ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

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第六十一話 剣聖と騎士団(3)

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「…んなことてめえに言われるでもなく
分かってんだよ。
ただこの帝国の犬だった俺らに誰も責める資格はねえよ。
この怒りを誰かにぶつけるべきじゃないこともな分かってる。」

怒りを誰かにぶつけようとすればするほど、自分は醜くなって行く。
それがたまらなく胸を苦しめた。
ハヤテの言う通り剣聖はこの帝国の犬に成り下がってただ言うことを聞いていただけ、
騎士団はそれが当たり前のように振る舞い、剣聖を化け物扱いし続けた。
帝国は帝国で剣聖を人殺しの道具としてしか扱わず、歴史は変わらず。

結局は皆何もしなかったからこうなっているのだ。
だから、それを今変えようとしてくれた彼の、ユーシアスの話を聞きたい。

「なら、今それを変えようとここに立っているユーシアス・ヒルデの話を
聞きましょう。どうするかはその話を聞きてからでも、いいんじゃないですか?
皆が悪かったのなら皆でやり直せばいい。私は剣聖として、騎士団としてでなく
皆同じ立場でやり直していきたい。
そうすれば、もう誰も…ぶつけようのない感情を持つことはありませんから」

「…お前の言うことはもっともだ。
…最後まで話を聞こう。俺だって…これ以上同じ思いをする剣聖は
増えて欲しくない。
悪かったな、団長、ローアン。」

ハヤテが素直に謝ったのでユーシアスが目をぱちくりとさせた後、
微笑んだ。

「はい。では続きをお話いたします。」
「お願いいたします。戻りましょうハヤテ」

ハヤテと共に二階席に戻った。

「騎士団の一員となる…という話ですが
これは強制ではありません。除隊という形で剣聖を辞めるという選択肢も
ございます。
そして剣聖制度の廃止につきまして、剣聖の皆様方には剣聖になったと同時に
つけられた名がおありだと思いますが、その名を名のならなくても良い…とのお許しも
得ています。
そして騎士団の今までの振る舞い、まことに申し訳ございませんでした…。
謝って許されることでないのは承知ですが、これから騎士団が剣聖の皆様を
蔑むことは一切ございません。どのような任務でも決して剣聖の皆様に頼ることなく、
足手まといにならぬように訓練の強化、精進して参ります。
ですからどうか…どうかこの帝国の剣として共に歩むことをお許し願えないでしょうか!!」

ユーシアスのまっすぐな目が、十三人の剣聖を見つめた。
同じ帝国の剣として、同じ仕事をして共に歩んでいく…
剣聖と騎士団はかけ離れた存在であるとされていたのにそれが今同じになろうとしている。

「…私は賛成するわ。この窮屈な職から解放されるなら本望よ。
それに謝罪するのはこちらも同じ、何回もあなたがたを怖がらせ、威圧的な態度を
取ったこともあったわ。その償いってわけじゃないけれど、
できるなら共存していきたい…。
急に化け物扱いを止めるっていうのは無理かもしれないでしょうから、
一緒に仕事をする中で私達がどういう人間なのか知って行って欲しいと望みます」

シアンがユーシアスに微笑み、立ち上がる。

「で、あんたたちはどうするの?
抜けても良いって話はあるから抜けるのも一つの手よ。
どっちにしろ手を血で汚す仕事には変わりないもの。」

確かにそれもそうだった。
騎士団の一員になるにしろ環境が変わるだけで仕事が変わるわけではない。
まだ苦しい思いもぶつかりあいもあるかもしれない。
でも、それはそれでいいんじゃないかと…そう思う。

シアンに続いて立ち上がった。
「残りますよ。それにお願いするのはこちらも同じ。
共に歩むことをお許しくださいな」

そうして、十三人全員が立ち上がり、賛成の意思を示す。

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