、ユーシアスのこの目に見つめられると、逆らえないというか、
なすがままにされたい…と思ってしまう。
抵抗するようにユーシアスの肩を掴んでいたが、その手を下してしまった。
「…いい子だ」
ユーシアスは待てが出来ない犬…などと言ったがしつけられているのは
こちらな気がしてくる。
まるで逃がさないと言われるような瞳に見つめられると、何も出来なくなってしまのだ。
ボタンがいくつか外されて行き、ユーシアスが首に顔をうずめてくるのに、
体がピクンと跳ねた。
「…歯形をつけられるのは、痛いんだったな」
「ううん…」
顔がポーッとして、首を振った。
「ユーシアスが、つけてくれるものなら何だって嬉しい…。」
「…あまり煽らないで欲しいんだが」
ユーシアスの首にするりと手を回した。
「さっきはからかっただけ…。
でもね、きちんと休んでくれないと…不安なの。」
「…わかった。でも、嫌なら言ってくれよ?
ロゼを傷つけることだけは、絶対しないから」
この言い方ではまるで嫌なことへの言い訳だというように聞こえてしまったかな…
と思うが、気遣ってくれる、そういうところが好きだなとほほ笑んだ。
「嫌なら嫌って言うわ。
そんなこと思ったことないけどね。
心配してるけけど、そ、それと同じくらい…滅茶苦茶にされるのも好きだし…」
「…どれだけ煽れば気が済むんだまったく…」
怒ったようにユーシアスに体を持ち上げられる。
「部屋でしよう。本当に今夜は寝ないからな」
「さっきの話聞いてた!?」
「今日はロゼが悪い…。明日からきちんと休むから」
「…しょうがないなぁ」
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