ヒロインに剣聖押し付けられた悪役令嬢は聖剣を取り、そしてカフェを開店する。

凪鈴蘭

文字の大きさ
上 下
54 / 128

第五十五話 沈んで沈んで眠れない(2)

しおりを挟む


「……罪悪感だと?」

ユーシアスの声色が少し濁ったのに、ビクンと肩を震わせた。

「…すまない。
あぁ、どうすれば伝わるんだ……。」

ユーシアスはくしゃりと髪ををかき、それから
キッと真剣な目で見つめてきた。

「罪悪感な訳があるか。
ロゼには、俺がそんな人間に見えたか。」
「…ちがっ、違います……。
ユーシアスは、優しくて……いつも剣聖の私達に申し訳なさそうにしていたから……っ」
「言っただろう。俺は冗談は言わないし
お前が何人も殺した剣聖でも、公爵令嬢でも、カフェの店長でも気持ちに変わりはない。ずっと好きだったんだ。」

彼の言うずっととは、いつからなのか。
でもそんなことはどうでもよくなるぐらい、今は彼の言葉に溺れていたい。

「…ほんとうに?」
「何回も言わせてくれるな。
……それに、ずっと前からロゼが隠してるつもりのことは
知っていたからな。」

そう言ってユーシアスは額に口付けてくる。
それに心がフワフワとして落ち着かない…が、
「隠していたつもりのことは知っていた」という言葉に一度冷静になる。

「…ん?」
「何だ」
「ちょ、ちよっと待って。
……ずっと前からって、いつからですか」

「ん~?」

呆然として固まった体をヒョイと持ち上げられる。
そして隣にあったベッドに体を降ろされた。


「……ずっと前からだよ」

ベッドに押し倒され、足にユーシアスが口づける。
それでは答えになっていない!!と反論したくなったが、
足への口付けで、ハッとする。

「いつか皇后となるあなたにも、一生の忠誠を」そう
三年前にユーシアスがまだ次期皇后だった自分の足に、
手当をし口付けた。

「…ちょっ、それ三年前!!」
「何か問題あるか」
「なっ、なくもないじゃないですか!」
「だったら何だと言うんだ。」
「そんなに前から……ってことは、ずっと前から、
私もがカフェの店長を始めた初日から気がついてたってことですか!?」

わなわなと体を震わせ、押し倒された姿勢のまま
ユーシアスを見つめた。

「そうだな。」

……ということは、今まで剣聖でいる時わざと冷たい態度を取ったりして、別人と思わせる演技も、いつバレるか心配していた時間が、
完璧に無駄だったという結論にいたる。

「はぁ!?
今まで悩んだ時間も、剣聖でいる間の演技も無駄だったってことですか!?」

「剣聖の時はいつバレるかハラハラしていて可愛かったし、
何よりロゼが悩んでくれなければ今にいたっていないだろう。
決して無駄な時間ではない。」
「……そう言われると、反論できません。」

さすがに三年前から想われていたのには驚いたが、
彼の愛が執着でも依存でも自分の気持ちが変わることは無いのだから、それもいいだろう。

顔を赤くして口ごもると、ユーシアスがふっと微笑んで、
今度は口に口付けてこようとする。

だがそれを避け、ユーシアスの首に手を回した。

「……好きです、ユーシアス。」

耳元で囁くと、ユーシアスの耳が真っ赤に染まったのが見えた。
さっきまで余裕をかましていた人間がこうも照れていると、
少し笑えてくる。

「……まだ伝えていませんでしたので。」
「……言っておくが、俺の気持ちは好きで留まらないからな。
三年間、見つめるだけで触れることも出来なかったから。」

「……じゃあその分今日はいっぱい、触れてくれますか?」
「あまりそういう事を言われると寝かしたく無くなるのだが」
「それは、ちょっと困りましたね…。」
「待ったはナシだからな。」

そう言われて何回も唇を重ねた。

これが依存でも執着でも何でもいい。
その想いが苦しくて、沈んで沈んで、眠れない。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

処理中です...