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第五十一話 知っているなら(1)
しおりを挟む報告書を素早く書き、大分疲れていたが、
店に戻った。
「いらっしゃいませ」
店のベルがなり、それに答える。
「ロゼ!」
「…お、お母様!?」
店に来たのが母のブレティラだった。
かなり忙しいはずなのに、何で…と唖然とした。
それに、痩せたのではないかと心配になるくらい少しやつれていた。
「あら、結構様になってるじゃないの!
うんうん、お店の店長…って感じ!」
「そりゃ、店を初めて時間も経ちますし、
実際店長ですからね。」
「うふふ、いきいきしてるみたいでお母さん安心しました。
好きな席に座っていい?」
自分の母親ながらかなり天然でかわいい…と思ってしまうことがある。
実際この人は十六歳がの娘がいるにしてはかなり若い方なのだ。
「どうぞ、お好きな席に」
「じゃあロゼが料理しているところがよく見えるこの席にしますね」
「はい。」
好きな席に座ってとは言ったものの、かなりじーっと見られているため、
少し気恥しい。
「えっと…卵サンドと野菜スープに、アールグレイをお願いします」
「かしこまりました」
朝のモーニングセットは仕込みを済ませてあるため、
すぐに出来上がる。
「お待たせいたしました。」
「…美味しそう…。いただきます!」
それから美味しそうに全てを食し終え、
紅茶を飲みながら母は聞いた。
「…お仕事の方は大丈夫?
無理していないかしら。」
「ええ、…慣れる、とは言いたくありませんが、最初の方に比べれば
落ち着いてはいます。」
「ごめんなさいね、ここでする話でないことも、
私の口からそんなことを聞かれたくない質問なのも分かっていますが、
私もあなたも忙しいから聞いておきたくって。」
カチャンとティーカップを机に戻すと、母は俯いてしまう。
「いいえ、今は誰もいませんし、かまいません。
それにお母様こそお痩せになりました。
私はお母様の方が心配ですわ。」
「私よりあなたの方が大変なのよ。
…ねえロゼ、良ければ色々お話を聞かせてはくれないかしら。」
母の目は不安で曇っていた。
安心させるためにも、少し話をした方が良さそうだ。
「はい。
えっと…剣聖の皆さまはとてもフレンドリーに接してくれて、
この店にもよく来てくれるんですよ。
お仕事は大変な時もありますけど、皆優しいから上手くやれてます。
このお店にも常連さんが何人かいて、お料理を褒めてもらえる度に、
ああお店を開いてよかったなって思うんです。」
母は優しく相づちを打って、嬉しそうに話を聞いてくれた。
自分が常日頃思っていることを聞いてもらえる相手は限られている。
だからこうして話せることが嬉しく感じる。
「それから私…好きな人ができたんです。」
そう言うと母は目をまん丸にして、三秒ほど固まってしまった。
「…驚きました。
ロゼがそんな話を私にするだなんて…」
「その…誰が好きだとかは、
また今度いたします。私、その方にまだ気持ちを伝えられていなくって…」
「そうなのですね。」
「先に気持ちを伝えてくれたのは私の好きな方なのですけれど…」
と、言ったところで店のベルが鳴る。
「ロゼ」
その声に驚くほど肩がビクンと跳ねたことが分かる。
「ゆ、ユーシアス…」
それに母が何かを察したように立ち上がった。
「…なるほどね。
ご馳走様でした。お代はここに置いていきますね」
「あ、もう行って、しまわれるのですか…」
「お邪魔にはなりたくないですもの。」
そして母はユーシアスに微笑み、
「ここ、良いお店ね。」
とだけ言い、そして出ていく。
「…すまない。タイミングが悪かっただろうか」
「い、いえ。大丈夫ですよ。
…いらっしゃいませ、ユーシアス」
そう言えることが、一日会えなかっただけですごく嬉しく
感じた。
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