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第五十七話 休日の木曜日(1)
しおりを挟むすやすやと寝息をたてるユーシアスに抱き着きながら思ったことがある。
そういえば、ハヤテにかなり前、ユーシアスを想うのは後から後悔する…みたいなことを言われたことがある。
あれはいったいどういう意味だったのだろうか。
確かに騎士団が剣聖を良く思っていないことは理解しているつもりだ。
だからといってユーシアスは騎士団長、自分は一応貴族であるため
貴族間の政略結婚だと思わせることなど簡単なはずだ。
なのに後悔する…というのはどういう意味なのか。
ハヤテの性格上、少しばかり後ろ指を指されるくらいで心配の一言を
かけられるとも思えない。
まだ知らない何かがあるというのか…。
だが今はそんなことを考えたくはなかった。
今幸せなのなら不幸を見つける必要はない。
もう少しユーシアスの寝顔を堪能しようと、ユーシアスの顔を見ようと
顔を上げた時だった。
「…おはようロゼ」
「!…いつから、起きていたんですか」
「ロゼが抱き着いてきたあたりから」
「そういうのは最初から見てたっていうんです!!」
顔を赤らめ飛び起きた。
フンとそっぽを向き、立ち上がろうとした時だった。
「…いたっ!」
ズキンと腰の痛みが現れ、ベッドから立ち上がれない。
「…今日は店を休みにした方がよさそうだな。
closeの看板をかけてくる。」
「…すみません。じゃあこの紙も一緒に」
机に置いてあった紙にペンで「誠に勝手ながら体調不良のため本日お休みにさせていただきます」
と書いた。
「わかった」
ユーシアスが階段を下りていき、はあ…とため息をついた。
別に初めてだからといって痛い…というのはそこまでなかったものの、
おそらくかなり激しかったため、腰を痛めたのだろう。
これは今日の剣聖の仕事もいけそうにない。
「…ロゼ、腰が痛むか」
「まあ…かなり」
「すまない。…やはり無理をさせたか」
「いえ。別に痛かったわけじゃないですから…」
それはそうと、気になったことがある。
お互い初めてならぎこちなさやためらいが生まれてしまうようなイメージがあるが、
昨晩のユーシアスの手つきや色々としたものがあまりにもスムーズだった。
もしや、手慣れているのではないか…とユーシアスが寝ている間何回も思った。
少し下世話な話になるため、聞いて引かれないか心配だが、やはり気になるという気持ちが
勝ってしまった。
「…ねえ、ユーシアス」
「何だ?」
「その…ユーシアスは、私が初めてじゃないですよね?
何だか…手慣れているようでしたし」
「…何を言っている、ロゼが初めてだぞ。
それに手慣れているなんて馬鹿を言うな。あれはロゼに痛い思いを
させることが一度もないように散々考えたんだから」
そういうことをサラッと言うからこの男は…とため息をつく。
「何だ、嘘だと思っているのか?」
「ユーシアスは私に嘘や冗談は言わないんですもんね。
だったら信じますけど。それと…ありがとう。
でも激しすぎて一日休まなきゃいけなくなりましたね」
と、いたずらっ子が笑うように笑った。
「それは悪かったって…。
今日は一日休んでいてくれ」
「そうしま…ってユーシアス、あなた何で同じベッドに入ってこようとしてるの。」
「俺も一応けが人だからな」
「嘘!昨日全部見ましたけど、大した傷残ってなかったじゃないですか!
あらかた治癒魔法で治ってる癖に…。
ていうか、お仕事はいいんですか?」
「陛下から三日休みをもらっている」
「そう…って、だから何でベッドに入って来るの!」
ユーシアスをポカポカと叩いてベッドからそうとするが、
あっさり腕を掴まれ、ベッドに押し倒される。
「…!?朝っぱら何してるんですか!」
「少しだけ」
「キスマークなら昨日散々つけ…んっ」
ユーシアスが首に吸うようなキスをしてくるから、びくりと体を震わせた。
「ちょ、ちょっと…!」
そういったところで、部屋のノックが鳴る。
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