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第六十五話 ゼノ・リフレインという男(2)
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ゼノはラビリムに体を持ち上げられ、
何が起きたか分からないというように体をジタバタとさせた。
それにハッとする。若干ざまあみろと思いながらも。
「ら、ラビさん。下ろしてあげて下さい」
「……ム」
苦笑いをするとラビリムはゼノを下ろした。
「やぁんねぇ~、上司に突っかかるんじゃないわよォ」
ラビリムのガタイの良さで気がつかなかったが、
後ろからシアンも出てくる。
「あ、シアンさ…」
と言いかけた所でハッと口を抑えた。
「……そう言えばお二人の真名をお聞きしてませんでした。
失礼をお許しください」
「うーん、でも呼びにくくないかしら?
私もラビリムも元は孤児だったから、名前は変わらないのよね。
一応シアン・べリディアって名前があるから、お仕事の際はべリディア卿って呼んでね。」
「承知しました。ラビさんは…」
ラビリムの方を向くと、ぶんぶんと首を振られる。
「…ええと、ではラビさんもそのままで!お仕事の際はジャッカロープ卿とお呼びしますね」
「ム」
「…ローア…ヴィルテローゼ、ゼノも悪い奴じゃないのよ。
何でこんな奴が…って思ったかもだけど、これでも剣の腕も仕事の腕も確かだから選ばれてるの。
女癖は最悪だけど」
やはりそれはかなり認知が高いことなのだな、と少し呆れるも
貴族の権力やらで中佐という位にいるわけではないらしい。
「し、師範!そういうことを言うのはよして下さい!」
「師範?」
「一応剣の師匠なのよ、ゼノのね。
私がヴィルテローゼの話しちゃったから拗ねてちょっとおいたが過ぎたみたいだけど。
案外かわいい所もあるけど、これからも突っかかってくるようならビシバシこき使ってやってね。
じゃあ私たちはここで」
それだけ言うとシアンとラビリムは去っていってしまう。
女性との問題は色々ありそうだが、シアンが言うのならば一応はちゃんとした人間
のように思える。
それにシアンがゼノのことを話しているときのゼノの顔といったら
先程のすまし顔とは大違いで顔を赤くしていた。
まるで思春期の子供のようだ。
「案外シアンさんの前じゃお可愛いんですね。
さて、私達も仕事に行きましょうか。側近殿」
そう言ってクスリと笑うとゼノは眉間にしわを寄せて若干ご機嫌斜めな顔になる。
「女の子に可愛いって言われるのはちょっと…。」
「女の子、ですか。これでも大佐ですけれど」
「いや…ぶっちゃけいくつなんですか」
「今年で十七です」
「は!?…年下の女の子に突っかかって馬鹿みたいだ…」
「年下の女の子扱いされる筋合いはありませんよ。」
ちゃんとした騎士団員のようだがやはり上官と女の子の区別はあるべきだろう。
ゼノがいくつかは知らないが、さほど年も変わらない気がするとはいえ…
上官としての威厳も必要ではある。
「はいはい」
「返事は一回」
「おかたいな~…。そんなんじゃ彼氏できませんよ?」
「貴族階級であるのに彼女が何人もいるほうが問題でしょう。
それに、私を女の子扱いしてくれるのは一人で十分」
「彼氏?」
「婚約者です。」
ゼノの絡みを冷たくあしらいながら執務室に向かう。
「ここがネージュ卿の執務室です。
執務のほとんどはここでこなしていただくことになるかと」
「分かりました。ええと、本日は何を?」
「昨日の賊が出た森での戦闘の報告書の処理といくつかの書類の内容を確認しそれに
判をお願いしまーす」
「分かりました、資料をこちらに」
「終わった…」
仕事が終わり、ユーシアスとの待ち合わせ場所に向かった。
まだユーシアスは来ていないようだ。
今日一日仕事をしていて、態度が気に入らない部分があるものの
ゼノ・リフレインという男は確かに有能だった。
何より要領が良く、普通の団員がいちいち記憶していないこまかな決まりなども
きちんと把握しており、中佐でとどまっているのが不思議な人材だと思ったぐらいだ。
「あれ、上官殿?まだいたんですか」
「お疲れ様です。待ち合わせをしていて…」
「女の子を待たせるのは感心しませんね~、おしゃべり相手になりましょうか」
まったくこいつは…と思うも抑える。こういう男は相手にしないのが一番なのだ。
「あの人は忙しい人ですから待つくらいなんともないんです。
それに、誤解でもされたら後で大変なことになりますから、あっちに行ってもらえます?」
「本当に真面目…」
と、ゼノが呆れた顔をしたとき、後ろからユーシアスが現れた。
「ユーシアス!お待ちしてました」
「へ?」
「すまないな、ロゼ。待たせたか?」
「今来たところです!帰りましょうか」
「ああ」
まぬけな顔をしているゼノを無視してユーシアスにぱあっとほほ笑んだ。
「今晩は何を作ろうかな…少し寒いのでシチューはいかがですか?」
「ロゼの作る料理はどれも絶品だからな。何でもいいよ」
「何でもいいよ~が一番困るんですが…ほめていただいたので許します♪」
そしてゼノを無視してユーシアスの腕に抱き着き、「えへへ」とほほ笑んだ。
「帰ろうか」
「うん」
「…まさか団長の女だったとは…。案外やるじゃんあの人…。
奪ってやった時の団長の顔が楽しみっすね~」
何が起きたか分からないというように体をジタバタとさせた。
それにハッとする。若干ざまあみろと思いながらも。
「ら、ラビさん。下ろしてあげて下さい」
「……ム」
苦笑いをするとラビリムはゼノを下ろした。
「やぁんねぇ~、上司に突っかかるんじゃないわよォ」
ラビリムのガタイの良さで気がつかなかったが、
後ろからシアンも出てくる。
「あ、シアンさ…」
と言いかけた所でハッと口を抑えた。
「……そう言えばお二人の真名をお聞きしてませんでした。
失礼をお許しください」
「うーん、でも呼びにくくないかしら?
