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第五十四話 沈んで沈んで眠れない(1)
しおりを挟む店の前にいた人物を見て、目を見開く。
「ゆー、しあす…?」
「びしょ濡れじゃないか…!!馬車で帰ってこなかったのか!?」
カタカタと震えた自分に対して、ユーシアスはただ心配してくれている表情。
それに驚きを隠せない。
どうして、どうしてそんなに心配をしてくれるのだろうか。
剣聖なのも公爵令嬢なのもバレて、おまけに服は血だらけ。
普通はギョッとしそうなものなのに、
なのに何故、本気で心配してくれる顔が出来るのだろうか。
「怪我はないか…?
それにその格好では風邪を引く。
早く中に…」
唖然としている中手を引かれ、ハッとして手を振り払った。
「…ロゼ?」
「…して、どうして、なんですか。
朝ので全部、分かったんでしょう?
私は剣聖で、公爵令嬢で、それをあなたに隠してて、
何回も嘘をついたのに…どうして、そんなにっ…!!
本気で心配してるみたいな、そんな顔……っ」
大雨の中、泣き叫んで顔を覆った。
一度は話そうと思った。だが話す前に知られてしまった。
話終わる前にバレてしまっては、離れていかれても引き止めることなど出来はしないと思っていたのに、まるで当たり前のように
待ってくれていた。
それに心配した声色、表情。
嬉しいはずなのに疑問をぶつけた。
「……話はお前が着替えてきてからにしよう。
風邪を引いてしまうぞ」
ユーシアスは顔を覆った手を握り、目を合わせると温かみがある
苦笑いをした。
それに胸が苦しくなって、何も言えぬまコクンと頷く。
「ここで待っているから浴槽があるなら浸かってきてくれ。」
そう言って席に座るユーシアスを赤く晴れた目でじっと見つめた。
「大丈夫だ、いなくなったりしないから。」
そう微笑んだユーシアスにまた頷き、浴槽へと向かった。
カフェの二階は自分の部屋や、物置、浴槽がある。
仕事で遅くなった時にはここで寝泊まりするため、たまに使用するのだ。
浴槽にチャポンと音を立てて浸かり、ぼんやりと天井を眺めた。
「……」
知っても尚、彼はそばに居てくれるというのか。
確かにシアンの言う通り、バレたところで離れていく人間ではなった。
だがいくら何でもカフェの店長に惚れたからと言って
剣聖であり公爵令嬢である人間も愛してくれるのか、
そばに居てくれるのか。
待ってくれていた時点で期待してしまう。
…が、浴槽から出たらされる話が、「大丈夫、受け止めるから」
という内容とはか限らない。
「なかったことにしてくれ」と言われてもおかしくない。
ここでネガティブになってもしょうがないが、怖くて聞きたくないという気持ちがモヤモヤと心中で蠢いていく。
こんなになるまで、こんな気持ちに悩ませられるほど
彼を好きだと気がついてしまったのだ。
だからこそ、募る不安は大きく膨らんで行く。
「…いっそ気が付かなければよかったのに。」
そうは呟くも、待たせすぎるのは宜しくない。
髪と体を洗い、服を着替え1階に降りた。
「…おまたせしました。……えっと、
ここで話すのもなんですし、二階にある部屋でお話をしたいんですけど…」
帰ってきて、ユーシアスがちゃんといた事に深く安心を覚える。
そしてカフェでする話でもないと思ったので、
二階にある自室に案内することにした。
「話は長くなりそうだし、助かる」
「…あ、怪我の方が大丈夫でなかったらここでも…」
「大丈夫だよ。」
二階で話そうと提案した時点で、「すぐに終わるからここでいい」
と言われたらどうしようかと思ったが、
ユーシアスはそれに微笑んで応じた。
二階にある自室の扉を開け、
お互いにソファーに腰を下ろす。
「…えっと」
と口をとりあえず開いたが、口を二、三回パクパクとさせて、
ぎゅっと唇を噛み、話す言葉に詰まってしまう。
「好きだよ」
ユーシアスが口を開き、その言葉にカチンと固まってしまった。
「…え?」
「ロゼが剣聖だろうが何だろうが公爵令嬢だろうが、
俺の気持ちは変わらんということだ。」
順序を追って話そうと思ったのに、不安が一気に紛れるような言葉を言われ、口をポカンとあける事しか出来なかった。
「…いいんですか、私……何人も人を……。
ユーシアスは、騎士団長だから……罪悪感を感じでそうやって、
言ってくれてるんでしょうか…?」
騎士団長であるユーシアスはいつも剣聖に申し訳なさそうにしていた。だから、罪悪感を感じでそう言ってくれたのかという
不安に襲われた。
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