ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
64 / 128

第六十五話 ゼノ・リフレインという男(2)

しおりを挟む
ゼノはラビリムに体を持ち上げられ、
何が起きたか分からないというように体をジタバタとさせた。
それにハッとする。若干ざまあみろと思いながらも。

「ら、ラビさん。下ろしてあげて下さい」
「……ム」

苦笑いをするとラビリムはゼノを下ろした。
「やぁんねぇ~、上司に突っかかるんじゃないわよォ」

ラビリムのガタイの良さで気がつかなかったが、
後ろからシアンも出てくる。
「あ、シアンさ…」

と言いかけた所でハッと口を抑えた。

「……そう言えばお二人の真名をお聞きしてませんでした。
失礼をお許しください」
「うーん、でも呼びにくくないかしら?
私もラビリムも元は孤児だったから、名前は変わらないのよね。
一応シアン・べリディアって名前があるから、お仕事の際はべリディア卿って呼んでね。」
「承知しました。ラビさんは…」

ラビリムの方を向くと、ぶんぶんと首を振られる。
「…ええと、ではラビさんもそのままで!お仕事の際はジャッカロープ卿とお呼びしますね」
「ム」
「…ローア…ヴィルテローゼ、ゼノも悪い奴じゃないのよ。
何でこんな奴が…って思ったかもだけど、これでも剣の腕も仕事の腕も確かだから選ばれてるの。
女癖は最悪だけど」

やはりそれはかなり認知が高いことなのだな、と少し呆れるも
貴族の権力やらで中佐という位にいるわけではないらしい。

「し、師範!そういうことを言うのはよして下さい!」
「師範?」
「一応剣の師匠なのよ、ゼノのね。
私がヴィルテローゼの話しちゃったから拗ねてちょっとおいたが過ぎたみたいだけど。
案外かわいい所もあるけど、これからも突っかかってくるようならビシバシこき使ってやってね。
じゃあ私たちはここで」

それだけ言うとシアンとラビリムは去っていってしまう。

女性との問題は色々ありそうだが、シアンが言うのならば一応はちゃんとした人間
のように思える。
それにシアンがゼノのことを話しているときのゼノの顔といったら
先程のすまし顔とは大違いで顔を赤くしていた。
まるで思春期の子供のようだ。

「案外シアンさんの前じゃお可愛いんですね。
さて、私達も仕事に行きましょうか。側近殿」

そう言ってクスリと笑うとゼノは眉間にしわを寄せて若干ご機嫌斜めな顔になる。

「女の子に可愛いって言われるのはちょっと…。」
「女の子、ですか。これでも大佐ですけれど」
「いや…ぶっちゃけいくつなんですか」
「今年で十七です」
「は!?…年下の女の子に突っかかって馬鹿みたいだ…」
「年下の女の子扱いされる筋合いはありませんよ。」

ちゃんとした騎士団員のようだがやはり上官と女の子の区別はあるべきだろう。
ゼノがいくつかは知らないが、さほど年も変わらない気がするとはいえ…
上官としての威厳も必要ではある。

「はいはい」
「返事は一回」
「おかたいな~…。そんなんじゃ彼氏できませんよ?」
「貴族階級であるのに彼女が何人もいるほうが問題でしょう。
それに、私を女の子扱いしてくれるのは一人で十分」
「彼氏?」
「婚約者です。」

ゼノの絡みを冷たくあしらいながら執務室に向かう。

「ここがネージュ卿の執務室です。
執務のほとんどはここでこなしていただくことになるかと」
「分かりました。ええと、本日は何を?」
「昨日の賊が出た森での戦闘の報告書の処理といくつかの書類の内容を確認しそれに
判をお願いしまーす」
「分かりました、資料をこちらに」

「終わった…」
仕事が終わり、ユーシアスとの待ち合わせ場所に向かった。
まだユーシアスは来ていないようだ。

今日一日仕事をしていて、態度が気に入らない部分があるものの
ゼノ・リフレインという男は確かに有能だった。
何より要領が良く、普通の団員がいちいち記憶していないこまかな決まりなども
きちんと把握しており、中佐でとどまっているのが不思議な人材だと思ったぐらいだ。

「あれ、上官殿?まだいたんですか」
「お疲れ様です。待ち合わせをしていて…」
「女の子を待たせるのは感心しませんね~、おしゃべり相手になりましょうか」

まったくこいつは…と思うも抑える。こういう男は相手にしないのが一番なのだ。

「あの人は忙しい人ですから待つくらいなんともないんです。
それに、誤解でもされたら後で大変なことになりますから、あっちに行ってもらえます?」
「本当に真面目…」
と、ゼノが呆れた顔をしたとき、後ろからユーシアスが現れた。

「ユーシアス!お待ちしてました」
「へ?」

「すまないな、ロゼ。待たせたか?」
「今来たところです!帰りましょうか」
「ああ」

まぬけな顔をしているゼノを無視してユーシアスにぱあっとほほ笑んだ。
「今晩は何を作ろうかな…少し寒いのでシチューはいかがですか?」
「ロゼの作る料理はどれも絶品だからな。何でもいいよ」
「何でもいいよ~が一番困るんですが…ほめていただいたので許します♪」

そしてゼノを無視してユーシアスの腕に抱き着き、「えへへ」とほほ笑んだ。
「帰ろうか」
「うん」

「…まさか団長の女だったとは…。案外やるじゃんあの人…。
奪ってやった時の団長の顔が楽しみっすね~」
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

処理中です...