私もラビリムも元は孤児だったから、名前は変わらないのよね。
一応シアン・べリディアって名前があるから、お仕事の際はべリディア卿って呼んでね。」
「承知しました。ラビさんは…」
ラビリムの方を向くと、ぶんぶんと首を振られる。
「…ええと、ではラビさんもそのままで!お仕事の際はジャッカロープ卿とお呼びしますね」
「ム」
「…ローア…ヴィルテローゼ、ゼノも悪い奴じゃないのよ。
何でこんな奴が…って思ったかもだけど、これでも剣の腕も仕事の腕も確かだから選ばれてるの。
女癖は最悪だけど」
やはりそれはかなり認知が高いことなのだな、と少し呆れるも
貴族の権力やらで中佐という位にいるわけではないらしい。
「し、師範!そういうことを言うのはよして下さい!」
「師範?」
「一応剣の師匠なのよ、ゼノのね。
私がヴィルテローゼの話しちゃったから拗ねてちょっとおいたが過ぎたみたいだけど。
案外かわいい所もあるけど、これからも突っかかってくるようならビシバシこき使ってやってね。
じゃあ私たちはここで」
それだけ言うとシアンとラビリムは去っていってしまう。
女性との問題は色々ありそうだが、シアンが言うのならば一応はちゃんとした人間
のように思える。
それにシアンがゼノのことを話しているときのゼノの顔といったら
先程のすまし顔とは大違いで顔を赤くしていた。
まるで思春期の子供のようだ。
「案外シアンさんの前じゃお可愛いんですね。
さて、私達も仕事に行きましょうか。側近殿」
そう言ってクスリと笑うとゼノは眉間にしわを寄せて若干ご機嫌斜めな顔になる。
「女の子に可愛いって言われるのはちょっと…。」
「女の子、ですか。これでも大佐ですけれど」
「いや…ぶっちゃけいくつなんですか」
「今年で十七です」
「は!?…年下の女の子に突っかかって馬鹿みたいだ…」
「年下の女の子扱いされる筋合いはありませんよ。」
ちゃんとした騎士団員のようだがやはり上官と女の子の区別はあるべきだろう。
ゼノがいくつかは知らないが、さほど年も変わらない気がするとはいえ…
上官としての威厳も必要ではある。
「はいはい」
「返事は一回」
「おかたいな~…。そんなんじゃ彼氏できませんよ?」
「貴族階級であるのに彼女が何人もいるほうが問題でしょう。
それに、私を女の子扱いしてくれるのは一人で十分」
「彼氏?」
「婚約者です。」
ゼノの絡みを冷たくあしらいながら執務室に向かう。
「ここがネージュ卿の執務室です。
執務のほとんどはここでこなしていただくことになるかと」
「分かりました。ええと、本日は何を?」
「昨日の賊が出た森での戦闘の報告書の処理といくつかの書類の内容を確認しそれに
判をお願いしまーす」
「分かりました、資料をこちらに」
「終わった…」
仕事が終わり、ユーシアスとの待ち合わせ場所に向かった。
まだユーシアスは来ていないようだ。
今日一日仕事をしていて、態度が気に入らない部分があるものの
ゼノ・リフレインという男は確かに有能だった。
何より要領が良く、普通の団員がいちいち記憶していないこまかな決まりなども
きちんと把握しており、中佐でとどまっているのが不思議な人材だと思ったぐらいだ。
「あれ、上官殿?まだいたんですか」
「お疲れ様です。待ち合わせをしていて…」
「女の子を待たせるのは感心しませんね~、おしゃべり相手になりましょうか」
まったくこいつは…と思うも抑える。こういう男は相手にしないのが一番なのだ。
「あの人は忙しい人ですから待つくらいなんともないんです。
それに、誤解でもされたら後で大変なことになりますから、あっちに行ってもらえます?」
「本当に真面目…」
と、ゼノが呆れた顔をしたとき、後ろからユーシアスが現れた。
「ユーシアス!お待ちしてました」
「へ?」
「すまないな、ロゼ。待たせたか?」
「今来たところです!帰りましょうか」
「ああ」
まぬけな顔をしているゼノを無視してユーシアスにぱあっとほほ笑んだ。
「今晩は何を作ろうかな…少し寒いのでシチューはいかがですか?」
「ロゼの作る料理はどれも絶品だからな。何でもいいよ」
「何でもいいよ~が一番困るんですが…ほめていただいたので許します♪」
そしてゼノを無視してユーシアスの腕に抱き着き、「えへへ」とほほ笑んだ。
「帰ろうか」
「うん」
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