53 / 128
第五十四話 沈んで沈んで眠れない(1)
しおりを挟む店の前にいた人物を見て、目を見開く。
「ゆー、しあす…?」
「びしょ濡れじゃないか…!!馬車で帰ってこなかったのか!?」
カタカタと震えた自分に対して、ユーシアスはただ心配してくれている表情。
それに驚きを隠せない。
どうして、どうしてそんなに心配をしてくれるのだろうか。
剣聖なのも公爵令嬢なのもバレて、おまけに服は血だらけ。
普通はギョッとしそうなものなのに、
なのに何故、本気で心配してくれる顔が出来るのだろうか。
「怪我はないか…?
それにその格好では風邪を引く。
早く中に…」
唖然としている中手を引かれ、ハッとして手を振り払った。
「…ロゼ?」
「…して、どうして、なんですか。
朝ので全部、分かったんでしょう?
私は剣聖で、公爵令嬢で、それをあなたに隠してて、
何回も嘘をついたのに…どうして、そんなにっ…!!
本気で心配してるみたいな、そんな顔……っ」
大雨の中、泣き叫んで顔を覆った。
一度は話そうと思った。だが話す前に知られてしまった。
話終わる前にバレてしまっては、離れていかれても引き止めることなど出来はしないと思っていたのに、まるで当たり前のように
待ってくれていた。
それに心配した声色、表情。
嬉しいはずなのに疑問をぶつけた。
「……話はお前が着替えてきてからにしよう。
風邪を引いてしまうぞ」
ユーシアスは顔を覆った手を握り、目を合わせると温かみがある
苦笑いをした。
それに胸が苦しくなって、何も言えぬまコクンと頷く。
「ここで待っているから浴槽があるなら浸かってきてくれ。」
そう言って席に座るユーシアスを赤く晴れた目でじっと見つめた。
「大丈夫だ、いなくなったりしないから。」
そう微笑んだユーシアスにまた頷き、浴槽へと向かった。
カフェの二階は自分の部屋や、物置、浴槽がある。
仕事で遅くなった時にはここで寝泊まりするため、たまに使用するのだ。
浴槽にチャポンと音を立てて浸かり、ぼんやりと天井を眺めた。
「……」
知っても尚、彼はそばに居てくれるというのか。
確かにシアンの言う通り、バレたところで離れていく人間ではなった。
だがいくら何でもカフェの店長に惚れたからと言って
剣聖であり公爵令嬢である人間も愛してくれるのか、
そばに居てくれるのか。
待ってくれていた時点で期待してしまう。
…が、浴槽から出たらされる話が、「大丈夫、受け止めるから」
という内容とはか限らない。
「なかったことにしてくれ」と言われてもおかしくない。
ここでネガティブになってもしょうがないが、怖くて聞きたくないという気持ちがモヤモヤと心中で蠢いていく。
こんなになるまで、こんな気持ちに悩ませられるほど
彼を好きだと気がついてしまったのだ。
だからこそ、募る不安は大きく膨らんで行く。
「…いっそ気が付かなければよかったのに。」
そうは呟くも、待たせすぎるのは宜しくない。
髪と体を洗い、服を着替え1階に降りた。
「…おまたせしました。……えっと、
ここで話すのもなんですし、二階にある部屋でお話をしたいんですけど…」
帰ってきて、ユーシアスがちゃんといた事に深く安心を覚える。
そしてカフェでする話でもないと思ったので、
二階にある自室に案内することにした。
「話は長くなりそうだし、助かる」
「…あ、怪我の方が大丈夫でなかったらここでも…」
「大丈夫だよ。」
二階で話そうと提案した時点で、「すぐに終わるからここでいい」
と言われたらどうしようかと思ったが、
ユーシアスはそれに微笑んで応じた。
二階にある自室の扉を開け、
お互いにソファーに腰を下ろす。
「…えっと」
と口をとりあえず開いたが、口を二、三回パクパクとさせて、
ぎゅっと唇を噛み、話す言葉に詰まってしまう。
「好きだよ」
ユーシアスが口を開き、その言葉にカチンと固まってしまった。
「…え?」
「ロゼが剣聖だろうが何だろうが公爵令嬢だろうが、
俺の気持ちは変わらんということだ。」
順序を追って話そうと思ったのに、不安が一気に紛れるような言葉を言われ、口をポカンとあける事しか出来なかった。
「…いいんですか、私……何人も人を……。
ユーシアスは、騎士団長だから……罪悪感を感じでそうやって、
言ってくれてるんでしょうか…?」
騎士団長であるユーシアスはいつも剣聖に申し訳なさそうにしていた。だから、罪悪感を感じでそう言ってくれたのかという
不安に襲われた。
0
お気に入りに追加
1,578
あなたにおすすめの小説

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる